医療用ロボットを開発するメディカロイドは8月7日、国産メーカーで初めて手術支援ロボット「hinotori サージカルロボットシステム」の製造販売承認を厚生労働省から受けた。
名称は、医師免許も持つ漫画家の手塚治虫の作品「火の鳥」から採った。
腹腔鏡手術向けで、月内をめどに国内で販売を始める。まず前立腺がんなど泌尿器科を対象に販売を始め、今後消化器や婦人科などへの適用拡大を目指す。2~3年後をめどに欧米市場に投入する。
2030年にはメディカロイドとして1000億円の売上高をめざすとしている。
日本では現在、米Intuitive Surgical 社のダヴィンチ(da Vinci Surgical System)が承認を受けており、前立腺がんと腎臓がん、肺がんや食道がん、胃がんなど15件に保険が適用されている。
メディカロイドは、2013年に、産業用ロボットのリーディングカンパニーの川崎重工業と、検査・診断の技術を保有し、医療分野に幅広いネットワークを持つシスメックスの共同出資(50:50)により設立された。
川崎重工業の産業用ロボット技術、シスメックスの医療分野で培われた知見を掛け合わせることにより、新しい価値を提供する。
「hinotori」 は実際に手術をするロボット「オペレーションユニット」、医師が操作してロボットを動かす「サージョンコックピット」、サージョンコックピットに表示する映像の統合や音声を制御するの3つの部分で構成する。
執刀医は手術台から離れた「サージョンコックピット」で、「ビジョンユニット」の内視鏡が映す3D映像を見ながら遠隔で操作する。
オペレーションユニットの4本のアームに内視鏡カメラや手術用器具を取り付け、患者の腹部に開けた複数の穴から挿入し、手術を行う。
人間の腕の動きに近い滑らかな動きが特徴で、通常の産業用ロボットなどに比べて関節の数を増やしながら、コンパクトな腕にした。執刀医の指先のように敏感に反応し、体内での切ったり縫ったりといった微細な動きに対応する。
サージョンコックピットは執刀医の姿勢にあわせることが可能なように人間工学的な手法で設計されており、執刀医の負担を軽減し、ストレスフリーな手術をサポートする。
ビジョンユニットは、サージョンコックピットに高精細な内視鏡画像を3Dで映し出すとともに、執刀医と助手の医師との円滑なコミュニケーションをサポートする。
付記
1.「hinotori」初手術
2020年12月14日、神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センター (ICCRC) において、国産初の手術支援ロボット「hinotori」を使った1例目の手術、前立腺がんの全摘手術を実施し、無事終了した。患者は73歳の男性で、手術時間は4時間28分、そのうち術者が手術支援ロボットを操作する時間は3時間39分だった。
2.商用5Gを介した国産手術支援ロボットの遠隔操作実証実験
神戸大学、NTTドコモ、メディカロイドは2021年4月24日、次世代通信ネットワークを用いた遠隔ロボット手術の実現に向け、最先端のネットワーク環境や医療機器を設置した実証実験施設「プレシジョン・テレサージェリーセンター」を立ち上げ、商用5Gを介した国産手術支援ロボット「hinotoriTMサージカルロボットシステムの遠隔操作の実証実験を実施した。
メディカロイド製の「hinotoriTM」と、ドコモの商用5Gとクラウドサービス「ドコモオープンイノベーションクラウド」「クラウドダイレクト」を用いて、
神戸医療産業都市にある神戸大学医学部附属病院 国際がん医療・研究センター(ICCRC)と、統合型研究開発・創出拠点(MeDIP)の二拠点間で、
遠隔操作に必要な高精細な手術映像(3D)とロボットの制御信号をリアルタイムに伝送し、
ICCRC側の「サージョンコックピット」の遠隔操作によりMeDIP側の「オペレーションユニット」で模擬手術を行う実証実験に成功した。なお、商用5Gネットワークを介した手術支援ロボットの遠隔操作の実証実験は世界初。
先行する米国の da Vinci は遠隔操作用に米軍により開発された。
イラン、イラクなどでの戦争を想定、従来の戦争では多数の負傷者が出て、現地で対応できないことを考え、離れた場所にいる戦艦や米本土から遠隔手術をするために開発した。
その後、ミサイルでの攻撃が中心となり、軍事用での必要性がなくなり、民間に移管された。
日本ではほかに下記の各社が手術支援ロボットの発売の準備をしている。
リバーフィールド㈱
「産学連携」と「医工連携」の特徴を合わせ持つベンチャー企業
東京工業大学の川嶋・只野研究室が長年、蓄積してきた研究成果をもとに開発を進め、東京医科歯科大学の生体材料工学研究所や附属病院低侵襲医学研究センターが、医療機器としてのシステムを厳格に評価している。
空気圧制御により、「センサレスで力覚を検知できる」「ひとにやさしく繊細な力制御をすることができる」「シンプルな機構のため軽量コンパクト化が可能」などの利点があるとしている。
手術器具の先端に力が加わると、空気圧シリンダーに力が伝わり、シリンダー内の圧力が変化する。その圧力の変化から力覚を計算し、操作者の手元のコントローラーに反映させて伝える。
A-Traction
国立がん研究センターの認定ベンチャーで、臨床現場で生まれたニーズを基に腹腔鏡手術支援ロボットの開発に取り組んでいる。千葉県柏市の国立がん研究センター東病院内にある。
これまでの内視鏡手術と同様に立ったまま自分の手で器具を動かして手術し、利用したいときだけロボットアームに支えられた器具を操作する。従来の内視鏡手術の助手の役割をロボットで置き換える。
「Another Surgeon(=もう一人の外科医)」となることを目指すとしている。
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