安倍晋三首相は4月27日の衆参両院の本会議で、新型コロナウイルス治療薬の候補であるRemdesivirを「間もなく薬事承認が可能となる見込みだ」と説明した。
付記 Gilead Sciencesが5月4日に承認を申請し、厚生労働省は5月7日、Remdesivirを「特例承認」した。
厚労相は、「いつ日本に届くのか確定した情報はない」とし、「必要な量の確保に向けて努力したい」と述べた。薬事・食品衛生審議会は、有効性や安全性についての情報は極めて限られているとし、患者に文書で同意を得ることや、腎機能や肝機能の検査を毎日行うことなどを条件とした。最大10日間投与する。 主な投与経験をもとに、現時点では原則として重症患者を対象に投与を行うこととしている。 集中治療室(ICU)に入っている患者、気管挿管されている患者、ECMOを導入している患者が対象となる。
下記のとおり、ウイルスの細胞内での遺伝子複製を阻害することで増殖を防ぐRNAポリメラーゼ阻害剤であり、本来は初期の患者に効くものである。
日本が開発した抗インフルエンザ薬「アビガン」の承認も急ぐと強調した。「希望する患者への使用をできる限り拡大し、可能な限り早期の薬事承認をすべく努力している。すでに2000例以上投与され、症状改善に効果があったと報告を受けている」と指摘した。
現在、Remdesivirが承認された国・地域は無いが、ドイツや米国では5月中旬までに承認される見通しで、厚生労働省は海外で先に承認された場合、日本での審査を短縮する「特例承認」を適用する。
特例承認は、①国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがある疾病が
蔓延 し、緊急に使用する必要がある
②日本と同等の審査水準がある外国で承認されている――
ことを条件に、通常は1年ほどかかる審査期間を短縮して承認できる制度。日本人における有効性及び安全性の評価を行うため、原則として日本国内で実施された臨床試験データを併せて提出することを求めている。
下記の通り、Remdesivirについては日本の医療機関も治験に参加している。
付記 米食品医薬品局は5月1日、Remdesivirを症状の重い入院患者に投与する緊急使用を許可した。
日本で「特例承認」を適用する検討が加速する可能性があるが、日本向けの供給数量は限られているとされる。
アビガンは2014年3月24日に製造販売承認を取得したが、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、既存の抗インフルエンザ薬が無効又は効果不十分である場合に備え、新しいメカニズムのアビガンを使用可能な状況にしておくことは意義があると判断され、世界に先駆けて国内で承認となったもので、厳しい条件がついている。
新型コロナウイルス用としては日本で未承認だが、世界のどの国でも承認を受けていない。このため、「海外で先に承認された場合、日本での審査を短縮する特例承認」が適用されず、所定の手続きによる承認が必要となる。
厚労省は、過去の薬害エイズ事件などの経験から、正規の手続きを短縮した承認には消極的であるとされる。
付記
新型コロナウイルス感染症の治療薬について、日本医師会の有識者会議(座長=永井良三・自治医科大学長)は18日、「科学を軽視した判断は最終的に国民の健康にとって害悪」だとして、適切な臨床試験を経て承認の手続きを進めるよう求める声明を公表した。国が早期承認を目指す新型インフルエンザ治療薬「アビガン」を念頭に、拙速に特例的な承認を行うべきではないと提言した。
声明は、科学的根拠の不十分な候補薬について「有事だから良い、ということには断じてならない」と指摘。自然に回復する患者も多いため、症例数の多い臨床試験が必要だとした。妊娠中の女性が服用して胎児に重い先天異常を引き起こしたかつてのサリドマイド薬害も引き合いに「数々の薬害事件を忘れてはならない」と強い懸念を示した。
有識者会議のメンバーで、国立国際医療研究センターの國土典宏理事長は「既存薬ならば、データがそろうまで適応外使用も可能だ。一度承認されれば有効性の検証は難しくなる」と警鐘を鳴らす。
新型コロナウイルス感染症の治療薬について、日本医師会の有識者会議(座長=永井良三・自治医科大学長)は18日、「科学を軽視した判断は最終的に国民の健康にとって害悪」だとして、適切な臨床試験を経て承認の手続きを進めるよう求める声明を公表した。国が早期承認を目指す新型インフルエンザ治療薬「アビガン」を念頭に、拙速に特例的な承認を行うべきではないと提言した。
声明は、科学的根拠の不十分な候補薬について「有事だから良い、ということには断じてならない」と指摘。自然に回復する患者も多いため、症例数の多い臨床試験が必要だとした。妊娠中の女性が服用して胎児に重い先天異常を引き起こしたかつてのサリドマイド薬害も引き合いに「数々の薬害事件を忘れてはならない」と強い懸念を示した。
有識者会議のメンバーで、国立国際医療研究センターの國土典宏理事長は「既存薬ならば、データがそろうまで適応外使用も可能だ。一度承認されれば有効性の検証は難しくなる」と警鐘を鳴らす。
日本医師会の有識者会議は5月18日、「科学を軽視した判断は最終的に国民の健康にとって害悪」だとして、適切な臨床試験を経て承認の手続きを進めるよう求める声明を公表した。
「アビガン」を念頭に、拙速に特例的な承認を行うべきではないと提言した。
科学的根拠の不十分な候補薬について「有事だから良い、ということには断じてならない」と指摘。自然に回復する患者も多いため、症例数の多い臨床試験が必要だとした。
妊娠中の女性が服用して胎児に重い先天異常を引き起こしたかつてのサリドマイド薬害も引き合いに「数々の薬害事件を忘れてはならない」と強い懸念を示した。
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RemdesivirはGilead Sciencesがもともとエボラ出血熱を対象に開発を進めていた低分子化合物。
現在、治療に用いられている抗ウイルス剤はノイラミニダーゼ阻害剤(Neuraminidase inhibitors)で、増殖されたウイルスの放出を阻害して感染の拡大を防ぐ。
これに対し、Remdesivirはアビガン と同じく、ウイルスの細胞内での遺伝子複製を阻害することで増殖を防ぐRNAポリメラーゼ阻害剤である。
Remdesivirは体内で代謝を受けてその活性型GS-441524に変わる。GS-441524は、ウイルスのRNAポリメラーゼ を混乱させて、ウイルスRNA産生の減少を引き起こす。
このことから、両剤とも早期の患者に有効である。
付記 Remdesivirは静脈内投与する点滴注射薬(重症者向け)
アビガンは錠剤(軽症者向け)
米国立衛生研究所(NIH)は2月25日にGilead Sciencesが開発した抗ウイルス薬Remdesivirの世界規模での治験計画を発表した。世界50カ所で偽薬とremdesivir を患者に投与し、治療効果を検証するもので、国立国際医療研究センター(NCGM)はこれに参加している。
WHOを中心とした研究開発チームが抗エイズウイルス(HIV)薬のLopinavirとRitonavir の合剤と、Remdesivir を試験している。
中国を視察しているWHOのBruce Aylward 事務局長補は2月24日、「現時点で有効と思われる唯一の薬がある。それは remdesivirだ」と述べた。
Gilead SciencesではRemdesivir の効果についてさらに多くのデータを集めるため、これまでの治験とは別に、新たに横浜市立市民病院など国内の3つの医療機関と連携し、新型コロナウイルスの患者に薬の投与を行う治験を4月14日から始めた 。治験は、日本だけでなく、アメリカやイタリアなどの合わせて4000人を対象に、重症や中程度などのグループに分けて薬の安全性や有効性を確かめる。
ヘルスケア・ライフサイエンス系専門メディアのSTATは4月16日、COVID-19の中等度と重度の患者を対象に実施しているRemdesivirの臨床試験の結果を報じた。
University of Chicago Medicine は125名の患者(うち113名が重症)でテストをした。このうち、ほとんどが既に退院した。死亡は2名だけであったという。
対照群にプラセボ群は置いていない。
2020/4/17 Remdesivirの臨床試験で好結果
Gilead Sciencesは4月29日、「有望なデータが得られつつある」と発表した。承認申請前の最終段階の第3相臨床試験を2つ実施しているが、そのうちの一つ。
397人の患者を対象に臨床試験を行い、投与初日から14日目の状況を調べた。
5日間投与したグループでは60%の患者が退院し、10日間の投与では52%が退院した。治療期間が短くてすむ可能性が示されたとする。
また、症状が出てから10日以内に投与されたグループの方が、それより後に投与されたグループに比べ、症状が改善したケースが多かった。
米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所は4月29日、Remdesivirの臨床試験で、患者の回復スピードが31%早まったとの暫定結果が得られたと明らかにした。
新型コロナ感染症の入院患者1063人を対象に実施した臨床試験では、Remdesivirを投与した患者が11日で回復したのに対し、プラセボ(偽薬)を投与した場合は15日を要した。
死亡した人の割合を比較しても低く抑えられた。
なお、中国のチームが4月29日に、「明確な治療効果が確認できなかった」とする臨床試験の結果を英医学誌ランセットに発表した。
但し、中国の感染者が減って予定した参加人数に達せず、試験を途中で打ち切ったため有効性を評価するにはさらにデータが必要としている。投与が早いと症状の改善が望める可能性は示された。
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