これまでのブログを整理した。
1. 抗ウイルスRNAポリメラーゼ阻害剤
現在、治療に用いられている抗ウイルス剤はノイラミニダーゼ阻害剤で、増殖されたウイルスの放出を阻害して感染の拡大を防ぐものである。
それに対し、レムデシビルやアビガンはウイルスの細胞内での遺伝子複製を阻害することで増殖を防ぐRNAポリメラーゼ阻害剤である。
RNAウイルスが増殖する際にはRNA依存性RNAポリメラーゼの働きが必要となる。この働きを阻害する。
①のRemdesivirは体内で代謝を受けてその活性型GS-441524に変わる。GS-441524はウイルスのRNAポリメラーゼを混乱させて、ウイルスRNA産生の減少を引き起こす。
②のアビガンは細胞内に取り込まれた後、細胞内酵素により代謝・変換され,ファビピラビル・リボフラノシル三リン酸体となって,RNA依存性RNAポリメラーゼを選択的に阻害する。
①②ともウイルス増殖を防ぐもので、感染初期に効果があるが、
①は静脈内投与の点滴注射薬のため、錠剤を摂取できない重症患者用に、②は錠剤のため初期の患者用に使われている。③は異なる作用でRNAポリメラーゼを阻害する。亜鉛はRNAポリメラーゼをシャットダウンするが、亜鉛は簡単には細胞内に入り込めない。クロロキンは細胞壁にゲートを開き、亜鉛イオンが細胞内に入り込めるようにする。
付記 FDAは6月15日、③の緊急使用許可を取り消した。「治療効果がない可能性があり、投与により得られる効果よりも、リスクの方が大きいとの結論に至った」としている。
一般名 製品名 企業 当初の対象 ① Remdesivir Veklury Gilead Sciences エボラ出血熱 米FDA:2020/5/1に症状の重い入院患者に投与する緊急使用を許可
厚労省:これを受け、5月7日に「特例承認」② Favipiravir アビガン(Avigan) 富山化学
現・富士フイルム富山化学新型・再興インフルエンザ感染症 COVID-19 用は未登録 2014/3/24 新型インフルエンザ用で製造販売承認(販売制限あり、未販売)
③ Chloroquine リン酸
クロロキンResochin、Lariago、
Chloroquine等抗マラリア薬、抗アメーバ薬 米FDA:2020/3/28 緊急使用許可
付記 6/15 緊急使用許可取り消し
ヒドロキシ
クロロキンPlaquenil Sanofi 抗マラリア剤
全身性・皮膚エリテマトーデス治療薬
2. プロテアーゼ阻害薬
アビガン等はウイルスが細胞内に入ってから増殖するのを防ぐものだが、これはウイルスが細胞に入るのを防止する。
ウイルスが人体に感染するには細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2受容体)に結合したのち、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こすことが重要である。
Sタンパク質はヒト細胞由来のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)によりS1とS2に切断される。S1が受容体であるACE2受容体に結合する。
もう一方の断片S2はヒト細胞表面のセリンプロテアーゼのTMPRSS2で適当な大きさに切断され、その結果膜融合が進行する。
プロテアーゼ阻害薬は受容体と結合したSタンパク質の開裂を強力に阻止し、細胞内に入るのを阻止する。
⑥CamostatはTMPRSS2を妨げる働きを持つことが知られている。
⑦は、ウイルスのタンパク質が分子インポーチン(輸送タンパク質)と結合して核内移行するのを抑制する。
一般名 製品名 企業 当初の対象 ④ Oopinavirと
Ritonavir 合剤Kaletra AbbVie Inc. HIV感染症 ⑤ Nafamostat フサン 日医工
(鳥居製薬から承継)急性膵炎 ⑥ Camostat フオイパン錠 小野薬品等 慢性膵炎における急性症状の緩解 ⑦ Ivermectin ストロメクトール MSD
販売 マルホ腸管糞線虫症の経口駆虫薬、疥癬、毛包虫症の治療薬
①~⑤ 2020/3/30 新型コロナ治療薬「アビガン」承認へ⑦ 2020/4/27 「イベルメクチン」新型コロナに効果か 大村智特別栄誉教授と米Merck社の共同研究(ノーベル賞)
3. コロナウイルスの増殖を抑える?
コロナウイルスが肺胞上皮細胞で増殖し、肺障害を引き起こしながら、同時に肺胞マクロファージ等に感染し局所の炎症を惹起すると考えられる。
⑧の持つ抗ウイルス作用と抗炎症作用が重症化しつつある肺傷害の治療に有効であることが期待されている。副作用が最も少ない。
一般名 製品名 企業 当初の対象 ⑧ Ciclesonide オルベスコ 帝人ファーマ 気管支喘息の吸入ステロイド薬
4. サイトカインストーム防止
COVID-19で肺炎を起こしても軽い症状で治る場合もあるが、重篤化する人もいる。特に重症化したCOVID-19に発症する急性呼吸器不全は致死率が高い。
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の平野俊夫理事長は、この原因は免疫系の過剰な生体防御反応のサイトカインストームが原因であることを見付けた。
転写因子であるNF-kBとSTAT3の協調作用により、インターロイキン6(IL-6)の増幅回路(IL-6アンプ)が活性化され、炎症性サイトカインの産生が異常に増加するサイトカインストームが発生することによりが発症するという仕組みを提唱した。
⑨のIL6 阻害薬(ヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体 )が有望視される。他にもいろいろある。
一般名 製品名 企業 当初の対象 ⑨ Tocilizumab
(遺伝子組換え)アクテムラ 中外製薬 関節リウマチ等 2020/5/6 COVID-19の致死的急性呼吸器不全症候群の原因はサイトカインストーム
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