米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の内容を一部修正、米議会で協定承認へ

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米、カナダ、メキシコの3国は12月10日、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の内容を一部修正する議定書にサインした。

3カ国は昨年、新協定に署名したが、その後、米下院で過半数を握る野党民主党が労働基準の厳格化などを要求し、3カ国が修正協議を行ってきた。

ペロシ米下院議長(民主党)は12月10日の記者会見でUSMCAの修正についてトランプ政権と合意に達した旨を発表した。「政権の当初案よりはるかに優れている」とし、USMCAは下院で採決できる内容になったとの見方を示した。年内の会期中に採決したいとした。

トランプ大統領はツイッターに「USMCA法案は米国史上で最良かつ最も重要な貿易協定になる。皆にとって良い内容だ」と投稿し、「最悪の協定だったNAFTAをついに廃止できる!」と強調した。

ライトハイザーUSTR代表は署名式の席上、「交渉の結果、歴史上最高の協定となった。域内の労働者、農家に有益で、デジタル貿易および電子商取引はゴールドスタンダードとなる。協定は初めての真の超党派の合意で、大統領や下院議長、民主・共和党、労働組合、産業界が一体となった奇跡的なもの」とたたえた。

ホワイトハウスは年内の批准を「強く求めていく」と言明した。

ただ、共和党のマコネル上院院内総務は、上院では休会前に協定を取り上げないと発言。採決が年明けに持ち越される可能性が浮上し、早期批准に新たな不透明感が生じた。


付記

米議会下院は12月19日、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定(USMCA) の実施法案を可決し、上院へ送付した。

共和党 民主党 無所属 合計
賛成 192 193 385
反対 2 38 1 41
棄権 3 2 5
合計 197 233 1 431

上院は2020年1月に開くトランプ米大統領の弾劾裁判後に採決する。

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Ronald Trump は2016年10月下旬に、大統領に選ばれた場合の公約 "Donald Trump's Contract With The American Voter" を発表した。

大統領就任の1日目に、米国の労働者保護のため、7つのアクションを行うとし、そのなかにNAFTA再交渉が含まれた。

 1) 米・加・メキシコの北米自由貿易協定(NAFTA) の再交渉又は撤退の意思を発表

大統領就任直後の2017年1月22日、トランプはメキシコ、カナダとの個別の首脳会談でNAFTAの再交渉を始めると表明した。

米通商代表部(USTR)は2017年7月17日、カナダ、メキシコと始めるNAFTA再交渉に向け、貿易赤字の削減など22項目の協議目標を公表した。

その後、3カ国は交渉を続け、2018年9月30日に内容について実質合意がされ、2018年10月1日に正式に合意した。 新しいNAFTAは米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)に改称した。

2018年11月30日にブエノスアイレスにおける2018G20サミットの席上で署名された。

2018/10/4 NAFTA、3カ国協定を維持、USMCAに改称

各国の立法府による協定の批准が必要である。

トランプ米大統領は2018年12月1日、既存の北米自由貿易協定(NAFTA)からの離脱を議会に近く通知する意向を示した。
議会通知後6カ月で正式に離脱できることになっており、それまでにUSMCAが発効していないとカナダ・メキシコとの貿易協定がなくなることとなり、議会に早期承認を迫った。

米国国際貿易委員会(ITC)は2019年4月18日、USMCAが米国経済や産業へ与える影響報告書を発表し 、USMCAが米国経済にポジティブな影響を与えると結論付けた。

しかし、民主党は、労働基準やバイオ医薬品に関する規定などの問題について懸念は解消されないと主張し、説得に応じなかった。

米国の労働組合と民主党は、これまで長い間、メキシコの労働者が自由に労働組合を結成し、公正な賃金を要求することが常に許されているわけではないと指摘 してきた。
それにより米国の製造業が悪影響を受けていると主張している。

メキシコ上院は2019年6月19日、USMCAの批准法案を賛成114、反対3、棄権3の賛成多数で可決し 、官報での公布で批准手続きが完了した。

一方、カナダは米国と歩調を合わせたいとして批准手続きを先送りした。

ペロシ下院議長は、最終的にはUSMCAを支持する方針を示唆しているものの、補完協定等による対応では不十分として再交渉を求め た。
ライトハイザー通商代表は、再交渉は否定しつつ、ペロシ氏の意向を尊重する姿勢を示しており、民主党との調整が続い た。

ペロシ下院議長は9月3日、カナダのトルドー首相と電話で会談し、USMCAについて、民主党は特に執行の問題とメキシコの労働基準の施行面の問題を懸念していると伝えた。
「労働基準、処方薬の価格、環境保護、具体的な執行メカニズムが民主党の重要な懸念事項になっている」との認識を改めて示した。

ペロシ下院議長は11月25日、USMCAについて最終的な見直しが必要との見解を示し、民主党が支持できる修正案が「射程内」に入っていると述べた。

メキシコのセアデ外務次官は11月27日、米国、メキシコ、カナダの3カ国は合意に向け前進していると説明し、米国内での批准を後押しするため、労働争議をどのように扱うかに関して修正することが可能との見解を示した。

トランプ政権と下院民主党は、労働分野や鉄鋼・アルミ分野などの修正を巡りメキシコ側と協議を重ねた。

メキシコの外相によると、米国側が議会の批准承認審議を進めるために修正を求めているのは、以下の内容。

1) メキシコの職場での労働法順守を確認するための米国査察官による査察受け入れ

2 )環境保護対策の強化

3) バイオ医薬品の承認とデータ保護期間

4) 鉄、アルミニウムの原産地規則

このうち、1)は内政干渉だとし、メキシコ政府として断固として拒否する構えだが、国家間の紛争処理パネルで、他のテーマ同様に労働問題を扱うことには賛成するとしている。4)については、鉄は協定発効から5年間の猶予期間を求め、アルミについてはメキシコでは原料のボーキサイトが取れないことから拒否する構え。

ペロシ米下院議長(民主党)は12月10日の記者会見でUSMCAの修正についてトランプ政権と合意に達した旨を発表した。

米、カナダ、メキシコの3国は同日、USMCAの内容を一部修正する議定書にサインした。

修正事項は下記の通り。


米国・メキシコ間の協議で米国側が要求していた、鉄鋼とアルミニウムについて域内での鋳造加工を求める原産地規則は資料には盛り込まれていない。
鉄鋼については協定発効から7年後に義務化される見込みだが、アルミニウムに関しては10年かけて3カ国間で交渉し、扱いを定めるもよう。

労働ルールの修正について、AFL-CIOは「義務を順守しない工場や施設に対して査察を行う手続きを含め、初めて取り締まり可能な労働基準ができる」として、修正を支持するコメントを発表した。

処方薬に関わる修正について、バイオ医薬品データを10年間保護する規定が削除された。民主党が米国の薬価上昇につながると懸念した。
製薬団体は「今回の勝者は米国の知的財産を奪ってただ乗りする外国政府のみ」と反対意見を表明した。

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