三菱ケミカルホールディングスは11月18日、田辺三菱製薬の普通株式の全てを取得し、完全子会社とすることを目的とし、公開買付けを実施すると発表した。
医薬品の開発は大手が資金力を生かして人工知能(AI)やビッグデータを活用し始めているが、大手に比べ規模で劣る田辺三菱を完全子会社化し、研究開発のデジタル化をテコ入れする。
田辺三菱製薬側も、研究開発費の上昇や薬価引き下げ圧力などの逆風の中で生き残るには、三菱ケミカルHDとの連携強化が不可欠と判断した。
三菱ケミカルホールディングスは田辺三菱製薬(東証第一部に上場)の普通株式 56.39%を所有し、連結子会社としている。
残りの全株を1株2010円で買い付ける。総額は4900億円強となる。
付記
2019年11月19日より実施してきたTOBが1月7日に終了した。買付後の持株比率は91.57%となる。
なお、本公開買付け後の一連の取引により、株式の全ての取得を目的とした手続きを行い、その後に上場廃止となる。付記
田辺三菱製薬は、2020/1/17~2/26の間は整理銘柄に指定され、2/27に上場廃止となる。
買い取り価格の計算:
株式市価法:1,233円~1,313円 6か月間の株価基準
株価倍率法:1,735円~2,050円 競合各社の株価基準
DCF法:1,841円~2,096円 free cash flow を割引
これらを総合的に勘案し、かつ、対象者との協議・交渉の結果等を踏まえ、2,010円と算定。
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三菱ウェルファーマ(三菱ケミカルホールディングス 100%) と田辺製薬(上場)は2007年2月2日、両社の合併で基本合意書を締結した。
合併期日 | : | 2007年10月1日 |
合併会社 | 田辺三菱製薬 | |
存続会社 | 田辺製薬(ウェルファーマは非上場のため) | |
合併比率 | 田辺1:ウェルファーマ 0.69 |
両社の推移は以下の通り。
合併で三菱ケミカルホールディングスは新会社の56.39%を取得するが、基本契約で、①出資比率を10年間維持すること、②同社の連結子会社とするが、上場は維持するとなっていた。
2007/2/8 三菱ウェルファーマと田辺製薬が合併発表
既に合併後、10年間は過ぎており、100%子会社化、上場廃止は可能となっている。
大日本住友製薬も2005年10月1日に大日本製薬と住友製薬の統合で発足し、住友化学が50.22%を保有するが、①出資比率は基本的に10年間維持、②上場維持に協力するとしている。
なお、本ブログは、この問題を2016/9/17に取り上げている。
当時、三菱ケミカルは日本合成化学に次ぎ、日本化成も子会社化した。
当時は田辺三菱製薬は高収益なのに(下記の通り2017/3月期の株主帰属損益は713億円)、三菱ケミカルへの貢献は56.34%にとどまり、信越化学(Shintechは100%子会社)との損益差が大きいこと、世界各社がコモディティ事業を売却し、医薬会社などの争奪をしていることが取り上げた理由である。
三菱ケミカルホールディングスの柱の一つで、利益の大きな源泉である田辺三菱製薬への出資は56.34%のままである。
これこそ100%子会社にすべきだが、2007年10月1日の合併時の約束で、10年間はこの比率を維持することとなっている。2017年秋に残りを買い取る資金を準備しているのだろうか。
因みに、他株主の株数は245,098千株で、9月15日終値 2,053円で計算すると 5,032億円、2015年下期以降の高値 2,252円(約10%のプレミアムアップ相当)では5,520億円となる。
2016/9/17 三菱化学、日本合成化学に次ぎ、日本化成も子会社化
下記のとおり、現在の田辺三菱製薬はロイヤリティ収入を除くとトントンであり、そのロイヤリティ収入にも赤信号がついている。
テコ入れのためのTOBであり、100%化の費用は安くなったが、当面は収益増にはつながらず、逆に費用負担が増えることとなる。
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田辺三菱製薬の最近の決算は、営業損益のほとんどを占めていたロイヤリティ収入が激減し、大幅減収減益となった。
ノバルティスが、ライセンスを受けている多発性硬化症治療剤「ジレニア」について、売上ベースのロイヤリティ支払い義務を定める本件契約の規定の一部は無効であり、ノバルティスにはロイヤリティの一部の支払義務がないことの確認を求めており、田辺三菱では、IFRSルールに基づき、売上収益から除外する。
仲裁で勝利した場合、売上収益から除外している部分については一括収益計上する。
売上高 | 営業損益 | うちコア | ロイヤリティ | 税引前 | 株主帰属 | 配当 | ||
中間 | 期末 | |||||||
17/3 | 4,240 | 941 | 945 | 822 | 961 | 713 | 24.0 | 28.0 |
18/3 | 4,339 | 773 | 785 | 791 | 788 | 580 | 38.0 | 28.0 |
19/3 | 4,248 | 503 | 558 | 631 | 504 | 374 | 28.0 | 28.0 |
20/3予 | 3,760 | 115 | 100 | 192 | 120 | 50 | 28.0 | 28.0 |
増減 | -488 | -388 | -458 | -439 | -384 | -324 | 0 | 0 |
+ | ||||||||
18/9中 | 2,097 | 345 | 345 | 363 | 348 | 250 | ||
19/9中 | 1,881 | 126 | 117 | 92 | 121 | 83 | ||
増減 | -216 | -219 | -228 | -271 | -227 | -167 |
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三菱ケミカルホールディングスの体制
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