OPECプラスは4月12日、日量970万バレルの協調減産に合意したが、4月の原油需要が前年比2900万バレル減とされ、原油の値下がりが続いている。
4月20日のNY原油市場で 5月もの(4/21決済)WTI原油は -37.63ドル/バレル(一時 -40.32ドル)と市場初のマイナスとなった。
米国で原油生産量が最も多いテキサス州の規制当局が供給過剰の解消に向けた生産制限の導入について検討を始めた。導入すれば1970年代前半以来、40年以上ぶりとなる。
3月に石油業者2社がエネルギー分野の規制当局であるTexas Railroad Commissionに対し、石油の生産制限を検討するよう求めた。
石油の州際取引は当初、主に鉄道によって行われていたため、各州のRailroad Commission が石油(その後、ガスが加わる)の規制を担当する。
Railroad CommissionはTexas Natural Resources Code により、余剰が差し迫っている場合に石油とガスの生産を割当制にする権限を有している。
3月21日にTexas Railroad CommissionはOPEC事務局長と石油市場安定化問題を話し合ったとされる。
Railroad Commissionは4月14日、生産制限をめぐる公聴会をオンラインで開いた。
意見は分かれた。
シェール生産大手の幹部は「原油安はOPECプラスに参加しない米国などの減産が明確になっていないからだ」と指摘し、州内の生産者に2割程度の減産を命じるべきだと訴えた。
他のシェール大手はこれに反発、既に掘削を30%停止するプロセスに入っており、もし州で生産制限が実施されればゼロに減らす、その場合、雇用喪失、家庭への影響といった形で深刻な結果をもたらすだろうと警告した。
「一部の事業者が契約上の義務を履行しなくて済むようになることを期待して強制的な減産に賛成しているのではないか」との指摘もあった。
米国石油協会は「制限は長期的な生産性低下につながりかねない」と反対の立場を示した。
Railroad Commissionは4月21日に 会合を開いたが、生産量を20%カットするという提案の投票を拒否した。次回は5月5日に開催する。
付記
テキサス鉄道委員会は5月4日、翌日に予定されていた生産制限に関する採決の中止を決定、この問題は「葬られた」。
3人のメンバーの一人だけが生産割り当てに対する支持を表明、他の州や他国も同様の動きをとることを条件に、州内の原油生産を2割削減し、割り当てを超過して生産した業者にはバレル当たり1000ドル程度の罰金を科すことを提案していた。
オクラホマ州でも、Oklahoma Corporation Commissionが5月11日の公聴会を予定している。
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OPECプラスは4月12日、4月9日に続いてふたたび緊急テレビ会議を開き、アジアの原油市場が開く直前に日量970万バレルの減産で最終合意した。
当初、OPECプラスは、米国やカナダ、ノルウェーなど枠組みに参加していない産油国については、4月10日に開かれる主要20カ国・地域(G20)エネルギー相会合で減産への協力を取り付けることを目指した。
日量500万バレル削減を求め、全体で1500万バレルの減産を目指した。
しかし、4月10日のG20エネルギー相会合の声明では「世界経済の回復とエネルギー市場の安定を確保するため、協調した対応策を作るよう協力する」としたが、OPECプラス以外の諸国の減産目標は明記できなかった。
カナダとノルウェーはこれまでに減産に前向きな姿勢を示していた。
しかし、ブルイエット米エネルギー長官は会議で米国の生産量は2020年末までに日量200万バレル減るとの見通しを説明。OPECプラスには減産を求める一方で、「自由で開かれた原油市場」を重視する考えを強調し、生産量を連邦政府が決めるのは適切ではないとの建前論にとどまった。
米国は代わり国家戦略備蓄施設の活用を提案した。備蓄施設を民間企業に貸し出し、行き場を失った原油を貯蔵し市場の流通量を削減するが効果は限られている。
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米国では反トラスト法が業者が協調することを違法としており、政府が生産を規制することもできない。
米国はOPECそのものを違法としてきた。
米下院司法委員会は2019年2月7日、OPEC加盟国を反トラスト法違反で提訴することを可能にする「石油生産輸出カルテル禁止(No Oil Producing and Exporting Cartels Act : NOPEC法案)」を全会一致で可決した。同様の法案が上院の財政委員会に提出された。 しかし、上院では投票に至っておらず、法律としては成立していない。
米国政府がOPEC加盟国をSherman Antitrust Actで訴訟できるというもので、Aramcoが米国での上場を避ける理由の一つである。
しかし、米国でも州が生産制限をすることは認められている。
1930年代に原油の供給過剰が起き、連邦議会が過剰解消を目指す産油州の団体創設を承認した。産油州は連邦政府の需要予測に基づいてそれぞれの生産量を決め、各州の制度に従って生産者に枠を割り振った。
Franklin Roosevelt 大統領のNew Deal 政策で最重要な法律である全国産業復興法(National Industrial Recovery Act:NIRA)が1933年に制定された。
国が産業の生産統制を行った。不況カルテルを容認する一方、労働者には団結権や団体交渉権を認めたり、最低賃金を確保したりして、生産力や購買力の向上を目指そうとした。
その施行を管轄する行政機関として全国復興庁 (NRA) が設立された。
しかし1935年5月に合衆国最高裁判所が Schechter Poultry Corp. v. USA等の裁判で、満場一致で、憲法が立法権を議会に与えているのに反し、この法律が立法権を全国復興庁に与えており、違法であるとした。このため、この法律は2年足らずで廃止された。
当時、サウジで油田が発見されるまでは世界最大の油田であったEast Texas 油田の石油が市場にあふれ、石油価格が暴落しており、生産制限が必要であった。
このため、全国産業復興法が廃止になると、連邦議会は1935年2月にInterstate Transportation of Petroleum Products Act を通した。提案者のテキサス選出上院議員Tom Connallyの名前をとってConnally Hot Oil Act of 1935と呼ばれる。
産油州は連邦政府の需要予測に基づいてそれぞれの生産量を決め、各州の制度に従って生産者に枠を割り振るが、州が決めた数量を超えたもの (hot oil、contraband oil ) を州外に輸送するのを禁止した。 違反者には罰金か禁固刑が課せられる。
"The shipment or transportation in interstate commerce from any State of contraband oil produced in such State is prohibited. "
"Any person knowingly violating any provision of this chapter or any regulation prescribed thereunder shall upon conviction be punished by a fine of not to exceed $2,000 or by imprisonment for not to exceed six months, or by both such fine and imprisonment"
この法律は1937年6月までの時限立法であったが、その後延長され、期限のない法となった。1973年にアラブ湾岸諸国が米国に石油禁輸措置を講じると各州は生産制限を停止したが、多くの州で この制度は残っている。
Owen L. Anderson The Evolution of Oil and Gas Conservation Law and the Rise of Unconventional Hydrocarbon Production
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