ブルガリアとクロアチア、ユーロ導入へ前進:EUの現状

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欧州中央銀行(ECB)は7月10日、ブルガリアとクロアチアが、ユーロ導入に向け、その条件となる仕組み「為替相場メカニズム」(European Exchange Rate Mechanism:ERM)に参加することが決まったと発表した。

基本レートを1ユーロ=7.5345クロアチア・クーナ、1.95583ブルガリア・レバにそれぞれ設定 し、プラスマイナス15%の範囲での変動が許される。

マーストリヒト条約で決められたユーロの参加条件は、下記の収斂(Convergence )基準を満たすことで、これを満たしたうえで、③の為替レートが、市場の圧力なしでユーロとのペッグ制が少なくとも2年間維持された場合、正式加盟が可能となる。

① 物価:

加入検討の前年の消費者物価上昇率が、EU加盟国の中で最も消費者物価上昇率の低い3カ国の平均値の±1.5%以内であること。

② 政府財政:

実質、計画の双方において、年間財政赤字額の対GDP比が3%以下であること。但し赤字率が3%に近い水準に達している場合、例外的または一時的な3%以上の赤字の場合、赤字率が3%に近づいている場合は除く。

また政府債務残高が対GDP比で60%を超えないこと。但し負債の割合が十分に減った場合、十分なペースで60%に近づいている場合は除く。

③ 為替レート:

加入検討時点以前の2年間、欧州為替相場メカニズムで定められた変動幅を超えてはならない。
他のERM加盟国の通貨に対して自発的な切り下げを行っていないこと。

④ 利子率:

加入検討の前年の政府長期債における利回りが、EU加盟国の中で最もインフレ率の低い3カ国の政府長期債における利回りの平均から2%以上乖離しないこと。

2015/1/5 リトアニアがユーロ導入 

欧州為替相場メカニズムは、欧州における為替相場の変動を抑制し、通貨の安定性を確保することを目的とした制度で、欧州委員会は1979年3月にこれを取り入れて、1999年1月1日の単一通貨ユーロの導入に備えた。

加盟各国間の為替相場の変動幅を±2.25%以内に抑えることを原則としたが、1993年には欧州通貨危機の再燃により±15%にまで拡大した。

英国は1990年にERMへ加入したものの、その2年後にはジョージ・ソロスによる大掛かりな英ポンド売りをきっかけにERMから脱退した。

ユーロ導入で1999年にERM II に移行した。ERM IIはユーロを導入していないEU加盟国の通貨とユーロ間の為替相場を安定させ、ユーロ導入を促進することを目的としている。
ユーロ参加を目指すERM II加盟国はユーロに対する自国通貨の変動幅を2年間±15%に抑えることを求められる。

当初、ギリシャとデンマークが対象となったが、その後、2001年にギリシャがユーロを導入した。
デンマークは国民投票でクローネへの愛着でユーロ導入が否決された。 ERM II で、1ユーロ=7.46038をセントラル・レートとして、変動制限幅を±2.25%をとした。 ユーロとほぼ連動しており、クローネを使用し続けながら、ユーロ導入とほぼ同じ効果を持つ。

スウェーデンは国民投票でユーロ導入を否決したが、ERM参加については渋っている。

その後、スロベニア、マルタ、キプロス、スロバキア、エストニア、ラトビア、リトアニアがERM Ⅱを経由してユーロを導入した。

今回、ブルガリアとクロアチアがERM II に参加した。デンマークを加え、3カ国となる。

現時点では、ポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニアの4カ国が収斂基準を満たしておらず、スウェーデンを加えた5カ国がERM Ⅱ に入っていない。

(EU参加 27か国のうち、ユーロ導入は19か国、ERM II 参加が3カ国、未定が5カ国となる。)

なお、EU非加盟のサンマリノとバチカンはイタリアと、モナコはフランスとそれぞれ通貨協定を締結した上でユーロを使用している。各協定は欧州委員会の承認を受けている。

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欧州自由貿易連合(European Free Trade Association:EFTA)は、1960年に英国が中心となって設立された自由貿易連合であり、欧州経済共同体(EEC)に対抗するため、その枠外にあった欧州諸国が加盟してきた。

英国を初めとして順次、EUに参加し、現在は4か国のみとなっている。

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欧州経済領域(European Economic Area:EEA)は、EFTA 加盟国が 欧州連合(EU)に加盟することなく、EUの単一市場に参加することができるように、1994年1月1日にEFTAとEUとの間で発効した協定に基づいて設置された枠組み。

但し、EFTA加盟のスイスは1992年の国民投票で僅差で否決され、EEAに参加していない。

EEAではEUの4つの自由の原則(EUにおける商品、人、サービス、資本の移動の自由)を共有している。

参加国はEU加盟国と自由な交易を行うことができるが、EU法の適用を受けなければならない。
EEAはブリュッセルでの政策決定に関与することはほとんどできない。
EEA参加国はEUに関する一切の財政負担を免除されているが、域内市場に関しては支出を義務づけられている。

なお、英国は、これに残留すればEU法の適用を受けるためEU離脱の意味がなくなるほか、人の移動の自由を認める考えはなく、EU離脱後にこれに加わることはない。

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シェンゲン協定とは、加盟しているヨーロッパの国家間において、出入国検査(国境検査)なしで国境を越えることを許可する協定。1985年6月に調印され、2019年4月現在、EU加盟22カ国とEFTA加盟4か国の合計26ヶ国が加盟している。

英国は「国境管理は国家主権の中核」として拒否、英国(北アイルランド)と国境を接するアイルランドも不参加。

キプロスは北キプロスとの国境問題で留保。

ブルガリア、クロアチア、ルーマニアは協定未締結だが、ルーマニアが近く参加すると見られている。

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北大西洋条約機構(NATO)は2020年3月27日、東欧の北マケドニア(旧マケドニア)が同日加盟したと発表した。
1949年に12カ国で発足した米国や西欧などの軍事同盟は冷戦終結後、東欧に大きく拡大し、30カ国体制となった。

2019/2/5 「北マケドニア」、NATO加盟へ

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メンバー国
青字は設立時メンバー、赤字は最近の動き
非メンバー国
EU
 27か国
ユーロ
導入
19か国
欧州為替
相場メカニズ

EFTA

EEA シェンゲン協定
(26か国)
NATO
(30か国)
参加 離脱
米国 1949
カナダ 1949
1 フランス 1952 1999 1994
(EU として)
1985 1949
2 (西)ドイツ 1952 1999 1985  1955 
3 オランダ 1952 1999 1985 1949
4 ベルギー 1952 1999 1985 1949
5 ルクセンブルグ 1952 1999 1985 1949
6 イタリア 1952 1999 1990 1949
英国 1973
2020離脱
適用除外 1960 1973 EU離脱 適用除外 1949
7 アイルランド 1973 1999 1994
(EU として)
適用除外
8 デンマーク 1973 適用除外 1960 1973 1996 1949
9 ギリシャ 1981 2001 1992 1952
10 スペイン 1986 1999 1992 1982
11 ポルトガル 1986 1999 1960 1986 1992 1949
12 オーストリア 1995 1999 1960 1995 1995
13 フィンランド 1995 1999 1986 1995 1996
14 スウェーデン 1995 国民投票 1960 1995 1996
15 スロベニア 2004 2007 2004 2004
16 マルタ 2004 2008 2004
17 キプロス 2004 2008 留保
18 スロバキア 2004 2009 2004 2004
19 エストニア 2004 2011 2004 2004
20 ラトビア 2004 2014 2004 2004
21 リトアニア 2004 2015 2004 2004
22 ポーランド 2004 2004 1999
23 チェコ 2004 2004 1999
24 ハンガリー 2004 2004 1999
25 ブルガリア 2007 2020 2004
26 ルーマニア 2007 2004
27 クロアチア 2013 2020 2009
アルバニア 2009
モンテネグロ 2017
北マケドニア 2020
アイスランド 1970 1994 1996 1949
リヒテンシュタイン 1991 1994 2008
ノルウェー 国民投票 1960 1994 1996 1949
スイス 国民投票 1960 2004
トルコ 1952
モナコ フランスと関税同盟
サンマリノ イタリア
バチカン イタリア


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