T-Mobile/Sprint 合併承認を巡る裁判

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T-Mobile/Sprint 合併承認を巡る裁判で、合併を認めた米政府側が裁判所に「合併は公共の利益になる」とする文書を提出したのに対し、合併反対の州側が裁判所に反論を提出した。

T-Mobile/Sprint側と州側の最終弁論は1月15日に行われ、2月末までに判決が行われる。

付記

米連邦地方裁判所は2月11日、合併が消費者に悪影響を及ぼすとして差し止めを求めていた複数州の訴えを退けた。

米ニューヨーク州は2月16日、上訴しないと表明した。他の自治体も訴えを取り下げる公算が大きい。
両社は2月11日に、州側が上訴しないことを条件に4月1日にも合併手続きを完了する方針を示した。

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ソフトバンクグループ傘下で米携帯4位のSprintと同3位でドイツテレコム傘下のT-Mobile US, Inc. は2018年4月29日、経営統合することで合意したと発表した。



2018/5/2 ソフトバンクとドイツテレコム、子会社 Sprint とT-Mobile USの統合で合意 

米司法省は2019年7月26日、ソフトバンクグループ傘下の米携帯通信4位 Sprintと、同3位T-Mobileの合併を条件付きで承認すると発表した。
新規参入をめざす衛星テレビ大手Dish Network Corp.にプリペイド式携帯事業や周波数帯を売却することを条件に合併を認めた。

Dish NetworkはSprintの子会社のプリペイドモバイル事業(Boost Mobile、Virgin Mobileなど)を約15億ドルで、800MHzの無線周波数帯を約35億ドルで取得し、合計930万人にのぼるその顧客を取得する。
Dishはこれらの資産を3年間売却できない。
Dishは携帯電話サービスを提供することになり、7年間の移行期間中はT-Mobileのネットワークを利用できる。

米連邦通信委員会(FCC)は10月16日、合併計画を3:2で承認した。連邦当局の承認を得たことで、合併の実現は下記の一部の州による差し止め訴訟の行方が焦点となる。

米ニューヨーク州など10の自治体が6月11日、携帯大手3位と4位の合併は消費者の不利につながるとして、T-Mobile と Sprintの合併を差し止めるよう米裁判所に提訴した。

訴訟はNew York、California両州が中心となり、Colorado、Connecticut、Maryland、Michigan、Mississippi、Virginia、Wisconsin、Washington DCが名を連ねた。

その後、訴訟への参加、離脱、合併賛成が相次いだ。現状は次の通り。

合併反対  13州+DC 合併賛成 9州
New York
California
Connecticut
Hawaii
Illinois
Maryland
Massachusetts
Michigan
Minnesota

Oregon
Pennsylvania
Virginia
Wisconsin
Washington, D.C.
Arkansas
Florida
Kansas
Louisiana
Mississippi
Nebraska
Ohio
Oklahoma
South Dakota


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司法省と連邦通信委員会(FCC)は裁判の当事者ではないが、2019年12月20日に裁判所に合併の承認を求め、"Statement of Interest"を提出した。

"Statement of Interest"は、米国裁判手続法第517条(28 USC §517)に基づくもので、司法長官が連邦や州の裁判所に係属中の事件において合衆国の利益 (interests of the USA)について考慮させることができる、というもの。

司法省とFCCの合併承認は、Dish Network Corp を新しくこの事業に参入させることで公共の利益になるとし、合併禁止は米国消費者にとって大きな、長期的な利益を損なうとしている。

これに対し、原告側を主導するニューヨーク州とカリフォルニア州の弁護団は1月8日、司法省とFCCはおざなりにしか見えない調査("what appears to be only a cursory examination")で承認したもので、政府の主張は無視すべきだと主張する文書を裁判所に提出した。

州側の主張は次のとおり。

合併に反対する州の人口は米国全体の43%を占め、賛成側の州の人口のほとんど2倍に達する。

州側は政府よりも厳しい調査を行った結果、T-Mobile/Sprint とDish Networkが承認根拠となる合併条件を守らないと思われる証拠が見つかった

T-Mobile/Sprint はDish Networkが全国の通信市場で競争相手にならないだろうと見ている。
例えば、ドイツテレコムのCEOなどが価格競争が減ることが合併の理由の一つだと認めている。

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1月15日の最終弁論では、主張を提出するが、それぞれ30ページに制限されている。

T-Mobile/Sprint は、"failing firm" defense(破綻企業の抗弁)は行わないが、「Sprintは将来的に重要な競争相手にはならないため、合併でSprintが抜けても競争が著しく減るということにはならない」と主張するとみられる。

「破綻企業の抗弁」は、合併を認めないと、単に対象企業が破綻するというだけでなく、対象企業の資産が市場から退出してしまって市場が非競争的になるとの主張

しかし、州側は過去にこれと異なる主張をしている。

Sprintは財政的に安定しており、National carrier としてやっていける。

現在のSprintの状況は2011年のT-Mobileの状況に似ている。T-Mobileが立ち直ったように、Sprintも立ち直れる。同社は5年間、毎年約50億ドルを投ずる計画を立てていた。

Sprintは他にも戦略的にいろいろの代替案を持つ。Sprintは2018年にDishとの合併を検討していた。

Dish Networkについても見方が異なっている。

州側は、Dishは衛星テレビ業者で通信の経験はなく、需要家もネットワークも販売店もブランドも持っておらず、同社の市場参入はSprintに代わることにはならないとする。

これに対しT-Mobile/Sprint 側は、Dish は多くの人材を持ち、今後について適切な計画を提示していると反論、古い技術を持たないためコストは安いとする。
もし合併条件を守らなければ、莫大な罰金を課されるとし、州側主張に反論している。

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