昭和電工は2月5日、電気炉製鋼用の黒鉛電極の世界生産能力を削減すると発表した。
黒鉛電極の継手を生産する ドイツ・マイティンゲンにある生産拠点の閉鎖について、労使協議を開始した。継手の生産は主力工場である大町事業所に集約する。大町事業所での部品生産を増やす一方、同工場の黒鉛電極本体の生産を縮小する。
同時にオーストリアにある黒鉛電極の生産拠点の稼働についても、一時帰休に向けた労使協議を開始した。
生産再編で、年産能力を現在の25万トンから21万トンに減らす。
昨年下半期より、顧客である電炉鋼メーカーにおける黒鉛電極の在庫調整が継続し、特に景気減速が目立つ欧州市場においては稼働率の低下が生じている。
黒鉛電極を含む同社の無機セグメントの営業損益は下期以降激減している。
別記事の「昭和電工の2020年12月期決算」参照。
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黒鉛電極は、電気炉による製鋼でスクラップを溶かして鉄へリサイクルするときに、導電体としてなくてはならない中心的素材で、約1600℃の高温になってスクラップを溶かす。
昭電は、大町、 米国South Carolina、中国四川に製造拠点を持つが、2016年10月、ドイツのSGL Carnbon GmbH より黒鉛電極製造の子会社 SGL GE Holding GmbHを買収すると発表した。
SGL GE Holdingはドイツ、オーストリア、スペイン、アメリカ(2ヵ所)、マレーシアの6カ所に製造拠点を持つが、米司法省の指示で米国工場を東海カーボンに売却した。
この時点では、 同社では、世界の鉄鋼需要について今後も年率1%程度の低成長が続くと予想され、需要の低迷と競争の激化 で価格が低下し、厳しい事業環境が継続すると見ていたが、昭電は市況がこれ以上悪くなる事態は考えにくく、統合効果で黒字化は十分可能と考えた。
2016年に3000ドル程度まで下がっていた国際価格は2018年には10,000ドル前後まで上がった。
中国には地条鋼という違法鉄鋼が流通していた。成分や品質の安定しない、環境にも悪影響を与える粗悪な鉄鋼・鋼材である。中国政府はこの違法な地条鋼については、2017年6月末までに全て閉鎖することを決めた。
その結果、それまで安価で出回っていた鉄鋼が不足し、代替として鉄スクラップから鉄鋼を生産する電炉での生産が急増、黒鉛電極の需要が急増、価格が急騰した。
さらに、EVに使用されるリチウムイオン電池の負極材としてニードルコークスが使用され始めたことで原料のニードルコークスの価格急騰もあり、黒鉛電極の価格も急騰した。
昭和電工はSGLの買収で、生産体制見直しや管理部門の機能集約などで60億円以上のコスト削減が可能と試算し、2019年での事業黒字化を目指すとしたが、黒鉛電極を含む無機部門の営業損益は下記の通り、2018年12月期に1,324億円の黒字となった。
2018/8/13 昭和電工、2018年6月中間決算、黒鉛電極事業が大増益
2019/2/15 昭和電工の2018年12月期決算
本ブログでは2018年8月時点で次のように述べている。
「但し、こんな状況はいつまでも続くとは思えない。
中国では環境規制に対応した大手企業が黒鉛電極を増産する計画があるほか、原料のニードルコークスの需給も2019年から緩和する見通しで、価格も元に戻る可能性があると見られた。」
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