ドイツのバイオ製薬会社 CureVac が開発中の新型コロナウイルスのワクチンを独占するために、米国が巨額の資金支援を約束したとの報道がなされた。ドイツ政府が激怒し、阻止に乗り出したとしている。
2000年に設立されたCureVacは、伝染病のワクチンおよびがん・希少疾患の治療薬の開発を主力分野とし、新型コロナウイルスのワクチンの開発で競争している。同社は新型コロナウイルスの実験ワクチン候補物質2個を選定し、早ければ6月にも人体を対象にした臨床試験に入ることを期待している。
ドイツの週刊 Welt am Sonntag 紙が3月15日、政府関係者の話を引用して、トランプ米大統領がCureVacに数十億ドルの財政支援を提示し、ワクチンに対する独占権を米国に渡すよう懐柔したと報道した。
トランプ大統領が3月2日、ホワイトハウスで開かれた新型コロナ対策会議でCureVac の当時のCEO のDaniel Menichella に会い、CureVac の研究成果を独占するために会社を買収するか、または研究陣を米国に移転する方案を打診したという。匿名のドイツ政府関係者の発言を引用し、大統領は「米国のためだけに」ワクチンを手に入れるべく様々な手を尽くしていると述べた。
米国のこうした動きに憂慮したドイツ政府が財政支援を通じてCureVacをドイツに留め置く方案を検討しているとも伝えた。
実際にCureVecは3月2日付で下記の発表をしている。
当社の Daniel Menichella CEO は本日、White Houseに招かれ、Trump大統領、Pence副大統領やWhite House のコロナウイルスタスクフォースのメンバーや医薬やバイオ企業のトップと、ウイルスワクチンの開発、生産についての戦略を議論した。席上、CEOは当社のmRNA技術ベースのワクチンの可能性を強調し、「この2~3か月でワクチンを開発できると自信を持っている。更に当社は1回の生産で1千万回分のワクチンを生産するGMP基準に合致した製造設備を持っている」と述べた。
CureVecは2011年にmRNAベースのワクチンの開発を始めた。米国防省の国防高等研究計画局から資金援助を受けており、Bill and Melinda Gates Foundationや感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)からも援助を受けている。
しかし、3月11日に このDaniel Menichella CEOは解任され、創業者でSupervisory Board会長の Ingmar HoerrがCEOに就いている。理由は明らかにしていない。CEOの提案が社内で否決されたのではないかと思われる。(同社は3月16日、新CEOが病気で一時的に休職すると発表した。コロナウイルスではない。復職までの間、副CEOが職務を代行する。)
Welt am Sonntag 紙の報道を受け、ドイツの政界は強く反発した。ドイツ政府も関連内容を事実と認定し、対応に乗り出した。
批判が強まり、CureVecの筆頭株主 Dietmar Hopp(SAPの創業者)がドイツ紙 Mannheimer Morgen に「このワクチンは特定地域だけでなく全世界のすべての人が使うべきだ」として、米国に独占権を与えることはないと述べた。
CureVecはツイッターで「3月2日にWhite Houseで開かれた特別委員会の最中や、その前後にも、米政府や関係者から提案を受けていない。報道内容のすべてを否定する」と表明した。
ドイツ保健省は「新型コロナウイルスに対するワクチンや成分化合物が国内及び欧州でも開発できるよう大いに注目している」との声明を発表した。さらに、「それを考慮して、独政府はCureVecと緊密に情報交換している」と述べた。
連立政権に参加するドイツ社会民主党の医療政策担当報道官カは「あらゆる手段を使って、効果のありそうなワクチンが米国で独占販売される事態を阻止しなければならない」と述べた。
一方、米政府関係者はウェルトの記事について「かなり誇張されている」と述べた。
米政府はワクチン開発への協力を申し出た25社以上と会合を持ち、ほとんどの企業に米投資家からのシードマネー(初期段階の資金)を提供しており、今後も同様の申し出があれば検討していく。解決策が見つかった場合、各国と共有すると述べた。
Merkel 首相は報道陣に詳細には触れず、「本件は解決された。独政府は非常に迅速にこの状況に対処した」と述べた。
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この問題が大々的に報じられたためかどうか、EUの欧州委員会は3月16日、欧州でのコロナウイルス蔓延に対応するため、ワクチンの開発・生産の促進のためにCureVacに80百万ユーロを供与すると発表した。
欧州委員長のUrsula von der Leyen は3月17日、ワクチンが秋には用意できるだろうと述べた。
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米国立保健研究所(NIH)の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)は3月16日、新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験の第1段階に入ったと発表した。
ワクチンはNIAIDの研究者らが米バイオテクノロジー会社Moderna Therapeuticsと共同で開発したもので、たんぱく質の遺伝情報を運ぶ「メッセンジャーRNA(mRNA)」を投与して体内に抗原を作り出し、免疫反応を起こさせる。
(CureVecもmRNA技術ベースのワクチン)
第1段階ではワクチンの安全性を確認し、期待する免疫反応が得られるかどうかを試す。期間は6週間で、健康な成人計45人を対象に、1カ月の間を置いて計2回、さまざまな量を投与する。
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