英国とEU、貿易交渉を開始 

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英国と欧州連合(EU)は3月2日から5日まで、将来的な貿易関係の 最初の交渉を行なった。

漁業から金融サービスまで10分野の作業部会に分かれて専門的な協議を行 った。

①製品貿易、②サービス貿易・投資、③運輸(航空)、④エネルギー(民間原子力協力) 、⑤漁業、⑥オープンで公正な競争のための対等な競争環境(LPF:Level Playing Field)、⑦法執行・犯罪問題における司法協力、⑧EUプログラムへの参加、⑨移動・社会保障協力/テーマ別協力 、⑩水平的アレンジメント・統治――の10分野にわたる。

今後、2~3週間ごとに交渉が行われる。現時点で5月中旬の第5ラウンドまで予定されており、双方が合意した場合に追加ラウンドを実施する。

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EUと英国は事前にそれぞれ交渉の方針を明らかにしている。

EUの欧州委員会は2月3日、基本方針案を公表した。

関税ゼロを目指すFTAの締結の条件として、労働者や環境保護、国家補助の規制、競争法、税制などのルールをEUの水準に合わせるよう求めることを明確にした。

英国が過度な規制緩和で不当に競争力を高めて、域内企業が競争上、不利になることを恐れ、「非常に野心的な貿易協定を提案する用意がある」としつつ、「競争を開かれた公平なものにする必要がある」と、関税・数量割り当てゼロのFTAは、これらLevel Playing Fieldの徹底した履行義務が条件としている。

また、英領海での加盟国の漁業権確保をFTAに盛り込むことも条件としている。

英国政府も2月3日、交渉の方針を示した声明文を公表、議会に提示した。

FTAでは、前年に合意した政治宣言に沿うかたちで関税や数量割り当てを導入しないことを目指す一方、政府補助金や環境・労働規制、税制などに関する「公正な競争条件(Level Playing Field)」については、一般的なFTA以上に規制を連動させることは認めないとの考えを明示した 。

ジョンソン首相は、補助金や環境・労働規制などLPFに関する多くの分野で英国がEUより進んでいる事例を多数列挙し、「英国は条約による強制などなくても、これらの分野において多くの点でEUよりも良い、最高の水準を維持する」と述べ、EU規制への連動を否定 した。さらに、離脱後の英国が自由貿易を推進する旗手となると強調した。

ジョンソン英首相は2月27日、EUとの間にカナダ型の自由貿易協定(FTA)が成立する見通しが立たないのであれば、6月にEUとの交渉を打ち切る意向を鮮明にした。

英国は「対等な主権を持つ二者間の友好的な協力に基づく関係」を目指して おり、「英政府が自国の法律や政治生命に対して自ら統制を取れないような取り決めについては一切交渉しない」と表明した。

カナダとEUのFTAにはこのような 「公正な競争条件(Level Playing Field)」の規定はない。

英国は6月までに合意の大まかな概要をまとめ、9月までに確定させることを目指している。6月に交渉が英国の望む方向へと進んでいるかを見極め、交渉を継続するか 、合意なしに12月31日に離脱する準備に「集中する」かを決定する方針。

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第1回の交渉を終え、EU側のバルニエ首席交渉官は、「公平な競争条件」の確保や漁業権、司法協力などを挙げ、双方に「多くの非常に深刻な違いがある」と述べた。互いを尊重し合えれば「合意はまだ可能だ」とも強調した。

EUは公平な競争条件を保つためにさまざまな規制をEU水準に合わせるよう迫ったが、英国はこれを協定に盛り込んで保証することを拒否した。

EUの漁船の英国水域での操業継続もFTAに含めるよう求め たが、「独立した沿岸国」としての実権回復を主張する英国は、漁業権を協定とは別扱いとし毎年の交渉によって決定することを求めた。

なお欧州委員長は、英国の領海内でのEUの漁船による操業を認めるのと引き換えに、英国の銀行がEUの金融市場にアクセスすることを可能にするパスポート・ルールを認める意向とされる。

残り4回の会合でどこまで歩み寄れるかは不透明である。

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漁業権の問題は根が深く、複雑である。

英国は1964年、欧州12カ国とロンドン漁業条約を締結し(1966年3月発効)、自国の領海沿岸6~12カイリ内の水域での外国漁船の操業を認めた。

1973年に英国が欧州共同体(EC)に加盟し、共通漁業政策(CFP)に自国の漁業管理を委ねることになった。

CFPは、欧州経済共同体(EEC)水域に関する加盟国間のオープンで平等なアクセスを保証し、同水域における資源保護措置を決定する権限をEECに与えた。

1983年にEEC水域に対する年間総許容漁獲高(TAC)が導入され、毎年、加盟国間で配分されるようになった。英国の漁民は割り当てられた漁獲枠に制限される一方で、他国漁船が自国EEZで操業するのを黙認せざるを得ない状態に長年置かれてきた。


EU離脱派である漁民の団体「離脱に向けた漁業」は、EU水域での英国漁船の漁獲量は13%に過ぎないのに、英国水域の漁獲量の59%が英国以外のEU漁船によるものと試算している。


(2つの図はJETROレポートから)

さらに、1986年にスペイン、ポルトガルがECに加盟したが、両国へのTAC配分率が厳しく抑えられたことから、両国の漁業関係者が英国やアイルランドに法人を設立し、中古漁船を大量に購入して英国船籍を取得、英国企業として水産業に参入、その結果、英国分のクオータがスペインやポルトガルに事実上横取りされている。

また、他国の漁船が割当量の超過を避けるため、船上で選別して市場価値が低いと判断したものを廃棄していることも問題視している。

2016年のEU離脱を問う国民投票直前の調査では、英国の漁業従事者の92%が離脱に投票すると回答したとされる。

英国はEU離脱で主権を回復し、領海内での漁業を自国で管理しようとしており、逆にEUは従来通りとすることを求めている。

但し、英国の弱みは、現在でも水産物と水産加工品の4分の3を輸出し、輸出額の65%はEU市場向けであることである。英国が水域内の漁獲量を増やした場合、その輸出先はEUとなる。

EUは
EUの漁船の英国水域での操業継続 が認められない場合、英国の水産品に関税をかけるとしており、その場合は英国の漁業には大打撃となる。

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