新型コロナ治療薬「アビガン」承認へ

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安倍首相は3月28日夜の記者会見で、新型インフルエンザ薬「アビガン」について「新型コロナウイルスの治療薬として正式に承認するにあたって必要となるプロセスを開始する」と発表した。

膵炎治療薬の「フサン」についても投与をスタートする。

発言:

政府としても一日も早く皆さんの不安を解消できるよう、有効な治療薬やワクチンの開発を世界の英知を結集して、加速してまいります。先般、テレビ電話で実施されたG7サミットでも、G20サミットでもそのことを強く主張し、世界の首脳たちから賛同を得ました。

わが国では、4つの薬について、すでに観察研究としての投与を開始しています。

このうち新型インフルエンザの治療薬として承認を受け、副作用なども判明している「アビガン」については、これまで数十例で投与が行われています。ウイルスの増殖を防ぐ薬であり、すでに症状の改善に効果が出ているとの報告もあります。

「アビガン」には、海外の多くの国から関心が寄せられており、今後希望する国々と協力しながら、臨床研究を拡大するとともに、薬の増産をスタートします。
新型コロナウイルス感染症の治療薬として、正式に承認するに当たって必要となる治験プロセスも開始する考えです。

付記 

富士フイルム富山化学は臨床試験(治験)を3月31日から病院と連携して行う。

インフルエンザ治療薬としては承認を受けているが、新型コロナウイルス治療薬として正式に承認されるためには企業による治験が必要となる。通常は半年近くかかるが、感染拡大が深刻化している状況を踏まえ、治験後は早期に承認される可能性がある。
生産能力拡大のため他社への生産委託も検討している。

エボラ出血熱の治療薬として開発されていた「レムデシビル」については、日米が中心となった国際共同治験がスタートしています。

そして、5つ目の有力候補として膵炎の治療薬に承認されている「フサン」について今後観察研究として、事前に同意を得た患者の皆さんへの投与をスタートする予定です。

さらには現在、治療薬やワクチンなどの開発に向けて、大学や民間企業でもさまざまな動きが出てきています。

これらを政府が力強く、後押しすることにより、あらゆる可能性を追求します。日本だけでなく、世界中を未曽有の不安と恐怖が覆う中で、日本は持ち前のイノベーションの力で希望の灯をともす存在でありたいと願っています。

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既に投与を開始している「4つの薬」は下記のものと思われる。

1) アビガン

富士フィルム子会社の富山化学(2018年10月に富士フイルムRIファーマと統合し、富士フイルム富山化学)は抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠200mg」(Favipiravir) を開発した。

現在、治療に用いられている抗ウイルス剤はノイラミニダーゼ阻害剤(Neuraminidase inhibitors)で、増殖されたウイルスの放出を阻害して感染の拡大を防ぐものだが、アビガンは、ウイルスの細胞内での遺伝子複製を阻害することで増殖を防ぐRNAポリメラーゼ阻害剤である。

富山化学は2014年3月24日、日本で錠剤タイプの新しい抗インフルエンザウイルス薬「アビガン®錠200mg」の製造販売承認を取得した。

アビガンは、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、既存の抗インフルエンザ薬が無効又は効果不十分である場合に備え、新しいメカニズムのアビガンを使用可能な状況にしておくことは意義があると判断され、世界に先駆けて国内で承認となった。

直ちに医家向けに販売するのではなく、厚生労働大臣から要請を受けて製造・供給等を行うもので、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合に、患者への投与が検討される。

承認には次のような厳しい条件がついている。

動物実験で初期胚の致死及び催奇形性が確認されていることから、妊婦または妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。

富士フィルムは新型インフルエンザ流行に備えた国家備蓄用に200万人分を約68億円で納入している。

2) 抗ウイルス薬「レムデシベル」

米国立衛生研究所(NIH)は、COVID-19の治療薬候補のGilead Sciences 社のRemdesivirの世界規模での治験に着手した。世界50カ所で偽薬とremdesivir を患者に投与し、治療効果を検証する。治験参加数は400人程度を想定しており、既に募集を始めた。

2020/2/22 COVID-19、WHOが2つの治療法試験ーーー 3週間以内に結果判明  

中国を視察しているWHOのBruce Aylward 事務局長補は2月24日、「現時点で有効と思われる唯一の薬がある。それは remdesivirだ」と述べた。

3) エイズ発症抑える抗ウイルス薬「カレトラ (Kaletra)」

AbbVie Inc.が販売するもので、HIV感染症のHAART療法に用いられるプロテアーゼ阻害薬のLopinavirとRitonavir の合剤。WHOを中心とした研究開発チームが試験している。

HAART (highly active anti-retroviral therapy)療法は、複数の抗HIV-1薬を各人の症状・体質に合わせて組み合わせて投与し、ウイルスの増殖を抑えAIDS の発症を防ぐ治療法。

抗HIV薬は作用機序により、ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、インテグラーゼ阻害剤(INSTI)、侵入阻害剤に分類される。

HIVはその増えていく過程でウイルスの組み立てに必要な蛋白質を感染した細胞に作らせる。その蛋白質は、まず大きな分子として組み立てられるが、そのままの大きさではウイルスが組み立てられない。そのため、HIVに特有のプロテアーゼという酵素がその蛋白質を適当な大きさに切断する。この酵素の働きを阻害するのがプロテアーゼ阻害薬である。

4) 抗マラリア薬のリン酸クロロキン」

中国政府は、抗マラリア薬の「リン酸クロロキン」で治療効果があったと示し、国内でも類似の薬を患者に投与したケースが報告されている。

日本では製造・販売が禁止されている。マラリア予防薬としては最も安全性の高い薬剤だが、薬剤耐性マラリアが多いことが欠点。薬害としてクロロキン網膜症がある。

Bayerは「リン酸クロロキン」300万錠を米国政府に寄付した。マラリア用などで米国で承認を受けているが、新型コロナウイルス用に緊急使用の申請をしている。


5つ目の 候補
「フサン」

東京大・医科学研究所の井上純一郎教授らは3月18日、急性膵炎の治療薬として国内で長年使われてきた点滴薬剤「ナファモスタット(商品名フサン)」が新型コロナウイルスの感染を阻止する可能性があると発表した。

フサンは、ウイルスのSタンパク質とヒト細胞のACE受容体が結合したのち、TMPRESS2で切断されてSタンパク質が活性化されるのを阻止する。



2020/3/18 
急性膵炎治療薬が新型コロナウイルス感染阻止の可能性

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