EU、カンボジアに経済制裁、中国はカンボジアとFTA締結

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EUの欧州委員会は8月12日、「カンボジアは人権に関して深刻な懸念がある」として同日に制裁を発動したことを明らかにした。カンボジアから武器以外の全品目を無関税で輸出できる「EBA協定」の優遇策の一部を停止した。

「EBA協定」(Everything but Arms):

カンボジアは、EUの一般特恵制度(GSP)の中でも最も対象が広範囲の待遇である「武器以外の全て」の恩恵を受けてきた。

これは、国連が規定する後発開発途上国(LDC)を対象に、武器兵器以外の全ての製品の輸入関税を無税とし、輸入割り当ても行わないとするEU独自の特恵関税制度で、カンボジアからEUへの輸出額54億ドル(2018年)のうち、95.7%がEBAに基づき無税でEUに輸入された。

これは、EBAの受益国の中ではバングラデシュに次ぐ規模である。

欧州委員会は2019年2月11日、カンボジアに対し、深刻な人権侵害や労働権侵害が確認されたとし、武器以外の全品目で数量制限なしにEU域内への輸入関税を撤廃する「EBA制度」を一時的に停止する手続きに入った。欧州委員会は2018年7月に今回の決定の是非を判断するための情報収集を開始していた。

具体的には、政治参加や表現の自由、集会・結社の自由、土地所有権、労働権に対する制限の「市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)」違反。

これに対し、カンボジアのフン・セン首相は2019年11月21日、EUの要求に従うつもりはないと断言した。EBA継続と引き換えにカンボジアの法制度や独立性を捨てることはないとした。
EBA制度が撤廃され輸入関税を課されたとしても、その用意はすでにできていると述べ、報復関税を課す考えも示した。
EUが指摘している人権軽視については、ミャンマーやラオスより遥かにましだと述べた。

欧州委員会は2020年2月12日、カンボジアに適用している特恵関税を一部停止する委任規則を採択した。欧州議会とEU理事会が否決しない限り、委任規則は半年後の8月12日から適用される。

8月12日、予定通り制裁が発動された。今回、一部の衣類と履物、全ての旅行用品、砂糖が適用停止の対象となる。カンボジアの産業発展全体へのインパクトを制限すべく、自転車や高付加価値の衣類などを対象から除外した。

EUはカンボジアにとって輸出額の20%以上を占める。
アパレル製品の主要輸出先で、輸出全体の40%を占める。

カンボジアでは新型コロナウイルスの影響で主要産業の縫製関連の輸出が伸び悩み、15万人以上が失業したとみられ、カンボジア縫製業協会はEUに制裁延期を求めてきた。

欧州委員会は 一部除外について、「カンボジアの社会的および経済的な発展を保全すると同時に、人権尊重を確保するバランスの取れたアプローチ」の結果だと説明している。

EUは今後もカンボジア政府への働きかけと人権状況のモニタリングを継続し、顕著な改善が確認されれば、EBAに基づく特恵待遇の回復も可能である。

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カンボジア商業省と中国商務部は7月20日、2国間自由貿易協定(FTA)の交渉が妥結したと発表した。物品貿易、原産地規則、税関手続き、貿易円滑化、貿易の技術的障壁、衛生植物検疫措置、サービス貿易、投資協力、経済技術協力、電子商取引の幅広い領域が含まれる。

両国は2020年内の署名を目指すとしている。

カンボジア商業省によると、2019年のカンボジアと中国の貿易額は前年比24.4%増の93億6,000万ドルと、全体の25.1%を占め、カンボジアにとって中国は最大の貿易相手国だった。

FTAによって両国の2国間貿易は2023年までに100億ドルを目指すとしている。

カンボジア縫製業協会事務局長は、「このFTAによってカンボジアから中国への輸出は20%以上増加する見込みだ。衣料品、履物、旅行用品、電子機器、その他の産業への原材料供給への投資が増える」と述べた。

両国大臣は、2019年末の交渉開始からわずか半年という短期間で妥結に至ったことは、カンボジアと中国の連携の強さを示すと高く評価した。

中国の商務部長は、「2020年は、両国間の包括的パートナーシップ締結から10年という節目であり、今回の合意は1958年から続く両国の伝統的かつ協力的関係を反映している」と述べた。

わずか半年での妥結は極めて異例で、EUの経済制裁に対抗するものと見られ、カンボジアの親中色が一段と強まるのは必至である。

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カンボジアの2019年の輸出額は前年同期比12.7%増の145億3000万ドル、輸入額は前年同期比18.6%増の221億9000万ドルとなった。貿易赤字は76億6000万ドルに達し、前年比で31.6%増加した。

みずほ総合研究所の資料では輸出入先の内訳は次の通り。

カンボジアの最大の輸入先は中国である。但し、中国向け輸出は低迷している。逆に最大の輸出先はEUで、EUからの輸入は少ない。

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EUは人権侵害に対して厳しい態度をとっている。

EUは7月28日、「LGBTフリーゾーン(排除区域)」宣言を発してLGBTQの権利を抑圧しているポーランドの6つの自治体による補助金申請を却下した。

LGBT: Lesbian、Gay、Bisexual、Transgender

LGBTQ:LGBTに Queer、Questioning(セクシャリティを決めかねているというアイデンティティをもつ人)を加えたもの

ポーランドでは国土の約3分の2にあたる80以上の自治体が「LGBTフリーゾーン(排除区域)」を宣言している。

こうしたアンチLGBTQの動きを後押しているのはアンジェイ・ドゥダ大統領と与党「法と正義」で、LGBTQを「共産主義よりも破壊的なイデオロギー」「外国からの良くない影響」「伝統的価値観を脅かす」と攻撃してきた。

欧州委員会のヘレナ・ダッリ平等担当委員はツイッターに、「加盟国とその当局は、EUの価値観および基本的人権を尊重すべきだ」と投稿した。

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