アスベスト被害賠償、起算はがん診断日

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アスベスト(石綿)関連工場で働き、肺がんを患った80代の男性3人に対し、国が支払う損害賠償で利息に当たる遅延損害金(年5%)の起算時期が争われた訴訟の判決が9月17日、神戸地裁と広島地裁であった。いずれも「肺がんの診断を医師から受けた日」などと認定。診断時より遅い「労災認定時」とする国の主張を退け、救済の道を広げた。

これは、2019年3月12日の福岡地裁小倉支部の判決に続く、2、3例目。

なお、付記の通り、福岡地裁の判決の控訴審で、福岡高裁は「がんの確定診断日」を起算日とした。

付記 

北九州市の男性が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9月27日、福岡高裁であった。(下記)
高裁は一審の福岡地裁小倉支部の判決を一部変更し、遅延損害金の起算日を「肺がんの診断が確定した日」として、国に損害賠償の支払いを命じた。

上告期限となる10月11日、加藤厚生労働大臣は記者団に対し「判決内容を重く受け止め、ほかの損害賠償の起算の考え方などを総合的に判断した結果、今回は上告はしないことを決めた」と述べ上告しないことを表明した。

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アスベストによる健康被害を巡っては最高裁が2014年10月、大阪・泉南地域の訴訟で国の責任を認定 した。 

大阪府の泉南地域のアスベスト紡織工場の元従業員とその遺族89人が、規制の遅れで肺がんになったなどとして国に賠償を求めた2件の集団訴訟(大阪アスベスト訴訟第1陣、第2陣)で、最高裁第1小法廷は10月9日、規制権限を行使しなかった国の対応を違法とする判決を言い渡した。

1971年の粉じん排気装置の設置義務化に関し、裁判官5人全員一致の意見で、「健康被害の医学的知見が確立した1958年時点で規制すべきだった」とし、国の責任を認めた。

2014/10/10 アスベスト訴訟、最高裁 「国に責任」の判断

国は最高裁判決に基づき、1958年5月~1971年4月に石綿粉じんを吸う作業を担い、肺がんや中皮腫などの関連疾患にかかった患者側が訴訟を起こせば、和解して賠償金を支払う方針で、約1900人を対象に通知した。

アスベスト弁護団によると、発症原因が石綿と気付かずに労災申請が遅れ、認定まで時間を要するケースは多い。ある原告は2012年4月に肺がんの確定診断を受けたが、労災認定までに約3年を要した。

しかし、国側は存命中の患者との和解では「労災認定時」からの遅延損害金を提示した。深刻な病状の患者が生前の解決を望んで渋々和解する例もあり、「国は命を人質にして和解を迫っている」と反発の声が上がっていた。

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北九州市の70代男性は北九州市門司区の建材工場で1960~96年に勤務し、2008年9月に肺がんの疑いと診断され、2010年2月に労災認定を受けた。男性は労災認定を遅延損害金の起算日とする国に対し「労災認定前から闘病で苦しい思いをしてきた」として和解を選ばず、判決を求めていた。

福岡地裁小倉支部は2019年3月12日、賠償の利息にあたる遅延損害金の起算日を、請求通り肺がんの診断日とした上で、国に1265万円と遅延損害金の支払いを命じた。国側は労災認定を起算日と主張していたが、さかのぼって認定された。

弁護団によると、アスベスト国賠訴訟で遅延損害金の起算日を診断日とする司法判断は初めてで「同様の訴訟は全国で十数件あり救済に弾みがつく」と評価した。国は「判決内容を精査し、対応を検討する」とコメントした。

付記

北九州市の男性が国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が9月27日、福岡高裁であった。
高裁は一審の福岡地裁小倉支部の判決を一部変更し、遅延損害金の起算日を「肺がんの診断が確定した日」として、国に損害賠償の支払いを命じた。

国が病気と診断された日ではなく、労災と認定された日を基準に金額を決めているのは不当だとして、和解に応じなかったが、1審の福岡地方裁判所小倉支部は男性の訴えを認め、病気と診断された日を基準に金額を決めるべきだとして、国に対し、1265万円の賠償金と利息にあたる遅延損害金を診断日にさかのぼって支払うよう命じ、国が控訴していた。

福岡高裁は「肺がんの確定診断を受けた日に損害が発生したとみるのが相当である」として、利息にあたる遅延損害金は病気の診断を受けた日(癌の疑い)ではなく、およそ1か月後の手術で癌が確定した日を起点とした。

9月17日午前に、アスベスト(石綿)原因で肺がんを発症した患者2人が国に損害賠償を求めた訴訟で、神戸地裁は原告の請求通り 、国に2人にあわせて約2300万円の賠償を命じる判決を言い渡した。争点だった賠償金の利息に当たる遅延損害金(年5%)の起算日について原告の訴えを認めて「肺がんと診断された日」とし、「労災認定された日」とする国の主張を退けた。

患者2人は尼崎市の「クボタ」の工場で石綿関係の仕事に従事し、肺がんを発症した。このうち、一人は1964~65年に尼崎市のクボタ神崎工場で下請け会社の従業員として3カ月間、石綿水道管の製造に従事し、2012年4月に肺がんと診断され、2015年6月に労災認定された。2017年7月、慰謝料など1265万円と遅延損害金を求めて提訴 した。判決が確定し、起算日が約3年早まることで、遅延損害金は約200万円増える見込み。

判決で裁判長は「損害の発生は、肺がんの確定診断を受けた日かその前提となった手術を受けた日とするのが相当である」などとして、2人の主張を認めた。

同日午後、アスベストを扱う大阪の工場で1960年からおよそ1年間働いたあと、肺がんを発症した広島市の84歳の男性が救済策の賠償の基準は不当だと訴えた裁判で、広島地方裁判所は男性の訴えを認めて、基準を上回る金額を支払うよう国に命じた。

判決で裁判長は「損害が発生したのは診断の確定日とするのが相当だ」として、男性の訴えを認め、1260万円あまりの賠償金と、利息に当たる遅延損害金を診断日にさかのぼって支払うよう国に命じた。

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