2020年の「イグ・ノーベル賞」の発表が9月17日にあり、日本人を含む研究チームに「音響学賞」が贈られた。
日本の研究者の受賞は14年連続。
(過去の受賞者は 2019/9/15 2019年イグ・ノーベル賞に渡部・明海大教授ら の末尾に記載)
受賞したのは、ルンド大(スウェーデン)のStephan Reber博士研究員や京都大霊長類研究所の西村剛准教授らのチーム。
中国の固有種で絶滅が危ぶまれている爬虫類、ヨウスコウワニ(Chinese alligator:Alligator sinensis)が声を出すメカニズムについて、ヒトなどの哺乳類や鳥類と同じなのか調べた論文を2015年に英科学誌 Journal of Experimental Biologyに発表した。
A Chinese Alligator in Heliox: Formant Frequencies in a Crocodilian
ヒトなどの哺乳類や鳥類は、のどから口までの「声道」で管楽器のように共鳴させて音を出している。ヘリウムガスで音が変化するのは、音声が普通の空気よりも早く伝わる性質があることなどから 。
一方、ワニは太鼓の音にも似た鳴き声を出すが、詳しい発声の仕組みはよくわかっていなかった。そこで、ワニにヘリウムガスを吸わせて鳴かせた。もしワニが管楽器ではなく、打楽器のように空気を直接振動させて声を出す場合、ヘリウムガス中でも音が変わらないはずだから 。
研究チームはワニの水槽にヘリウムガスと酸素を充満させ、うなり声を録音した。
このワニは交尾期、異性の声を聞くとそれに呼応してうなるような声を出すため、今回、メスにあらかじめ録音したオスの声を繰り返しスピーカーで聞かせて、メスの声を録音した。
約400ヘルツの音声が倍の約800ヘルツと高くなったことから、打楽器のように空気を直接振動させるのではなく、人と同じく共鳴を起こしていると結論づけた。鳥類やテナガザルも同様の発声の仕組みを持つことが確かめられている
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2020年の受賞は以下の通り。受賞者には10兆ジンバブエドルが贈られた。2009年以降使用不可で、価値最低時のレートで約4円に相当する。
音響学賞 Stephan Reber、Takeshi Nishimuraほか
ヘリウムを吸ったワニの鳴き声はどう変わるのか。
文献:A Chinese Alligator in Heliox: Formant Frequencies in a Crocodilian
心理学賞
眉毛でナルシストを判別
トロント大学の学部生39人を対象に、「自然な表情をしてから撮影された被験者自身の写真を見て、その表情の『ナルシスト度』を採点してもらう」という調査を行い 、ナルシストだという判断は主に「眉毛」に依存していると結論付けた。「特に整った眉毛をしている人に気をつけるべき」としている。
平和賞 インドとパキスタン政府
カシミール地方の領有権などを巡ってインドとパキスタンは長きにわたって対立しているが、両国の外交官は水面下で「嫌がらせ合戦」を行って いる。真夜中にドアのベルを鳴らし、相手が出る前に逃げるという嫌がらせの応酬を行なっている。
物理学賞
高周波にさらされた時、生きているミミズの形態がどのように変化するか
柔軟性のある皮膚と液体で満たされた体腔を有するミミズを使って、ミミズの体表上で「ファラデー波」が生じるかを調査した。
文献:Excitation of Faraday-like body waves in vibrated living earthworms
経済学賞
国家間の国民所得差とマウス・トゥー・マウスのキスの平均量における関係性
世界中から3109人の参加者を募って、キスの頻度などを調査し、「平均所得が低い国ではキスの頻度が高くなる」という傾向を立証した。
文献:National Income Inequality Predicts Cultural Variation in Mouth to Mouth Kissin
経営学賞
「殺し屋の多重下請け」
中国の殺し屋は暗殺を200万元で受注し、一部をピンハネして下請けに発注。同様の現象が繰り返された結果、末端の殺し屋が受け取った報酬はわずか10万元 で、末端の殺し屋は暗殺に見事失敗し、依頼者を含めて全員が逮捕された。
昆虫学賞
多くの昆虫学者が昆虫より脚が2本多いクモを恐れていることの証拠
文献:Arachnophobic Entomologists: When Two More Legs Makes a Big Difference
医学賞
他人の咀嚼音を聞くと苦痛を感じるという病状の診断
オランダの研究者らは、ミソフォニア(音嫌悪症)を発症した42人の被験者が参加した実験によって、咀嚼音が否定的な感情を呼び起こすことを実証した。
文献:Misophonia: Diagnostic Criteria for a New Psychiatric Disorder
Cognitive Behavioral Therapy is Effective in Misophonia: An Open Trial
医療教育賞
政治家は科学者や医師よりも生死に多大な影響を与えられることの実証
新型コロナの感染者が多い以下の国の大統領、首相が受賞
ブラジルJair Bolsonaro 大統領、英国 Boris Johnson 首相、インド Narendra Modi 首相、メキシコ Andrés Manuel López Obrador 大統領、ベラルーシAlexander Lukashenko 大統領、米国 Donald Trump 大統領、トルコ Recep Tayyip Erdogan 大統領、ロシアVladimir Putin 大統領、トルクメニスタンGurbanguly Berdimuhamedow 大統領
多くの犠牲者を出した政治家の対応を痛烈に批判
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なお、ベラルーシAlexander Lukashenko 大統領は2013年の平和賞に続く2度目の受賞
公共の場で拍手をすることを違法とした大統領と、腕が1本しかない男性を拍手をした罪で逮捕した同国の警察が共同受賞。
材料科学賞
「凍った人糞のナイフで肉を切っていた」というイヌイットの伝説の実証
実際に「凍った人糞からナイフを作る」という実験を敢行。人糞製のナイフが使い物にならないことを立証した。
文献:Experimental Replication Shows Knives Manufactured from Frozen Human Feces Do Not Work
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