汚染水に含まれるほとんどの放射性同位体は、複雑な浄水システムで除去されている。しかし、放射性同位体の1つであるトリチウムは除去が不可能のため、汚染水は巨大タンクに貯水されている。
トリチウムは、質量数が3、すなわち原子核が陽子1つと中性子2つから構成される水素の放射性同位体で、半減期は約12年。通常の水とトリチウム水には化学的な差がほとんどなく分離が難しい。
実際には、貯蔵されている水にはトリチウムだけでなく、複数の放射性物質が残留している。
東京電力は2018年9月28日、福島第1原発の汚染水を浄化した後にタンクで保管している水の約8割に当たる75万トンで、トリチウム以外の放射性物質の濃度が排水の法令基準値を超過しているとの調査結果を明らかにした。今後、海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化するとしている。
ALPSは核種に合わせて吸着材を選び、複数の吸着塔を順に通す仕組みだが、東電は、吸着材の交換にかかる時間を節約するため、2015年ごろまで交換頻度を下げていた。
高濃度の水をとにかく早く減らすことを優先し、処理の「質」より「量」をとった。クにたまる処理済み汚染水のトリチウムの総量は推定約860兆ベクレル。福島第一原発が事故前の2010年に海に放出していたトリチウムは年2・2兆ベクレルだった。処分方針について、経済産業省の小委員会は薄めて海に流す方法を有力視する提言をまとめており、政府が関係者の意見を聴いている。2018/8/29 福島原発のトリチウムを含む低濃度汚染水を巡る問題
海洋放出など処分をする場合には、多核種除去設備(ALPS)などで再浄化するとしているが、これまでに再浄化の試験は実施しておらず「効果」を示していない。
毎日発生する汚染水を処理しながら、大量の水をどのように再浄化するのだろうか。
経済産業省は12月23日、東京電力福島第1原子力発電所にたまる汚染水の処理水に関する小委員会(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会)のとりまとめ案を公表した。 (報告書は2020年2月10日に出された。)
小委員会では5つの処分方法を検討してきたが、薄めて海に流す「海洋放出」と蒸発させて大気中に出す「水蒸気放出」という前例のある方式に絞り込んだ。
技術的成立性 | 規制成立性 | 期間 | コスト | |
①水蒸気放出 | ボイラーで蒸発させる方式はThree Mile Island -2号炉の事例あり | 現状で規制・基準あり | 120か月 | 349億円 |
②水素放出 | 前処理やスケール拡大等について、技術開発が必要な可能性 | 現状で規制・基準あり | 106カ月 | 1,000億円 |
③海洋放出 | 海洋放出の事例あり(下図) | 現状で規制・基準あり | 91か月 | 34億円 |
④地下埋設 | コンクリ ートピット処分、遮断型処分場の実績あり | 新たな基準の策定が必要な可能性 | 98か月 監視 912カ月 |
2,431億円 |
⑤地層注入 | 適切な地層を見つけ出すことが必要。 適切なモニタリング手法が確立されていない |
処分濃度によっては、新たな規制・基準の策定が必要 | 104+20 x Nカ月 監視 912カ月 |
180+6.5 x N億円 +監視 |
Nは地層調査の実施回数 |
2020/1/1 福島第一原発処理水の処分、海洋・大気放出に絞る
小委員会はいずれのケースについても風評への影響を懸念している。
海洋放出について、社会的影響は特に大きくなると考えられ、また、同じく環境に放出する水蒸気放出を選択した場合にも相応の懸念が生じると予測されるため、社会的影響は生じると考えられる。
将来生じうる風評への影響については、現時点では想定し得ない論点による影響が考えられることから、その時点に起こっている事象や風評への影響について継続的に把握し、その先に新たに提起されるかもしれない風評被害についても、関係行政機関等が一丸となって、機動的に対応をとる必要がある。
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政府は4月から、地元の関係者などから意見を聞く会合を開いているが、放出に反対や陸上保管を求めるものが多い。
一般の公聴会については2年前の公聴会で反対意見が噴出し、「再検討」に追い込まれたことから、今回は実施せず、パブリックコメントを募集した。
当初の締め切りは5月15日であったが、6月15日に延長され、更に7月15日に、更に7月31日に3度延長された。
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政府は海洋放出で押し切る考えとみられているが、8月7日付の"Science"誌に米ウッズホール海洋研究所(Woods Hole Oceanographic Institution)のKen O. Buesseler博士が "Opening the floodgates at Fukushima"と題して投稿した。
トリチウムは半減期が比較的短いうえ、海洋生物や海底堆積物に容易に吸収されず、害が少ないベータ放射線を放出するため、問題は少ない。全世界の原発からも排出されている。
しかし、トリチウムだけではなかった。2018年央になって初めて、東電はもっと恐ろしい放射性物質が含まれていることを明らかにした。東電によると、放出のためには保管処理水の70%以上が再処理が必要である。
これらは放出されれば、トリチウムと異なり、海中で悪影響を及ぼす。
再処理したあとで海洋放出する場合は、再処理のあとで、それぞれのタンクの保管水にどんな放射性物質がどれだけ残っているかを把握することが必要である。残っているとされる放射性物質だけでなく、その他のもの(特にプルトニウム)についても調べる必要がある。
政府は海洋放出か水蒸気放出だけを可能な案としているが、そうではない。
トリチウムの半減期は12.3年であり、60年経てば97%のトリチウムは無くなる。半減期の短い他の放射性物質も同様だ。この間に現在の4倍の処理水が溜まる。タンク漏れのリスクはある。
現在放出の理由とされる土地問題は、現在の敷地外にタンクをつくれば解決する。汚染水の放出は回復中の地域の漁業にマイナスの影響を及ぼしかねないため、大衆の心配を無視してはいけない。放出する場合、海水と海洋生物、海底堆積物のモニタリングに地域の漁民と独立的な専門家が参加しなければいけない。
報道では、報告を出した小委員会の委員からは、「現在あるタンク容量と同程度のタンクを土捨て場となっている敷地の北側に設置できるのではないか」「敷地が足りないのであれば、福島第一原発の敷地を拡張すればよいのではないか」などといった意見が出されたという。敷地の北側の土捨て場に大型タンクを設置することができれば、約48年分の水をためることができると試算されている。
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