米野党・民主党のペロシ下院議長は1月10日、上院でのトランプ大統領弾劾裁判に向けた手続きを 開始する方針を明らかにした。1月14日に党内で手続きについて協議する。
下院司法委員会のナドラー委員長(民主党)に対し、弾劾裁判で検察官役(訴追委員)となる下院議員の指名と、下院で可決した弾劾訴追決議の上院送付に関して準備を進めるよう要請した。
民主党は弾劾裁判で、ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)ら元職を含む政権幹部を証人として呼ぶことを要求。これに慎重な上院多数派の与党・共和党に対して決議の上院送付を保留して圧力をかけ、裁判の日程が不透明な状態が続いていた。
付記
米下院は1月15日、昨年12月に可決した弾劾訴追決議(起訴状)を上院へ提出した。
上院で1月16日、弾劾裁判長を務めるロバーツ最高裁長官と陪審役を務める全上院議員100人が宣誓手続きを実施、21日から本格的な審議を開始する。
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弾劾手続きは下記の通り行われる。
1)合衆国憲法第1条第2節第5項 下院が「弾劾の権限を専有する。」
下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。
弾劾訴追決議案を可決し、上院に送付(=起訴)する。
2)憲法第1条第3節第6項
「上院はすべての弾劾を審判する権限を専有する。」
「合衆国大統領が審判される場合には、最高裁判所長官が議長となる。」
「何人といえども、出席議員の3分の2の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない。」
ジョン・ロバーツ連邦最高裁長官が議長となり、弾劾裁判の進行があらかじめ決まった手続きに従うよう采配する。
実質的には上院議員が判事と陪審員を兼ねることになる。
最終的な採決が同数タイになった場合はロバーツ長官が決定権を持つ。
下院から「弾劾管理人(impeachment managers) 」が検事役を務める。
上院では共和党は53議席を有しており、弾劾には共和党から20人の反乱が必要となる。
米下院は2019年12月18日の本会議でトランプ大統領のウクライナ疑惑を巡る弾劾訴追決議案を賛成多数で可決した。
共和党からは賛成はゼロ、民主党からは2人が両方に反対、1人が「議会妨害」にのみ反対、1人がともに「出席」と答えて棄権。
「権力乱用」の弾劾条項は賛成230、反対197で可決した。
|
共和党 |
民主党 |
無所属 |
合計 |
賛成 |
0 |
229 |
1 |
230 |
反対 |
195 |
2 |
|
197 |
present |
|
1 |
|
1 |
棄権 |
2 |
1 |
|
3 |
合計 |
197 |
233 |
1 |
431 |
議会調査への協力要請を拒否するよう政権幹部らに指示した「議会妨害」の条項は賛成229、反対198で可決された。
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共和党 |
民主党 |
無所属 |
合計 |
賛成 |
0 |
228 |
1 |
229 |
反対 |
195 |
3 |
|
198 |
present |
|
1 |
|
1 |
棄権 |
2 |
1 |
|
3 |
合計 |
197 |
233 |
1 |
431 |
2019/12/19 米下院、トランプ大統領を弾劾訴追
次の手続きとしては、下院から弾劾決議を上院に送付し、上院で弾劾裁判が始まるが、ここで民主党と共和党の争いが生じた。
民主党は、ミック・マルヴェイニー大統領首席補佐官代行や、ジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)など複数のホワイトハウス関係者の証言を要求している。
逆に、トランプ大統領はバイデン前副大統領親子や、自分について告発した情報機関関係者の出廷を要求している。
しかし、マコネル院内総務は12月17日の上院本会議で、弾劾裁判における上院の役割は「判事および陪審員として審理を聞くことであり、事実関係の調査を一からやり直すことではない」と発言し、スピード採決につなげたい意向を示した。
上院で過半数(53/100)を占める共和党が、証人なしで裁判を短期で結審させて「無罪判決」を下す可能性もある。
証人を呼ぶためには、上院の過半数の賛成が必要で、共和党から4人の造反が必要となる。
下院のペロシ議長は 裁判の公平性確保を求めており、上院が証人招致など裁判の手続きを決めるまで、弾劾決議を上院に送付せず、弾劾裁判で検事役を務める下院議員の指名もしていなかった。
共和党は「下院民主党は政治的遅延を続けている」と批判し、民主党内でもさらなる膠着状態を懸念する声が強まっていた。
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