愛媛大学プロテオサイエンスセンターと大日本住友製薬は4月3日、米国のNPO団体のPATH(Program for Appropriate Technology in Health)と3者共同で進めている「新規マラリア伝搬阻止ワクチンの前臨床開発プロジェクト」が、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)の助成案件に選定されたと発表した。
5億円の助成金を受け、新規マラリア伝搬阻止ワクチン製剤の前臨床開発を行う。
GHIT Fundは、政府・企業・財団が出資するもので2013年4月に設立された。開発途上国に蔓延する感染症の新薬やワクチン等の新しい医薬品の研究開発および製品化を促進することにより、グローバルヘルスへ貢献することを目的にしている。
GHIT Fundは今回、マラリア、結核、熱帯病のシャーガス病、マイセトーマ、リーシュマニア症、リンパ系フィラリア症(象皮症)、オンコセルカ症(河川盲目症)に対する新薬開発11件に対して、総額約32.9億円の投資を行うことを決定した。新規案件が5件、継続案件が6件で、本件以外にもマラリア関連が5件ある。今回の投資案件一覧
PATHはビル&メリンダ・ゲイツ財団の寄付を受け、1999年から「マラリア撲滅」を目指してマラリアワクチン・イニシアチブ(MVI)を実施している。プロテオサイエンスセンター(Proteo-Science Center)は,愛媛大学で開発されたコムギ無細胞タンパク質合成技術を基盤として,タンパク質機能から生命現象の解明に至るポストゲノムの生命科学研究のみならずその医学応用研究を行い,プロテオサイエンスの国際拠点形成,及び,がん,自己免疫病,難治性感染症など難病の新しい診断・治療法の開発を目的に設立された。
マラリア原虫はハマダラカに寄生する。「伝播阻止ワクチン」は、蚊の中でマラリア原虫の発育を阻止する。
他に、ヒトへの感染を阻止する「感染阻止ワクチン」、ヒト体内で赤血球期原虫の増殖を阻止する「発病阻止ワクチン」がある。
後の2種のワクチンは、ワクチン接種した本人が病原体から守られるが、感染阻止ワクチンは本人はマラリア原虫から守られない。 しかし、蚊がワクチンを接種した人の血を吸うと、その蚊に寄生するマラリア原虫は激減するため、他の人は守られることとなる。本ワクチンはマラリア流行地域において、コミュニティー全体をマラリア感染から守り、さらなる感染の拡大を防ぐワクチンとして期待されている。
このワクチン候補となる原虫タンパク質も限られており、またそのタンパク質合成も困難なことからその研究開発は順調には進んでいなかった。
本プロジェクトの対象となるワクチン製剤はヒトから蚊への原虫感染サイクルを断つことができるマラリア伝搬阻止ワクチン候補製剤で、
・愛媛大学とPATHにより見出された高品質な新規熱帯熱マラリア抗原(Pfs230D1+)と、
・大日本住友製薬が持つ新規ワクチンアジュバント(Toll様受容体7アジュバント:DSP-0546E)で構成されている。
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愛媛大学と大日本住友製薬は2019年4月9日、アフリカやアジアなどで猛威を振るうマラリアのワクチン開発につながる抗原を発見したと発表した。
愛媛大学の遠藤弥重太特別栄誉教授はコムギ無細胞タンパク質合成法を世界に先駆けて実用化に成功している。
小麦の種子は、主に外皮、胚乳、胚芽の3つから構成され、胚芽にはタンパク合成に必要な翻訳因子が豊富に含まれてい る。
コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系を使えば、真核生物、原核生物、ウィルスなど多様な生物種由来のタンパク質をつくることが可能 。
コムギ抽出液に対象のDNAを入れると、転写、翻訳され、タンパク質がつくられる。
愛媛大学のプロテオサイエンスセンターでは、この技術を利用して、マラリア原虫タンパク質を作成した。
精製したマラリアタンパク質をウサギに注射すると、148種の抗体が出来た。
マラリア原虫と148種の抗体を1日培養し、原虫増殖阻害効果が高く、遺伝子変異による耐性化の可能性が非常に低い抗体 PfRipr を見つけた。
しかし、PfRiprは複雑すぎ、多量に合成できない という問題があった.
このたんぱく質を小さく断片化し、強い薬効を有し、大量合成が可能なPfRipr5 (Rh5 interacting protein)を見出した。
マラリアワクチンは、マラリア原虫のタンパク質とアジュバンド(免疫増強剤:マラリアタンパク質に対する抗体をつくらせる)でつくる。
愛媛大学と大日本住友製薬は2019年にGHIT Fundから93百万円の助成金を受け、このマラリアタンパク質Ripr5 をつかったワクチンの開発を進めた。
2019/4/11 愛媛大学と大日本住友製薬のマラリアワクチン開発
今回のプロジェクトは、愛媛大学/PATHにより見出された高品質な新規熱帯熱マラリア抗原(Pfs230D1+)と、大日本住友製薬が持つ新規ワクチンアジュバント(TLR7アジュバント)DSP-0546Eで構成されるワクチン製剤の前臨床開発を行う。
TLR7アジュバント(DSP-0546E)は、ウイルス由来のRNA を感知して自然免疫応答を引き起こすToll 様受容体の一つであるTLR7 を活性化させる物質で、抗原に添加することによって免疫応答の量、質および持続性を高める免疫増強作用を有する。
2020年4月からの2年間、PATHが代表者としてプロジェクト全体を管理し、抗原タンパク質の提供、前臨床試験および治験申請業務を担当する。
愛媛大学は免疫原性など本剤が誘導する抗体の機能評価を、大日本住友製薬はアジュバント製剤の開発や非臨床評価を担当する。
本プロジェクトの終了後に、3者は米国において臨床試験を開始する予定。
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