東芝は6月22日、保有するキオクシアホールディングス(旧称東芝メモリ)の株式の売却を進め、売却で得た資金の半分以上を株主への還元にあてる方針を明らかにした。
東芝は、2015年の会計問題以降の5年間で、7事業、3兆円の事業を切り離し、事業ポートフォリオの見直しを精力的に進めてきた。この2年間でも 、米国LNG事業、英国原子力発電所新規建設事業などのノンコア事業を切り離すとともに、政策保有株式160億円、機能会社3社210億円、不動産等288億円など事業外資産売却を進めて きた。
また、東芝メモリの売却資金で総額7,000億 円の自己株式取得を実行し大規模な株主還元を行なった。
東芝が保有するキオクシアホールディングス株式(議決権比率40.2%)に関しては、車谷CEOも2018年4月のCEO就任時には「4割という出資比率は悪くない」と保持する方針を示していた。
しかし、メモリ 事業を 東芝グループにおいて運営する経営戦略上の意図はなく、株式の現金化の可能な方策について継続的に検討して いる。
今回、この現金化がなされた際には、手取金純額の過半を原則として株主還元に充当することを 明らかにした。
同日の取締役会で剰余金の配当等の決定権限の行使に関する方針(株主還元方針)について決議した。
従来の方針には、「平均連結配当性向30%以上の実現を基本とし、適正資本水準を超える部分については自己株式の取得を含む株主還元の対象と する」としているが、今回、以下を付記した。
「新型コロナウイルス感染症拡大の影響に備え当面は財務の安定性を重視しますが、将来のキオクシアホールディングス の株式売却から得られる手取金純額の過半を原則として株主還元に充当することを意図しております。 」
なお、システムLSI事業、プリンティング事業等のモニタリング対象事業については、聖域を設けずあらゆる施策を検討していくとしている。
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東芝は2017年9月28日、東芝メモリの株式譲渡契約を締結したと発表した。
売却先はBain Capitalがこの目的のために設立し、参加各社が出資する㈱ Pangeaで、譲渡価額は2兆円。
2018年6月1日に譲渡が完了した。
東芝メモリ株式譲渡とともに、東芝は譲受会社のPangeaに合計3,505億円を再出資し、Pangeaの議決権のある普通株式を約1,096億円分(約40.2%)、転換権付き優先株式を約2,409億 円分(総数の約40.8%)取得し、その結果、約40.2%の議決権を取得した。
Apple、Seagate、Kingston Technology、Dell Technologies Capitalの需要家4社が(議決権無しで)4,155億円を出資している。
2017/9/30 東芝メモリの株式譲渡契約締結
東芝メモリは2019年5月31日、日本政策投資銀行による出資とメガバンク3行からの借り入れで、6月末までに総額1兆2000億円を調達すると発表した。3行は1000億円の追加融資枠も設定する。
東芝メモリは設備投資に充てる成長資金を確保するため、2019年11月以降に新規株式公開(IPO)を検討しているが、「取引先が株式を持つ現状では上場審査に不利」とされる。
このため、Appleなど4社が持つ優先株を買い戻しておく必要がある。
今回の調達資金 1.2兆円(他に融資枠1千億円)で Apple等4社の持つ優先株(取得価額4,155億円)を約5,300億円で買戻し、消却する。
残りの資金で金融機関からの借入金 6千億円を返済する。現金700億円が手元に残ることとなる。
(単位:億円) | 出資 | 合計 | 転換 社債 |
借入金 | 再計 | 今回 | 処理後 | ||
議決権株 | 優先株 | ||||||||
東芝 | 40.2% | 1,096 | 2,409 | 3,505 | 3,505 | 3,505 | |||
HOYA | 9.9% | 270 | 270 | 270 | 270 | ||||
(日本側) | (50.1%) | (1,366) | (2,409) | (3,775) | (3,775) | (3,775) | |||
Bain | 49.9% | 1,361 | 759 | 2,120 | 2,120 | 2,120 | |||
SK Hynix | 2,660 | 2,660 | 1,290 | 3,950 | 3,950 | ||||
(Bain / SK) | (49.9%) | (1,361) | (3,419) | (4,780) | (1,290) | (6,070) | (6,070) | ||
Apple ほか4社 (買戻し額) |
4,155 | 4,155 | 4,155 |
-4,155 |
0 |
||||
金融機関 | 6,000 | 6,000 |
-6,000 |
9,000 | |||||
日本政策投資銀行 | 3,000 | 3,000 | |||||||
INCJ (産業革新機構) |
0 | ||||||||
合計 | 2,727 | 9,983 | 12,710 | 1,290 | 6,000 | 20,000 | 1,845 | 21,845 | |
(今回のCash 増) | 700 |
2019/4/5 東芝メモリ、1.3兆円調達
東芝メモリは2019年10月1日付で社名を「キオクシア㈱」に変更した。
キオクシア(旧称 東芝メモリ)は2020年5月14日、2020年3月期の連結決算概要を発表した。
キオクシアは旧東芝メモリを時価(交渉価格)で買収したため、簿価との差が出る。
この処理(PPA:Purchase Price Allocation) で大きな負担(2022年3月期までに各年1,000億円程度償却)が出るが、製品価格の値下がりで一般の営業損益でも赤字となり、最終損益で1667億円の赤字となった。
2020/5/22 キオクシア(旧称 東芝メモリ)の2020年3月期決算
東芝では、キオクシアの上場時期については「2018年6月から3年以内の上場を目指す方針に変わりはない」としているが、事業環境の悪化から赤字に転落しており、急激な改善は見込めない。
当初想定していたような条件で上場ができるであろうか。
そんななかで、競争相手の韓国のサムスン電子は6月1日、京畿道平沢市の「平沢キャンパス」に8兆ウォン(約7000億円)を投資し、NAND型フラッシュメモリーの生産ラインを建設すると発表した。
昨年7月に世界で初めて量産に成功した世界最先端の第6世代積層NAND型フラッシュメモリー(V-NAND)を来年下期から量産する。
サムスンは現在、中国・西安市にもNAND型フラッシュメモリーの生産ラインを増設している。
サムスン電子は2019年12月13日、西安工場(陝西省西安市)に80億ドルを投資することを明らかにした。第5世代のNAND型フラッシュメモリーの生産能力を高める。2021年に稼働する見通し。西安工場はサムスンが海外に持つ唯一の半導体メモリー工場。同工場に追加投資をして生産設備を増やし生産能力を拡大する。
韓国では、「新型コロナウイルスと米中通商摩擦で世界の半導体市場に不確実性が高まる中、果敢な先行投資で後発メーカーとの差をさらに広げようという伝統的なサムスン式半導体戦略」とみられている。
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