赤錆を用いて水と太陽光から水素を製造

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神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの立川貴士准教授のグループは、赤錆の光触媒作用によって太陽光と水から水素を製造する際の効率を飛躍的に高める構造制御技術の開発に成功した。

本研究成果は、4月30日にドイツ化学誌「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン版で公開された。

安全・安価・安定で、可視光を幅広く吸収できるヘマタイト(赤錆)のメソ結晶(5nm程度の超微粒子の集合体)を透明電極基板に焼き付けるだけで、極めて高い導電性を有する光触媒電極を作製できることを見出した。

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光触媒に光が照射されると、触媒表面に電子(e-)と正孔 (h+ :電子が抜けた孔)が生成し、この電子が水の水素イオンを還元することで水素が生成する。

h+ の働き H2O→2H+ + 1/2 O2
e- の働き 2H+ →H2

ヘマタイト (赤錆)は、安全・安価・安定な光触媒材料で、古くから太陽光を利用した水素製造への応用が期待されてきた。
他にも多くの光触媒が開発されてきたが、生成した電子と正孔のほとんどが触媒表面で再結合し、消失してしまうため、光エネルギー変換効率が非常に低いという課題があった。

太陽光と水から水素を作り出す光触媒の実用化には、現状数%にとどまっている太陽光エネルギーの変換効率を10%程度以上に向上させる必要がある。

チームは2019年10月に、光触媒の超微粒子を配向を揃えて三次元構造化した「メソ結晶」をソルボサーマル法(高温または高圧の溶媒を用いて固体を合成する方法)によって合成し、さらに、メソ結晶を透明電極基板に集積・焼結することで、導電性と水分解性能に優れたメソ結晶光触媒電極を開発した ことを発表した。

今回、メソ結晶を構成するヘマタイトを約5nmの超微粒子化し、さらにメソ結晶を透明電極基盤に集積・焼結することで導電性と水分解性能に優れたメソ結晶光触媒電極を開発した。

サイズを5nmまで小さくすることで粒子同士の接触面積を増やし、焼結する際に生成する酸素空孔(酸素の格子空孔)の量を飛躍的に増やすことができた。

酸素空孔の付与によって光触媒電極の導電性が向上するとともに、粒子表面に大きな電位勾配が生じ、電子(e-)と正孔 (h+)の分離が促進される。

同時に多数の正孔(h+)が粒子表面に移動し、水を高効率に酸化分解することで、ヘマタイト系電極で世界最高の光水分解性能を達成した。


擬似太陽光を照射したところ、1.23Vの電圧印加の下、5.5mAcm-2の光電流密度で水分解反応が進行することがわかった。
これは、光吸収特性とコストの両面において理想的な光触媒材料のひとつであるヘマタイトにおける世界最高性能である。

また、ヘマタイトメソ結晶光触媒電極は、100時間にわたる繰り返し実験においても安定に動作することがわかった。

本技術は、太陽光水素製造をはじめ、幅広い用途に向けた光触媒の開発に応用できる。

今後は、ヘマタイトメソ結晶光触媒電極の更なる高効率化と太陽光水素製造システムへの導入を産学協働で進めると同時に、人工光合成を含む様々な反応系への応用展開を図る。

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