楽天メディカルは6月29日、がん細胞をピンポイントで攻撃する「がん光免疫療法」に使う医薬品と医療機器について、「条件付き早期承認制度」に基づき厚生労働省に承認申請をしたと発表した。
対象は、舌がんや喉頭がんなどの頭頸部がんが再発した患者。この治療法に使う医薬品と医療機器を承認申請するのは世界で初めて。
医薬品はASP-1929(一般名:セツキシマブ サロタロカンナトリウム)、医療機器はレーザ照射システム。
同社では、がん光免疫療法の医薬品、医療機器、医療技術、その他周辺技術を総合的に利用した技術基盤をイルミノックス™ (Illuminox™)プラットフォームと呼んでいる。
5月29日付で「条件付き早期承認制度」が適用された。この制度は一般的に3段階ある臨床試験の最終段階を経なくても、そこまでのデータで申請できる。
この治療法は本年4月に、画期的な新薬を優先的に取り扱う「先駆け審査指定制度」の対象にもなっており、 国の審査が優先的に進められ、通常1年かかる審査期間が半年に短縮される。
付記
厚生労働省の専門部会は9月4日、光免疫療法で使用する「セツキシマブサロタロカンナトリウム」(商品名アキャルックス)の国内での製造販売を了承した。
なお、国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)は2019年2月21日、「光免疫療法」による食道がんを対象にした臨床試験(治験)を始めると発表している。
2019/2/25 食道がんの光免疫療法の治験
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現在の癌治療では「手術」「放射線療法」「化学療法」の3つの方法が主流になっているが、これらの治療にはいずれも副作用が付いてくる。「放射線療法」「化学療法」は癌細胞を殺すが、正常細胞も殺す。副作用を最小限にするため、「分子標的薬」が開発されてきたが、その数はまだ少ない。
米国立衛生研究所(NIH)の小林久隆・主任研究員らの研究チームは2011年11月6日のNature Medicine で初めて「光免疫療法」を報告した。
がん細胞に結びつきやすい特徴を持つ薬を投与した後、患部に赤色光を当てると、薬が光に反応してがん細胞が破壊される。光は熱を持たず、体に当てても害はないとされる。また動物実験などのデータから、この治療によって体内の免疫が活発になり、転移したがんも治癒できる可能性があると考えられている
1) 癌にくっついて熱で殺す
光を当てた約10分後には制御性T細胞が熱で大幅に減り、免疫細胞「リンパ球」のブレーキが外れて、癌への攻撃が始まったためとみられる。
2) 光を当てない癌も消える
光を当てた場所で癌への攻撃力を得たリンパ球が血液に乗って全身を巡り、癌を壊したと考えられる。
3) 癌だけを殺せる!
2016/8/22 光免疫療法による癌治療
小林主任研究員は2011年設立のバイオベンチャー企業のAspyrian Therapeutics, Inc. と組み、2015年4月30日にFDAの計画承認を受け、治験を開始した。
Aspyrian Therapeuticsは2013年秋にNIHから光免疫療法に関する独占ライセンス を受けた。
楽天の三木谷浩史会長兼社長は、新しいがん治療法として注目される「光免疫療法 : Photoimmunotherapy」の商業化を進めているAspyrian Therapeutics, Inc.に22.6%出資して持ち分法適用会社とすることを明らかにした。
同社のホームページでの小林久隆・主任研究員との対談のなかで、以下の通り述べている。
父がすい臓がんを患いました。・・・ どうすれば父のがんを治せるか、あらゆる可能性を探しました。
小林先生に「近赤外線光免疫療法」の原理を聞いた瞬間、・・・賭けてみる価値のある革新的な治療法であると、確信した。
小林先生から、臨床で実用化するための資金集めに苦労しているという話を聞き、資金面でのサポートをすることを決めました。
三木谷浩史氏個人で約167億円を出資、その後楽天も1億ドルを追加出資した。
2017/11/28 楽天、がん治療に参入 光免疫療法の米Aspyrian Therapeutics に出資
Aspyrian Therapeuticsはその後、社名をRakuten Aspyrianと改称した。
三木谷氏は個人としてRakuten Aspyrianに出資し、筆頭株主として資金面で支援するとともに、同社の代表取締役会長として経営にも携わっている。
Rakuten Aspyrianは2018年11月15日、三木谷氏を最高経営責任者(CEO)に任命した。引き続き会長職も務める。
同社は2019年3月1日にRakuten Medical に改称し、現在に至っている。
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