JXTGホールディングスは3月26日、2020年3月期の損益予想の修正を発表した。
新型コロナウイルス感染症拡大に起因する原油・銅価格の下落や国内外における石油・石化製品の需要・マージン等の状況から、2019年11月8日に公表した予想を修正した。
営業損益では、一般損益が3100億円悪化、在庫評価で1800億円悪化し、前回2800億円の利益と予想したのが、現時点では2100億円の赤字となる
なお、後記の通り、本来の営業活動に必要でない大量の在庫の評価損で経営の実態が歪められている。
近似値としては、実質的な営業損益は「一般」の400億円の利益であるが、これも総平均法によりコストが割高に計上されている。
当期損益は、前回の1550億円の利益が4550億円悪化し、3000億円の損失となる。
2019/11/8 予想 |
修正 | 今回予想 | ||||
営業損益 | 一般 | エネルギー | 1,950 | -1,950 | 0 | 需要減少、マージンが大幅に縮小 |
石油・天然ガス開発 | 550 | -1,050 | -500 | 資産の減損 | ||
金属 | 500 | -100 | 400 | |||
その他 | 500 | 0 | 500 | |||
合計 | 3,500 | -3,100 | 400 | |||
在庫影響(低価法) | -700 | -1,800 | -2,500 | 下記参照 | ||
総計 | 2,800 | -4,900 | -2,100 | |||
当期損益 | 1,550 | -4,550 | -3,000 |
付記
最終決算では、営業損益で、在庫影響が-2,098億円にとどまり、一般が967億円に増益となった。
この結果、営業損益は-1,131億円、当期損益は-1,879億円となった。
新型コロナウイルスによる石油需要減少のなか、OPECプラスの減産交渉が決裂し、サウジとロシアは大増産に踏み切った。
2020/3/9 OPECプラス、追加減産で決裂、3月末で減産終了
2020/3/11 サウジが2割増産、ロシア追随、石油価格戦争へ
この結果、1月に1バーレル当たり64ドルだったドバイ原油価格は3月には30ドル台まで大幅に下落した。3月23日には25.70ドルまで下がった (2カ月後渡しの先物価格)。
本決算の3月末まででは、原油価格はそれほどは下がっていない。本当に大きな影響が出るのは4月以降である。
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石油業界は「石油の備蓄の確保等に関する法律」によ り、営業活動に必要な在庫に加え、消費量の70日分相当量の石油の備蓄義務がある。原油価格が急激に変動する場合は、これが損益に大きな影響を与える。
原油などの棚卸資産は、総平均法で評価するとともに、期末の時価が簿価を下回る場合は低価法により時価に置き換える。
70日分の備蓄は本来の事業活動には不要のものであり、通常の在庫と切り離し、当初の簿価で維持しておくべきであるが、会計処理上は通常の在庫と合わせて経理処理する。
今回のように原油価格が大きく下がると、下がった分の多くが備蓄在庫の簿価引き下げにまわり、その分が当期の原価には反映されないこととなる。その結果、原油価格の下落で売価が下がるが、原価はそれに応じて下がらず、マージンが縮小する。
今回、エネルギー部門の損益は、需要の減少と、このマージンの縮小で1950億円の悪化となった。
備蓄分を含めた在庫については、安価な購入品を含めた総平均法により簿価は期首よりは下がるが、期末の時価よりは非常に高い水準にあり、低価法で時価に置き換えると、2500億円の評価損となる。2019年11月時点では700億円の損失を見込んでいたが、更に1800億円悪化する。
一般損益と在庫影響を加えると営業損益で4900億円の損益悪化となり、当期損益では4550億円の悪化となる。
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上記のように、この業界特有の理由で、本来の営業活動に必要でない大量の在庫の評価で当期の損益が大幅に変動し、本来の事業活動の状況が分かり難くなる。
このため、各社は独自の計算で在庫影響を除いた損益を発表している。(会計基準に基づかないもので、監査の対象外)
上のグラフの通り、2015年3月期も原油価格が激減した。
当時の(東燃ゼネラルとの統合前の)JXホールディングス(日本方式)は下記の報告をしている。(億円)
営業損益 経常損益 当期純損益 2014/3 2,137 3,023 1,070 2015/3 -2,189 -1,501 -2,772 (除 在庫影響) 1,864 2,552
なお、国際会計基準(IFRS)では、この後に時価が上がり、評価減する原因となった従前の状況がもはや存在しない場合、又は経済的状況の変化により正味実現可能価額の増加が明らかである証拠がある場合、当初の評価損の金額を上限として、評価減の戻入れを行う方法が認められている。
その後、原油価格は値上がりしているが、JXTGホールディングス(IFRS方式)では各年度で評価減の戻入が行われている。(最終損益は在庫影響を除く損益よりも多い。)
営業損益 税引前損益 当期純損益 2017/3 2,711 2,491 1,500 (除 在庫影響) 1,411 2018/3 4,875 4,674 3,619 (除 在庫影響) 3,726
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