このところ、トランプ大統領が新型コロナウイルスをめぐり、繰り返し、「マラリアなどの治療に使われる薬が有効だと思う」と主張している。
抗マラリア剤のヒドロキシクロロキン で、免疫に関わる病気の全身性・皮膚エリテマトーデス治療薬としても使われている。
有効性は確認されておらず、副作用も指摘されているため、専門家はいさめ続けているが、大統領は意に介 さず、「とても強力な薬だ」「これはゲームチェンジャーだ」と繰り返す。
クロロキンは1934年にドイツのBayerが合成した 。マラリアの治療に有効であるが、毒性が強いため、開発は中止された 。
第二次大戦中に米軍が入手し、マラリアの特効薬と 認めた。
WHOは最近、従来常用されてきたクロロキンが抵抗性のため、ほとんどの国でその効果を失ってしまったと指摘している。
日本では、2015年7月にサノフィのプラケニル®錠が「全身性エリテマトーデス,皮膚エリテマトーデス」の適応症で承認を取得し,同年9月から販売されている 。
付記
米食品医薬品局(FDA)は4月24日、抗マラリア薬の「ヒドロキシクロロキン」と「クロロキン」について、心臓に深刻な副作用を引き起こすリスクがあると警告した。医者の監督下で慎重に使うよう呼びかけた。
FDAは新型コロナの治療薬として承認していないが、医療現場では既に一定条件の下で使われている。FDAは「深刻で生命を脅かす可能性がある心臓への副作用が報告されている」と指摘し、副作用のリスクを抑えるため入念な事前検討や経過観察を医療関係者に求めた。
付記
トランプ大統領は5月18日、抗マラリア薬ヒドロキシクロロキンについて、自分は予防薬として飲んでいると発言した。COVID-19への効果はまだ未確認で、医薬品当局は心臓への悪影響など副作用があり得ると警告している。
付記
WHOは5月25日、ヒドロキシクロロキンの臨床試験を一時中断すると発表した。
英医学誌 Lancet が患者の死亡リスクを増大させると報告したため。
付記
WHOは2021年3月2日、「ヒドロキシクロロキン」を新型コロナウイルスの予防薬として使わないよう「強く勧める」と発表した。
6000人以上を対象とした6つの無作為の研究で、死亡や入院を防ぐ効果がない可能性が高いとわかった。
WHOは感染そのものを防げる効果についても、効果が無いという「中程度の確実性の証拠」があると指摘した。「おそらく副作用の危険も高まる」とも付け加えた。
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最近、CVD-19に対する効果が相次いで報告されている。
2020年2月4日付Cell Researchに、中国科学院武漢ウイルス研究所などの研究グループが効果があることを発表した。
3月10日に日本感染症学会のホームページ上で、 九州地方にある医療機関の医師らが報告した。
他の治療が効かない2名の患者に投与したところ、症状が改善した。
http://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_casereport_200312_5.pdf3月20日にフランスの研究チームが International Journal of Antimicrobial Agents 誌に、新型コロナウイルス肺炎の治療および患者のウイルス保有期間減少に効果をもつ可能性があると報告した。
アメリカFDAは2020年3月29日、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンについて、Covid-19の治療で小規模な症例の報告しかないものの「想定される効能がリスクを上回ると考えられる」として、緊急治療薬として承認した 。(Emergency Use Authorization)
トランプ大統領はこれらの点から「COVID-19に有効だと思う」と繰り返している。
しかし、FDAは慎重で、「現在、まだテスト中である」とし、緊急治療薬としての承認は特定の条件に合致した患者にのみ適用されるとしている。
米保健福祉省(HHS)は「症例報告ベースで、COVID-19の入院患者にある程度の利益をもたらす可能性があることが示唆されているものの、COVID-19への有効性を示す科学的根拠を提供するには、臨床試験が必要だ」とくぎを刺している。
多くの専門家は、データが少なすぎるとしてこの緊急治療薬としての承認に批判的で、FDAのあるOBは、「一体誰がこれにサインしたのか」と怒っている。
ホワイトハウスの新型コロナ対策チームの主要メンバーの一人でもある国立アレルギー感染症研究所の所長 も効果について「根拠が乏しく、はっきりしたことは言えない」と懸念を示す。
薬を使わなかった場合と比較しておらず、信頼性に欠けるとされる。不整脈などの副作用の懸念もあり、不用意に服用すると危険だという。(長期使用する場合、網膜症の恐れがある。)
これに対し、経済担当のピーター・ナバロ大統領補佐官が「十分に有効性がある」とし、ホワイトハウス内でぶつかっているという。
4月5日の会見で、大統領ははすでに2900万回分の薬を備蓄していると明かし、「ダメで元々だ」「もし効いたときに、早く使わなかったことを残念に思うだろう」などと繰り返し発言した。
最近、過剰な期待から品薄となり、常備薬として必要な患者の手に届きにくくなっている問題も起きている。
欧州医薬品庁(EMA)は4月1日、医師の行う治験や国が特別に許可した場合でなければヒドロキシクロロキンを使わないよう声明を出した。
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Novartisのジェネリックおよびバイオ後続品部門でクロロキンを製造するSandoz は30百万錠のヒドロキシクロロキンを寄付した。Bayerも100万錠のクロロキンを寄付した。
Novartisは4月3日、COVID-19の支援として、ジェネリック医薬品ヒドロキシクロロキンを最大1億3,000万回分相当を寄付すると発表した。同社は現在、新型コロナウイルス感染症の治療に向け臨床試験を実施している。
規制当局が新型コロナウイルス感染患者への投与を認めた場合、現在在庫として保有している200mg/投与x 5,000万回を含み、最大1億3,000万回分を5月末までに寄付する。
今後の供給の拡大も視野に入れており、世界の需要を満たすために世界中のメーカーと協力して取り組んでいく考えとしている。
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