COVID R&D AllianceのメンバーであるAbbVie Inc.、Amgen Inc.、および武田薬品工業は8月4日、新型コロナウイルスに対する治療薬の臨床試験プログラム I-SPY COVID 臨床試験に第1例目の患者を登録したと発表した。
I-SPY COVID (Investigation of Serial Studies to Predict Your COVID Therapeutic Response with Biomarker Integration and Adaptive Learning) は、バイオマーカーの結合とアダプティブ・ラーニングによりCOVID治療反応を予測する一連の探索研究で、最小限の被験者数と最短の期間で治験薬の評価や既存医薬品の再評価を行うことにより、試験効率を向上するよう設計されたアダプティブプラットフォーム試験。
高流量酸素療法を必要とするCOVID-19の重症入院患者を対象に、
AbbVie(が買収したAllergan)のCCケモカイン受容体2および5拮抗薬のcenicriviroc(セニクリビロク)、
AmgenがCelgene から買収したPDE4 阻害剤OTEZLA(Apremilast、アプレミラスト)、
武田薬品(が買収したShire)のブラジキニンB2受容体遮断薬 で遺伝性血管性浮腫治療薬のFirazyr(フィラジル;icatibant、イカチバント)が重度(高流量酸素投与)入院患者にどうかを一度に調べる無作為化試験I-SPYに最初の患者が組み入れられた。
Cenicrivirocは、2種類のケモカイン受容体(CCR2およびCCR5)を阻害する強力な免疫調整薬。
これらケモカイン受容体は、肝硬変、肝がんや肝不全の原因となることが知られている非アルコール性脂肪肝炎(NASH)における炎症経路や線維化経路に複雑な形で関与しているが、これらの経路は、COVID-19や他のウイルス感染症の呼吸器後遺症に密接に関連することが明らかにされている。OTEZLA®(アプレミラスト)は、環状アデノシン1リン酸(cAMP)に特異的な低分子の経口ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害剤で、45カ国以上の国々で乾癬や乾癬性関節炎、ベーチェット病などの炎症性疾患の経口治療薬として承認されている。OTEZLA®PDE4を阻害することにより細胞内cAMP濃度を上昇させ、間接的に炎症性メディエーターの産生を調節すると考えられている。
PDE4を阻害することにより炎症性サイトカインやその他のメディエーターの産生を調節し、このことでCOVID-19患者の一部にみられる肺病変の症状・徴候に伴う炎症反応の抑制に役立つと考えられている。フィラジルはブラジキニンによる肺水腫の症状を改善する。
COVID-19患者の約10~15%は急性呼吸窮迫症候群を発症し、ICUに入室した患者の最大60%が平均2週間にわたり人工呼吸器の装着が必要となる。そのうち半数の患者が死に至ると推定されている。
アプレミラストは免疫反応により生じる炎症を抑制し、イカチバントは肺水腫の症状を改善し、セニクリビロクは組織への単球遊走を阻害する作用がある。これらの特性が、重症患者に多い急性呼吸窮迫症候群に対して効果が期待できるとして試験を開始した。各社の候補化合物を同時に評価することで、最短での実用化を図る。
目標症例数は約1500例で、各剤を投与するグループに分け、新型コロナ治療薬「レムデシビル」と併用投与する。
I-SPY COVID試験の主要評価項目は、重症度が当初のレベル5からレベル4(あるいはそれ以下)まで改善した状態が48時間以上維持されるまでに要する期間とする。主な副次評価項目は、人工換気の使用期間と死亡とする。
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COVID R&D Allianceは新型コロナ治療薬などの開発加速を目的に立ち上げられた製薬各社の連携で、製薬20社以上が参加し、日本からはエーザイも加わっている。
主なメンバー: Abbvie、Amgen、AstraZeneca、Bayer、Bristol-myers Squibb、Eisai、Johnson & Johnson、Novartis、Pfizer、Roche、Sanofi、Takeda、・・・
COVID R&D Alliance は、複数のプラットフォーム試験の設計と後援を行うほか、次の施策も実施している。
•前臨床段階にある 1900 品目以上の候補物質について実薬対照試験を行い、COVID-19治療薬として最も有望な物質の特定を行っている。
•COVID-19に対する効果が期待できる有望な早期開発品を検討して、資金提供者となりうるベンチャーキャピタルや研究開発型製薬企業との橋渡しを行い、開発を迅速化する。
•TransCelerate社のDataCelerateプラットフォームと連携し、リアルタイムでのデータ共有と実臨床下でのエビデンスの構築を進め、実施中あるいは実施予定の COVID-19 試験への情報提供を行うことにより、研究者のコミュニティーが試験結果から学び、重複を避けられるようにしている。
•政府や規制当局、非政府組織(NGO)との橋渡し役となり、知見を共有し、他のプラットフォーム試験への取り組み。
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