京都大・高等研究院の本庶佑・特別教授らの研究グループは1月30日、がん免疫治療薬「オプジーボ 」の有効性を血液検査のみで予測する方法を発見したと、米科学誌 JCI Insight 電子版に発表した。
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オプジーボなどを使ったがん免疫療法はノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶特別教授が発見したPD-1の研究成果を基に実用化され、さまざまな種類のがん治療に使われている。
癌細胞には、免疫細胞攻撃を防止する「免疫チェックポイント」という仕組みがある。
1) 癌細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるために、PD-L1 というタンパク質を出し、これが免疫細胞のPD-1 に結合すると、免疫細胞の働きが抑制される。
2) 免疫細胞は、抗原提示細胞である樹状細胞から癌抗原の提示を受けると働きが活発になり、それを目印に癌細胞を攻撃するが、抗原提示を受ける際、免疫細胞のCTLA-4 に樹状細胞のB7というタンパク質が結合すると、逆に免疫細胞の働きが抑制され、癌細胞を攻撃できなくなる。
これらの「免疫チェックポイント」を阻害して、免疫細胞に癌細胞を攻撃させるのが、免疫チェックポイント阻害薬である。
機能 承認 開発中 抗PD-1抗体 免疫細胞のPD-1に結合し、PD-1と癌細胞のPD-L1の結合を防止 オプジーボ(小野薬品/BMS)
キイトルーダ(米Merck)抗PD-L1抗体 癌細胞のPD-L1に結合し、PD-1とPD-L1の結合を防止 Roche/中外製薬
AstraZeneca
独Merck/Pfyzer抗CTLA-4抗体 免疫細胞のCTLA-4に結合し、CTLA-4と樹状細胞のB7の結合を防止 ヤーボイ(BMS/小野薬品)
AstraZeneca BMS=Bristol-Myers Squibb
これらの薬剤は非常に高価である。
オプジーボ点滴静注 100mg の薬価は当初 730千円であった。順次引き下げられたが、2019年の薬価は172千円である。
体重66kgの人が1年間26回投与したとして計算すると、当初の薬価で約3800万円、2019年薬価でも約900万円にもなる。
問題は、オプジーボの効果がある患者は半数程度とされ ていることで、効かない理由は分かっていなかった。
効果のない患者には免疫療法以外の治療法に早期に移行するためにも有効性の予測は必要とされていた。
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研究グループは、オプジーボの投与を受けた肺がん患者計54人から投与前後に採血し、血液成分や免疫細胞の一種である「T細胞」を分析 した。
その結果、がん細胞を攻撃する免疫細胞「キラーT細胞」が働いている状態など4つの項目を組み合わせて調べることで、副作用で投与を中止した7人を除く54人のうち、9割以上の患者でオプジーボの有効性を正しく判定できたという。
投与前後の比較が必要で、投与前の血液だけではまだ判断できないが、これまで効くかどうか分かるまで3カ月かかっていたのが、投与から2週間で判断できるため、早く別の治療を提案できる。
患者から腫瘍の一部を採取して調べる従来の手法より予測率が高く、患者への負担も少ないという。
今回の発見で、効果のない患者を早期に判別し、治療法の選択肢を広げたり、免疫療法の高額な医療費負担を減らしたりすることが期待される。
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