韓国政府が昨年6月にイランのDayyani 一族との投資家・国家間訴訟(ISD)で敗訴したことを受け、英国高等裁判所に判定の取り消しを求めていた訴訟で、韓国政府が再び敗訴した。 韓国金融委員会が12月22日 に明らかにした。(事態は後述)
これにより、韓国政府は昨年の判決に従い、2010年 に韓国資産管理公社(KAMCO)などの債権団が大宇エレクトロニクスを売却する過程でDayyani 一族から没収した契約金に利子を上乗せし、総額730億ウォン(約63百万USドル)を支払わなければならない立場となった。
問題は この支払方法である。韓国は為替取引で韓国ウォンをイラン貨幣リヤルで送金するためには「韓国ウォン→米ドル→リヤル」とドルを通じて送金しなければいけない。この過程で必ず米国の銀行や金融機関を経由する必要がある。
トランプ米大統領は2018年5月8日、欧米など6カ国とイランが結んだ核合意から離脱すると表明した。核合意に基づく対イラン経済制裁を再開する大統領令にも署名した。
2018/5/10 トランプ大統領、イラン核合意離脱表明
米国は2018年11月5日、イランの石油や金融部門を中心に経済制裁第2弾を再開した。イランのミサイルや核開発を制限すると共に、中東地域で高まるイランの軍事・政治的影響力を抑える狙い。
米国の制裁開始に歩調を合わせ、銀行間の国際決済ネットワークを運営する「国際銀行間通信協会」(SWIFT)は11月5日、複数のイランの銀行をSWIFTの国際送金網から遮断すると発表した。核合意存続を訴える欧州はイランとの貿易にSWIFTは欠かせないとして遮断に反対したが、制裁の抜け道をふさぎたい米国はSWIFTも制裁対象になると警告し圧力をかけ 、押し切った。
イラン中央銀行および50の銀行・金融機関を制裁対象とし、外国金融機関が米国の金融機関を通じてイランと金融取引をするのを禁じた。
2018/11/8 米国、イラン経済制裁を再開
韓国外交部は2019年12月、経済外交調整官を米国に派遣し、この件に関連して「ワンポイント」制裁免除を米国政府に要請した。また外交部は2019年5月から凍結された国内都市銀行のイラン中央銀行韓国ウォン決済口座のうち人道的支援など特定項目への制裁も免除してほしいという要請もした 。
しかし米国とイランの関係は軍事的衝突にまで拡大し、これが難しくなった。
国際仲裁裁判の決定を無制限に先延ばしすることもできない。苦肉の策として韓国はDayyani 側に韓国ウォン口座を開設し、子会社がこれを韓国内で消化する方式を提案する計画という。
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イランのEntekhab Industrial Group (Dayyani 一族の会社)は売りに出ていた大宇エレクトロニクスの買収に手を挙げた。
大宇エレクトロニクスは大宇電子時代の1999年8月、ワークアウト(「企業改善作業」:政府の影響力が及ぶ金融機関債権者を通じて債務再調整を行う再生手続)に入った。
債権団は3度も売却を図ったが、交渉はまとまらなかった。
企業再生支援業務などを行う政府系金融機関の韓国資産管理公社は2010年1月に売却作業を再開し、スウェーデンのElectroluxとイランのEntekhabと交渉、同年4月にEntekhaを買収の優先入札者と認めた。
Entekhabは2010年11月に買収契約を締結した。売却代金は5777億ウォン(490百万ドル)で、大宇エレクトロニクスのすべての資産と負債を引き受ける条件。
Entekhabは、10%相当の49百万ドルを支払った。
しかし、Entekhabが買収価格を当初契約よりも1500億ウォン引き下げるよう要求したことから問題が生じた。
韓国資産管理公社は2011年5月、全額の支払期限が過ぎたとして契約を打ち切り、契約金を没収した。
Dayyani 一族は、債権団の契約破棄は違法だとして韓国の裁判所に提訴したが、主張が認められなかったため、2015年9月に国連傘下の国際商取引法委員会(UNCITRAL)の仲裁判定部にISDを起こした。49百万ドルと金利の支払を求めた。
2015/9/25 韓国にイラン企業から3番目のISD提起
仲裁判定部の判断は韓国の裁判所とは異なった。
2019年6月に韓国政府に対しDayyani に730億ウォン(約63百万ドル)を賠償するよう求める判決を下した。
韓国政府がEntekhabの契約を破棄し、契約金を没収したのは「韓国とイランの投資者を同等に扱わなければならないとする韓国・イラン投資協定に反する」と した。
韓国政府は判決の取り消しを求める訴訟を英国高等裁判所に起こした 。しかし、昨年12月にここでも敗訴した。
韓国法曹界は韓国政府の取り消し申請が英国裁判所で受け入れられる可能性は高くないとみていた。単独審議制で運営されるISD仲裁は事実上最高裁の判決と同じとされる。
韓国政府の主張と裁判所の判断は下記の通り。
1) 契約破棄の主体は債権団なので、Dayyani が韓国政府を相手取り仲裁を申し立てるのは誤り。
債権団のうち、大宇エレクトロニクスの筆頭株主が韓国政府の統制を受ける公共機関である韓国資産管理公社(KAMCO)であるため、最終的に韓国政府が責任を負うべき である。
2) Dayyaniはシンガポールに設立した法人を通じ、韓国に間接投資しているため、韓国・イラン投資協定上の投資者とは見なせない。(当時Dayyaniはイランに対する米国の制裁で韓国に直接投資できなかったため、う回ルートで投資を行おうとした。 )
大宇エレクトロニクス売却契約が韓国の法律の適用を受け、金融取引も韓国の口座を通じて行われており、韓国に投資したものと見なされる。
3) Dayyaniのシンガポール法人が契約金を納付したという事実だけでは投資協定上の投資行為に該当しない。
契約金納付も投資と見なされる 。
投資者紛争の専門家は「国際的な法律紛争に対する韓国政府の対応能力の不足を如実に示した完敗だ」と評した。
2013年1月、東部グループが大宇エレクトロニクスを270百万ドルで買収し、東部大宇電子と改称した。
2018年に、 大有(DAYOU)財閥が東部大宇電子を引き受け、大宇電子に社名変更した。大有グループは2019年にWinia Group に改称、大宇電子はWinia Daewooとなった。
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