新型コロナウイルスの感染が続けば投票率の低下につながり、大統領選の波乱要因になる可能性がある。
米国の大統領選挙では選挙の方法などは基本的には州に決定権がある。
郵送投票(Vote-by-mail)は、登録した有権者に投票用紙が事前に送られ、候補者を選んで各州の選管に返送する仕組み。
新型コロナウイルスの蔓延で、コロラド州、ハワイ州、オレゴン州、ユタ州、ワシントン州の5州は全面的に郵送投票に切り替えた。さらにカリフォルニア州、アリゾナ州は郵送投票を可能にすると同時に、投票所も設置し、いずれかの投票方法を選べるようにするとした。他の州もこれに続き、準備を続けている。
テキサス州では現在、65歳以上の高齢者、障碍者か病人(disability or illness)、選挙期間中に海外にいるもの、監獄に留置されているものに限り、理由を問わず郵送での不在者投票を認めている。
同州の民主党支部は新型コロナの感染防止が理由であれば全ての有権者に郵送投票を認めるべきだと主張した。
テキサス州は共和党の牙城だが、最近は移民の増加で民主党員も増えて11月の大統領選で激戦州の一つになる。
トランプ大統領は最高裁の決定をみて、ツイッターで「テキサス州での郵送投票に関する大勝利だ!」と書きこんだ。
大統領は郵送投票が増えるほど選挙で不正行為が起きる可能性が高まると主張していた。
トランプ大統領は2020年5月26日のツイッターで、カリフォルニア州で進められている郵送投票に対して「郵送投票は実質詐欺のようなものであることは明らかだ」と述べた。
これに対しツイッター社は、"Get the facts about mail-in ballots"(郵送投票についての事実を知って!)との注意書きを付けた。
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連邦地裁のFred Biery 判事は5月19日、現在の州法の規定は憲法修正14条の平等保護条項に違反するとして、新型コロナウイルス危機の間は全ての有権者に郵送投票を認める決定を下した。
憲法修正14条 「その司法権の範囲で個人に対する法の平等保護を否定してはならない。」
テキサス州の予備選挙は延期されて7月14日に行われる。今回の判決は11月の大統領選挙にも適用されることとなる。
連邦控訴裁の3人の判事は1審判決を一時停止した。これはadministrative stayと呼ばれるもので、審議を続けている間の一時的なものである。
但し、3人の判事のうちの一人は、憲法修正15条も人種による投票差別を禁じていると 述べた。
憲法修正15条
アメリカ合衆国市民の投票権は、人種、肌の色あるいは以前の隷属状態を理由に、アメリカ合衆国あるいは如何なる州によっても否定または制限されてはならない。しかし、仮に年齢による投票差別が問題としても、テキサス州法を裁判所がどうするかは明らかでないとした。 'level up'すべきか (全員に郵送投票を認める)、'level down' すべきか(全員に認めない)?
答えは不明確のため、彼は一審の判決を認めるとした。
付記 控訴裁は9月10日、共和党の訴えを却下し、現行の限定を承認した。
控訴裁は続いているが、原告側は最高裁に緊急上告した。控訴裁による1審判決の一時停止で、何百万人ものテキサス人が投票所で感染するか、投票権を放棄せざるを得ないかであるとした。
これが今回の判決である。
新型コロナウイルスの免疫を持たないというだけでは、州法が郵送投票を認める条件('disability')に合致しないとした。
'disability'を、健康を損なうリスクなしに投票に行くのを妨げる病気又は身体状況としている。
しかし、州最高裁は上記のようにしながらも、選挙民は自身の現在と過去の健康状態を勘案し、'disability'を理由に郵送投票を申請できるとした。
州側が、新型コロナウイルスの免疫がないことをdisabilityの理由にする人に選挙管理人が郵送投票の書類を送るのを禁止することを求めたのに対し、州最高裁は拒否した。
郵送投票を求める人はどんなdisabilityであるかを言う必要はなく、申請書のdisabilityの欄にチェックさえすれば、郵送投票券を送ることになり、州としてはその投票を拒否できないこととなる。
州法の改正、考え方の修正なし。州法による郵送投票の条件に合致するかどうかを選挙民が自主的に決定でき、州側はそれが正しいかどうかをチェックできない。
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連邦最高裁の審議で、原告の州民主党は憲法修正26条からも65歳以上ではなく、全員に認めるべきだと主張した。
憲法修正26条:
18歳またはそれ以上の合衆国市民の投票権は、年齢を理由として、合衆国またはいかなる州もこれを拒否または制限してはならない。
連邦最高裁は6月26日、上記の連邦地裁判事の全員に郵送投票を認めるとする判決と逆の判断を下した。テキサスは有権者全員に郵送投票を認める必要はないとした。
連邦最高裁は理由を述べていない。緊急上告の場合はこれが通常である。
ある裁判官は、審議を継続している控訴裁判所が11月の大統領選挙の前に本件を十分検討すべきだと述べた。
付記 控訴裁は9月10日、共和党の訴えを却下し、現行の限定を承認した。
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トランプ大統領がこれを「大勝利」とするのは誤りである。最高裁は郵送投票拡大を認めなかったのではない。控訴裁が審議が続く間、1審の判決を一時凍結したのを、取り消さなかっただけである。
控訴裁が結論を出せば、敗訴側が上告するのは必至で、その際に十分審議するということである。
なお、老人や病人など、投票場に行くのは大変な人に特別に郵送を認めるのは、他の人を差別しているのではない。差別問題とするのはおかしい。
新型コロナウイルスの特殊性を考え、投票場に行くのが「健康を損なうリスク」がどうかを考えるべきである。
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