山口県東部の住民3人が、四国電力伊方原発3号機(出力89万キロワット)の運転差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審が1月17日、広島高裁であった。
森裁判長は申し立てを却下した2019年3月の山口地裁岩国支部の決定を取り消し、四国電力に運転差し止めを命じる決定を出した。
運転禁止の期間は、山口地裁岩国支部で係争中の差し止め訴訟の判決言い渡しまでとした。
仮処分はただちに効力が生じるため、四国電力は決定の取り消しを求める保全異議と仮処分の執行停止を高裁に申し立てる方針。
3号機は現在は定期検査のため停止中だが、検査が終了する4月以降も運転できない状態が続く見通しになった。
四国電力は、決定文の詳細を確認の上、速やかに不服申立ての手続きを行うとしている。
伊方原発3号機が司法判断で運転できなくなるのは2017年以来、2度目。前回は2018年9月の異議審で運転再開が認められた。
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伊方原発3号機は2016年8月12日、5年3ヶ月ぶりに再稼動した。
この原発は下記の問題を抱える。
避難計画に弱点を抱える。
佐多岬の先端側の住民約4700人が孤立する恐れ。
中央構造線断層帯への地震の影響の懸念2016/8/13 伊方原発3号機 再稼動
同原発について住民の仮処分申請が相次いだ。(後記)
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今回の裁判は、対岸の山口県東部の住民3人が山口地裁岩国支部に求めた仮処分申請である。
避難計画の策定が義務付けられていない原発から30~40キロ圏にある島しょ部の住民で、理由は以下の通り。
伊方原発周辺の海底に延びる中央構造線が活断層である。
地震による被害や阿蘇カルデラが噴火した場合は火砕流が到達する危険性がある。
山口地裁岩国支部は2019年3月15日、これを却下した。
佐田岬半島沿岸部には活断層が存在するとはいえず、基準地震動の評価に不合理な点はない。
阿蘇山は運用期間中、巨大噴火の可能性が十分に小さいと判断できる。
原告は即時抗告した。双方の主張は下記の通り。
四国電力:伊方原発周辺の中央構造線が活断層ではない。
海上音波探査によって最も近い活断層も伊方原発の沖合8キロ地点にあると確認されている.原告: 原発の沖合600メートルにある中央構造線も活断層の可能性がある。
地震が起きた場合は伊方原発に四電が想定する2~3倍の揺れが生じる。
今回、広島高裁は運転差し止めを命じる決定を出した。
阿蘇の破局的噴火については、過去の破局的噴火による火砕流が伊方原発の立地場所に到達した可能性は否定できないが、何らかの前駆現象が無いのにそれをもって立地不適とするのは社会通念に反する 。
2017年12月13日の広島高裁 の仮処分決定は巨大噴火の恐れを停止理由としたが、今回はこれは採らない。
しかし、破局的噴火に至らない程度の最大規模の噴火を想定すべきで、噴出量を20~30立方キロとしても、噴火規模は四国電力想定の3~5倍に達する。四国電力の降下火砕物や大気中濃度の想定は過少で、これを前提とした規制委の判断は不合理。
原発敷地から2キロ以内に存在する中央構造線について、四国電力側の調査は不十分で、横ずれ断層である可能性は否定できない。
四国電力は周辺海域で海上音波調査を実施し、敷地近くに活断層はないことを確認したとし、地震動評価を行っていない。
中央構造線断層帯長期評価(第2版)には、佐田岬半島沿岸に存在すると考えられる中央構造線を「現在までのところ探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる」と記載があり、海上音波探査では不十分なことを前提にしていると認められる。
これらを考慮すると、中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できない。
その場合、地表断層から伊方原発敷地までの距離は2キロ以内で、仮に十分な調査で活断層だと認められた場合、地震動評価をする必要がある。しかし、四国電力は十分な調査をしないまま原子炉設置変更許可申請し、規制委は問題ないと判断した。規制委の判断には、その過程に過誤や欠落があったと言わざるを得ない。
差し止めは、並行して行われている差し止め訴訟の判決が出るまで。
後記の通り、2017年12月に広島高裁が火山の噴火リスクを理由に伊方3号の運転差し止めの決定を出したが、四国電力の不服申し立てで決定が取り消された。
関西電力大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じた2014年5月の福井地裁判決、高浜原発3、4号機の差し止めを命じた2015年4月の福井地裁、2016年3月の大津地裁判決も上級審などで判断が覆っている。
東京電力福島第1原発事故後、安全性の保証をせずに大飯原発3、4号機を再稼働させたとして、福井県の住民らが関西電力に運転差し止めを求めた訴訟で、福井地裁は2014年5月21日、現在定期検査中の2基を「運転してはならない」と命じ、再稼働を認めない判決を言い渡した。
名古屋高裁金沢支部は2018年7月4日、運転差し止めを命じた一審・福井地裁判決を取り消し、原告側の請求を棄却した。
2014/5/30 大飯原発差し止め訴訟判決
関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを住民らが求めた仮処分申請で、福井地裁は2015年4月14日、再稼働を認めない決定をした。
福井地方裁判所は12月24日、2015年4月の再稼働しないよう命じた仮処分の決定を取り消し、事実上、再稼働を認める判断をした。2015/4/15 高浜原発、再稼働認めず 福井地裁が仮処分決定
大津地裁は2016年3月9日、高浜原発3号機と4号機について、「福島の原発事故を踏まえた事故対策や緊急時の対応方法に危惧すべき点があるのに、関西電力は十分に説明していない」として、運転の停止を命じる仮処分の決定を出した。
2016/3/10 高浜原発3、4号機、運転差し止め仮処分決定
大阪高裁は3月28日、高浜原発の3号機と4号機について、「原子力規制委員会の新しい規制基準は不合理ではなく、原発の安全性が欠如しているとは言えない」として、大津地裁が運転停止を命じた2016年3月の仮処分の決定を取り消し仮処分の決定を取り消し、再稼働を認めた。
2017/3/28 大阪高裁、高浜原発3・4号機の再稼働認める判断
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伊方原発の運転差し止め仮処分申請の状況は下記の通り。
広島、愛媛両県の住民4人が、「重大事故の危険がある」と運転差し止めを求めた仮処分申請 | |
広島地裁 | 2017年3月30日、住民側の申し立てを却下 |
住民側 | 決定を不服として抗告 |
広島高裁 | 2017年12月13日、運転の停止(2018年9月末まで)を命じる仮処分の決定 阿蘇山で巨大噴火が起きて原発に影響が出る可能性が小さいとは言えず、新しい規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断は不合理 2017/12/15 広島高裁 |
異議審 広島高裁 |
2018/9月25日、四国電力が申し立てた異議を認め、仮処分決定を取り消し。 阿蘇カルデラの破局的噴火について社会通念上、想定する必要がなく、立地は不適でないと判断 2018/9/27 広島高裁異議審、伊方原発3号機の運転再開を認める |
上記に続き、2018年10月以降の運転差し止めを求めた仮処分申請 | |
広島地裁 | 2018年10月26日、申し立てを却下
巨大噴火が阿蘇で発生する可能性は非常に低く、事故が起こるリスクは、直ちに除去しなければならないほど差し迫った危険には当たらない。 伊方3号は2018年10月27日未明に再稼働した。 |
愛媛県の住民による仮処分申請
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松山地裁 | 2017年7月21日、住民側の申し立てを却下する決定。 |
高松高裁 | 2018年11月15日、松山地裁決定を支持し、運転を認める決定。
阿蘇カルデラで運用期間中に「破局的噴火」が起きる根拠は不十分で「立地が不適とは考えられない」とした原子力規制委員会の判断を追認 |
大分県の住民による仮処分申請
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大分地裁 |
2018年9月28日、住民側の申し立てを却下する決定 |
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