Bayer(旧 Monsanto)とBASFの除草剤で収穫被害を受けたとして、米国の農業従事者が両社を相手取って起こしている係争で、ミズーリ州の連邦裁判所の陪審団は2月15日、総額265百万ドルの損害賠償を命じた。うち15百万ドルが損害に対するもので、残り250百万ドルが懲罰的賠償である。

両社の損害賠償額の配分は不明。

ミズーリ州最大の桃の栽培業者のBader Farmsが訴えていたもので、近在の農家が散布した除草剤ジカンバ(Dicamba) の影響で桃が枯れ、2000年代初めに平均して162千ブッシェルあった収穫が2018年には12千ブッシェルまで減り、廃業に追い込まれたとして、20.9百万ドルの損害賠償を求めて訴えていた。訴えでは、BASFとMonsantoは製品が他の農園への被害を引き起こすことを知りながら販売したとしている。

BASFは、原告の経営破たんの原因はひょう害と遅霜であり、周辺農家の除草剤散布ではないとしている。

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広く使われてきた除草剤グリホサートに耐性が出てきて枯れない雑草が増えてきたため、ジカンバが使われるようになった。

Monsanto、BASF、DuPontなどが販売している。

除草剤ジカンバの難点は、オーキシン系という植物の生理作用をかく乱する物質のため、ドリフト(漂流飛散)や揮発化(ガス状化)によって、低濃度でも周辺の作物に生理障害を起こすこと である。

日本でも問題が生じている。


2018年に、JR九州が線路の保守管理のために使用した除草剤が周辺の広範囲の農地に飛散し、福岡県内の農家がコメの出荷を見合わせる事態となった。大豆の生育への影響も報告された。

福岡県みやま市の鹿児島線の沿線で、8月中旬以降、大豆の葉が萎縮する生育不良が線路周辺の全長約7キロで発生した。稲の葉からも通常は使わない農薬成分がわずかに検出されたことが判明したため、収穫済みのコメ約7トンの出荷を見合わせた。

JR九州は液状の除草剤に含まれる「ジカンバ」などが飛散したことを認めた上で、農家側に謝罪した。農林水産省によると、この除草剤は農地での使用が禁止されている。

2015年にMonsantoは遺伝子組み換えによるジカンバ耐性のダイズやワタを開発した。

ところが、ジカンバの影響で作物の葉が枯れたり、変色したという苦情が周辺の農家から殺到した。野菜や果樹農家からの苦情もあるが、ジカンバ耐性でないダイズ農家からの苦情が多かった。

このため、Monsanto、BASF、DuPontの3社は、ジカンバの揮発性を抑えた新たな化学式を考案した。

これらの新しいジカンバは2016年末に承認された。

しかし問題は、Monsantoが新ジカンバの承認の前に遺伝子組み換え種子を販売したことである。

ジカンバ耐性型GMO種子だけを手にした多くの農家が、改良前のジカンバ除草剤を違法に散布し た。

更に、新型ジカンバが承認され2017年にほとんどの農家がジカンバ耐性型GMO種子の大規模な作づけを開始した。ところが、揮発性を低下させたはずのジカンバ除草剤による農作物への被害は、依然としてなくならなかった 。アーカンソー州、ミズーリ州、テネシー州を中心に、大豆をはじめとした野菜だけでなく、果樹園への損害も報告されている。

但し、モンサントは、栽培農家が適切な使用方法を遵守しなかったことが主な原因であるとの主張を崩していない。

EPAは2017年のトラブル続出を重視し、2018年に改善が見られなければジカンバの使用を全面禁止にすることも考えていた。

しかし、EPAは2018年11月、ジカンバの使用を2019、20年の2年間認めると発表した。
風の強いときには散布しない、作業者に講習を義務付けるなどの条件が守られ、2017年よりも周辺農地へのトラブルが大幅に減った成果と見られる。

2019-2020年の使用条件は、州政府の認証を受けた作業者だけがジカンバを散布できると厳しくなった。散布期間も、ダイズでは種まき後45日以降、ワタでは60日以降は禁止になった。

グリホサートはいつでも自由に空中散布もできたが、非常に使い勝手の悪いものとなった。