キリングループのオセアニア綜合飲料事業を担うLion Pty Ltd は2019年11月25日、飲料事業部門であるLion-Dairy & Drinksの全株式を中国蒙牛乳業の子会社であるMonday Smoothie Pty Ltdに譲渡する契約を締結した。
キリン及びLionは、今後の成長に向けてLion飲料事業の投資・保有の継続から売却まであらゆる選択肢を検討した後、同事業の成長ポテンシャルを最大化することができる第三者への譲渡が最善であると判断したもの。
牛乳、乳飲料、ヨーグルト、果汁飲料 及び氷菓に関する事業、海外事業並びに合弁事業の全ての全株式を譲渡する。
譲渡価額は、約456億円。なお、Lion-Dairy & Drinksのチーズ事業については、2019年10月にカナダの大手乳業メーカーSaputo Inc. に約224億円で譲渡が完了している。
今後は酒類事業のみが残るが、高収益カテゴリーへの資源配分強化や、海外クラフトビールや大人向けプレミアム飲料といった新たな成長分野への投資と育成を通じて、豪州・ニュージーランドの酒類市場を中心として一層の成長を目指 すとしていた。
しかし、キリンホールディングスは8月25日、両当事者が本契約の解除に至ったと発表した。
Monday Smoothie による本事業の買収には、外国投資審査委員会(Foreign Investment Review Board)と 競争・
半年を経過しても審査が進まないままであったが、豪州のFinancial Review紙は8月20日、財務相が蒙牛乳業によるライオン飲料の買収を認めない方針だと報じた。
中国商務部は8月18日に豪州産ワインのダンピング調査開始を発表しており、同紙は「外交的な問題」が背景にあるとの関係者のコメントを紹介している。
両社は、今後においても外国投資審査委員会による承認が得られない見通しとなった として、本譲渡契約をやむを得ず解除することに合意した。
キリンは、今後のライオン飲料事業の在り方については、改めて検討する。「今回は残念な結果となったが、ライオンの飲料事業部門の再生・再編は最重要課題であり、継続してライオン社とともに最善のシナリオを検討していく」としている。
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中国と豪州の「外交的な問題」
豪州と中国は2019年から関係が悪化している。
豪州政府は2018年8月に、次世代通信規格「5G」の通信網について、「安全保障上の懸念」から、Huawei とZTEの参加を認めない方針を出した。豪州は「Five Eyes 」の一員である。
2019年2月に豪州政府は、同国政治家や政治団体に多額の献金をした中国人の富豪・黄向墨の永住権を取り消し、再入国を禁止した。
中国の税関当局が遼寧省大連など5つの港で、オーストラリアからの石炭輸入を無期限の禁止にした。「安全や品質リスクの検査や分析をしている」と述べ、「中国企業の合法的権益や環境、安全を守る」と主張した。
豪州は今年に入り、中国が嫌がる行動をとっている。
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新型コロナウイルスの感染拡大を受けた世界保健機関の危機対応を含め、パンデミックへの対応について独立の調査を実施するよう求めた。
外相は、昨年末の武漢における感染拡大への中国当局の初期対応などを調べる検証作業を主張する意向を明らかにした。7/9
豪州首相は、国内に滞在している香港市民のビザを延長すると発表し、彼らの永住権取得にも道を開いた。約1万人の香港市民がビザ延長の対象になる。7/27
国連の豪政府代表部は、中国が南シナ海の「群島」を結ぶ境界線を引き権益を主張する「法的根拠はない」とする文書を提出。外国からの投資についても厳しくしたが、中国資本が主な対象である。
従来は、小規模な外国投資は報告義務が免除されており、多額の外国投資であっても、国益に反しない限り認可されていた。非常に多額、または重要インフラなどのセンシティブな案件については、外国投資審査委員会(FIRB)によって、国益に反しないか審議されてきた。国益に反するとしたものは阻止した。
2016/5/4 豪州政府、中国による牧場買収認めず、ニュージーランドも
2018/11/23 豪政府、長江集団による天然ガスパイプライン大手の買収を阻止
3月29日、外国からの全ての投資に対して、投資額や投資内容にかかわらず、政府の認可を必要とする暫定的措置を発表。国益を守るために必要な措置だとしている。
今回の不承認はこれに基づくと見られる。
これに対し、中国は5月12日から「中国消費者の健康と安全を守るため」として豪州の食肉処理場4カ所からの輸入を停止した。豪州の対中牛肉輸出の約35%をこの4カ所の食肉処理場が占める。
その後、中国はブラジルからの牛肉輸入を増やしているとされる。
付記
中国の税関総署は8月27日夜、オーストラリア産牛肉の輸入を一部停止したと発表した。豪食肉会社John DeeのWarwick工場からの牛ヒレ肉から使用禁止物質の「クロラムフェニコール」(犬猫兼用の抗生物質)が検出されたとしている。
すでに豪州当局に連絡し、45日以内に関係企業への調査を実施して中国側に報告するよう求めた。
なお、5月に輸入停止したのは、JBS AustraliaのDinmore とBeef City、Kilcoy PastroralのBrisbane、Northern Co-operative MeatのCasinoの4工場からのもの。
5月18日には豪州産大麦の反ダンピング、反補助金調査でクロの最終決定を行った。(2018年末に調査開始)
8月18日には豪州産ワインについて反ダンピング調査を開始した。
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キリンの豪州事業の歴史
キリンは1998年4月に豪州の酒類メーカーの Lion Nathan に46.13%を出資した。
Lion Nathanは1840年にニュージーランドで設立されたビール醸造所を母体とする。1860年からLion Beer を発売、他の醸造所を統合。
1988年に食品小売りのNathanと合併し、Lion Nathanに改称した。
1990年代に豪州に進出、本社を豪州に移した。
1998年に不振の中国でのビール事業立て直しと、醸造所間の品質統一のため、キリンの出資を受け入れた。
キリンは2009年10月に約2600億円を投じ、Lion Nathanを100%子会社とした。
別途、キリンは2007年末に、同社が約20%を保有するフィリッピンの食品・飲料最大手のSan Miguel から同社子会社で 豪州の乳製品・果汁飲料最大手 Nationa Foodsの全株式を取得した。
これらの結果、豪州事業会社をLion Nathan National Foodsとし、その下にLion NathanとNational Foodsを付けた。
2011年5月、Lion Nathan National Foodsを現在のLion Pty Ltd に改称し、その下に酒類事業と飲料事業を付けた。
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