英国の「EU離脱後」交渉、難航

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EUと英国は4月24日、英・EUの自由貿易協定(FTA)など将来関係を巡る交渉で進展が得られなかったと発表した。特に「公正な競争環境の確保」や「漁業」など4つの対立点で溝が埋まらなかった。

付記

EUと英国は5月15日、5日にわたった第3回会合(テレビ会議)を終えたが、「公正な競争環境の確保」や「漁業」など対立する重要分野での進展は今回も見られず、「期待外れだった」(EUのバルニエ首席交渉官)。

最大2年の期間延長を決定できる期限が6月末に迫る。6月初めに予定する次回会合で正念場を迎える。 

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英国とEUは2020年末までの「移行期間」中にFTAを締結すべく交渉することになっている。

3月2日から5日まで、将来的な貿易関係の最初の交渉を行なった。

漁業から金融サービスまで10分野の作業部会に分かれて専門的な協議を行った。

①製品貿易、②サービス貿易・投資、③運輸(航空)、④エネルギー(民間原子力協力) 、⑤漁業、⑥オープンで公正な競争のための対等な競争環境(LPF:Level Playing Field)、⑦法執行・犯罪問題における司法協力、⑧EUプログラムへの参加、⑨移動・社会保障協力/テーマ別協力 、⑩水平的アレンジメント・統治――の10分野にわたる。

第1回の交渉を終え、EU側のバルニエ首席交渉官は、「公平な競争条件」の確保や漁業権、司法協力などを挙げ、双方に「多くの非常に深刻な違いがある」と述べた。互いを尊重し合えれば「合意はまだ可能だ」とも強調した。

英国は6月までに合意の大まかな概要をまとめ、9月までに確定させることを目指している。6月に交渉が英国の望む方向へと進んでいるかを見極め、交渉を継続するか 、合意なしに12月31日に離脱する準備に「集中する」かを決定する方針。

2020/3/12 英国とEU、貿易交渉を開始 

3/18~20日に計画した第2回会合は新型コロナウイルスの影響で中止に追い込まれた。

EUのバルニエ首席交渉官は3月19日、新型コロナウイルスに感染したことを明らかにした。

3月20日には英国側の責任者をデービッド・フロスト氏が新型コロナウイルスの症状を示し、自主的に隔離措置を講じた。

EUと英国は4月15日、交渉日程の変更で合意した。テレビ会議に切り替え、4~6月に毎月1回(4月20日、5月11日、6月1日から)1週間程度の交渉会合を開く。6月末までに首脳級のハイレベル会合を開き、交渉の進捗を確認する。

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今回、EUのバルニエ首席交渉官は「失望した」と表明した。英政府の報道官も、「交渉の進展は限定的だった」と説明した。

特に溝が深いのが「公正な競争の確保(Level Playing Field」 である。

EUの欧州委員会は2月3日、基本方針案を公表したが、関税ゼロを目指すFTAの締結の条件として、労働者や環境保護、国家補助の規制、競争法、税制などのルールをEUの水準に合わせるよう求めることを明確にした。

英国が過度な規制緩和で不当に競争力を高めて、域内企業が競争上、不利になることを恐れ、「競争を開かれた公平なものにする必要がある」と、関税・数量割り当てゼロのFTAは、Level Playing Fieldの徹底した履行義務が条件としている。

英国政府も2月3日、交渉の方針を示した声明文を公表したが、政府補助金や環境・労働規制、税制などに関する「公正な競争条件」については、一般的なFTA以上に規制を連動させることは認めないとの考えを明示した。

ジョンソン英首相は2月27日、EUとの間にカナダ型のFTAが成立する見通しが立たないのであれば、6月にEUとの交渉を打ち切る意向を鮮明にした。

「対等な主権を持つ二者間の友好的な協力に基づく関係」を目指しており、「英政府が自国の法律や政治生命に対して自ら統制を取れないような取り決めについては一切交渉しない」とした。

カナダとEUのFTAにはこのような「公正な競争条件(Level Playing Field)」の規定はない。

今回もEUは、英国が税制や雇用政策などの面でEUルールに合わせるべきだとの立場を変えておらず、英側は「EUが他の国と結んだFTAの前例にはないことを要求している」と批判し、一歩も譲らない姿勢 を見せた。

本件については、英国側の主張が正しく、EUの主張は無理押しである。

漁業に関する具体的な進展はなかった 。EUは、「漁業に関する公平かつ持続可能で長期的な解決策を含まない将来の経済連携に合意するつもりはない」としている。

1983年にEEC水域に対する年間総許容漁獲高(TAC)が導入され、毎年、加盟国間で配分されるようになった。

英国の漁民は割り当てられた漁獲枠に制限される一方で、他国漁船が自国EEZで操業するのを黙認せざるを得ない状態に長年置かれてきた。

英国はEU離脱で主権を回復し、領海内での漁業を自国で管理しようとしており、逆にEUは従来通りとすることを求めている。

但し、英国の弱みは、現在でも水産物と水産加工品の4分の3を輸出し、輸出額の65%はEU市場向けであることである。英国が水域内の漁獲量を増やした場合、その輸出先はEUとなる。
EUは
EUの漁船の英国水域での操業継続が認められない場合、英国の水産品に関税をかけるとしており、その場合は英国の漁業には大打撃となる。

今回、「公正な競争環境の確保」、「漁業」とあと2つの対立点で溝が埋まらなかった。

5、6月に1回ずつ交渉を重ねる予定だが、妥結の道筋は見えていない。

離脱協定によると、移行期間の延長は1回に限り、1年あるいは2年の期間でされるが、そのためには、6月30日までに双方で合意・決定する必要がある。

拙速な交渉は避けて移行期間を延長すべきだとの声は強まっているが、英国側は今回の交渉後も依然として、移行期間の延長には応じない方針であり、FTAなしの 離脱となる可能性も出てきた。そうなれば、英・EU双方の経済に甚大な影響を与えるのは避けられない。

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