京都大iPS細胞研究所のiPS細胞ストック事業で、出荷したiPS細胞の一部を目的の細胞に分化させた際、遺伝子異常や染色体異常が起きていたことが分かった。
同じ提供者から同時に作られた「株」で、分配先の研究機関や分配する容器によって異なる異常が生じたり、異常の有無が違ったりした点が問題で、iPS細胞の性質が不安定な可能性も示唆される。
ある機関で分化段階の試験結果から安全と評価されても、元の株の安全性が担保できないことになる。
この事業には2018年度までに国から約94億7000万円が投じられ、これまで7人の提供者から作製した計27株を出荷した。
臨床研究や治験では、iPS細胞や分化細胞の段階でゲノム(全遺伝情報)解析したり、マウスへの移植でがん化の有無などを確かめたりして、実施機関が使う株を判断する。
今回、2015年8月以降に出荷された27株中4株の試験結果が判明し、うち2株で異常が確認された。
この2株は2カ所の研究機関にそれぞれ複数の容器で分配、各機関で同じ種類の細胞に分化させた。
一つの株では、一方の機関では異常なしだったが、他方の機関では遺伝子異常があり、マウスへの移植では、正常な細胞では見られない組織の異常な増殖も確認された。
もう一つの株では一方の機関でがんに関連する遺伝子の異常、他方の機関で染色体の本数の異常を確認した。
見つかった遺伝子異常には、人のがんで見つかることが多く、危険性の高いものも含まれていた。
異常が発見された細胞は、患者には移植されていない。
異常のあった機関でも、違う容器では異常はなかった。
京都大iPS細胞研究所は、「出荷時には細胞に異常はなく、どんな細胞でも培養や分化の過程で異常は起こりうる。移植する前の段階で丁寧に試験をして使っていくしかない」としている。
今回の件については、「関係機関の了承が得られれば(結果を)公表していきたい」と話している。
毎日新聞によると、米スタンフォード大医学部の遺伝学部長を務めるマイケル・スナイダー教授は「臨床用の細胞でのがん関連遺伝子の変異は極めて重大だと考えられる。事実を公表し、オープンな場で評価する必要がある」と指摘した。
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この事業には2018年度までに国から約94億7000万円が投じられたが、昨年秋に、政府が、年約10億円を投じてきた予算を来年度から打ち切る可能性を京大側に伝えた。一部報道で、和泉洋人首相補佐官と大坪寛子厚生労働省大臣官房審議官(兼内閣官房健康・医療戦略室次長)が密室の場で国費投入の廃止を突如打ち出していたと報じられた。
事業の責任者を務める山中教授は「研究に専念させてほしい」と訴えるなど、打ち切り反対の論陣を展開、竹本科学技術担当相は12月6日の閣議後記者会見で「2022年度まで支援を続ける」と述べた。当初の計画通り年間十数億円が補助される見通しとなった。
2019/12/11 京大のiPS備蓄事業、2022年度まで国が支援継続へ
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