WTO紛争処理の暫定組織設置へ

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世界貿易機関(WTO)の上級委員会が2019年12月10日、新規案件の審理を開始できない事態に陥った。


WTO紛争解決制度は、いわゆる二審制をとっており、第二審として最終的な裁定を行う上級委員会(Appellate Body)は、7名の委員で構成され、3名で一事案の審理を担当する。

委員の任期が到来する中、上級委員の任命の在り方など、WTOにおける紛争解決制度や上級委員会の在り方に不満を持ち、これらについて議論するまでは選考プロセスの開始に賛成できないとする米国と、これに反発するその他の国の間での意見の不一致が生じ、後任が選べず、空席が続いていた。

米国は、中国政府による産業補助金や知的財産権の侵害といった問題で、WYOが疑わしきは罰せずという原則に基づき中国に有利な判断を下したことを問題視している。
従前より、加盟国が紛争解決手続をコントロールすべきとする見解を主張している。
紛争解決機関の承認もなく上級委員が自ら、委員の任期延長を決定していること批判している。

2019年12月10日に、残る3名のうち2名の任期が切れて1名だけになり、委員3名で一つの紛争案件を担当する規定により、新規案件の審理が事実上不可能な状況となった。
案件を審理する小委員会(パネル)は存続するが、パネルの判断に不満がある場合に上級委員会が開けず、機能不全となる。

米国は12月9日、上級委員の選任を改めて拒否した。上級委がWTO規則を超越したり度外視した判断を下していると批判した上で、委員の新たな選任を支持しないと表明した。

これに対し、EUは緊急措置として代替の上訴制度を独自に設置することを提案し、1月24日、中国、カナダ、ブラジルなど16カ国と合意した。合意国間の通商紛争のみに適用する枠組みとなる見通し。

参加国は以下の通り。「参加を希望するWTOメンバーに開かれている」としているが、米国と日本は参加していない。

EU、ノルウェー、スイス
カナダ、メキシコ
ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、グアテマラ、パナマ、ウルグアイ
オーストラリア、ニュージーランド
中国、韓国、シンガポール

EUの通商担当のホーガン欧州委員は「我々は上級委の行き詰まりに対し、永続的な解決策を探る努力を続ける」との声明を出した。


日本が不参加の理由について、政府関係者は「今回はあくまで暫定措置。日本は恒久的な改革を重視している」とした。

どの国も恒久的改革を重視しているが、機能不全となったため、やむを得ず暫定措置をつくったもので、不参加の理由にはならない。米国だけが除け者になるのを避けるための忖度と見られても仕方ない。

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ランプ米大統領はダボス会議で1月22日、WTOについて「劇的な」行動を取ると宣言した。
WTO事務局長によると、トランプ大統領は以前からのWTOに対する不満について議論し、WTOを改革したい意志を明確にした。改革のあり方について協議するため事務局長を米ワシントンに招待しれたという。

WTOの非公式閣僚会合が1月24日、スイスのダボスで開かれた。
会合には日本を含めた35カ国・地域が出席した。紛争処理のほか、漁業補助金、投資円滑化などについて協議した。6月の閣僚会合で成果を出すため、加盟国は協議を続ける。

WTO事務局長は、暫定的な紛争処理の仕組みについて言及しなかったものの、会合で各国WTO紛争処理の改善を含む今後の改題について協議したと話した。
「選択肢はある。改善策を追求しているところだが、まだそこに至っていない」とし、「近いうちにもっと前進できると自信を持っている」と話した。




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