英政府は、Brexitの最大の懸案だった北アイルランドの税関と国庫補助を含む分野で、EU離脱協定の効力を弱めかねない法案を議会に提出した。
英国は、北アイルランド紛争の再発を避けるため北アイルランドとアイルランド共和国の国境には物理的な関税等は設けない。このため、離脱協定で下記の特殊措置をとることと した。
2020年末までの移行期間終了後、名目上は北アイルランドを含む英全土がEUとの関税同盟から抜ける。
しかし、アイルランド島の国境付近での税関業務を省略できるよう、北アイルランドに限り関税手続きをEU基準に合わせる。
英本土から北アイルランド向けの品物はいったんEUの関税を徴収されるケースも出る。本土から北アイルランドに入る段階でEU関税を支払い。(英国が実施するが、EUは立ち合いの権利を持つ。個人の荷物はチェックしない。)
北アイルランドに留まるものは関税還付。
アイルランドに運ばれるものは関税還付なし。北アイルランドから本土に商品を動かす場合、輸出申請が必要となる。
北アイルランドとEU単一市場間の企業取引に関連して、英国が北アイルランドの企業に補助金を提供する場合、その内容をEUに通知しなければならない。
英国は5月20日、本土から北アイルランドに入る製品の扱いについて、北アイルランドに税関を設置しないと発表した。
既存の農業食品のチェックポイントは拡張するが、税関設備はつくらない。
英国の他地域から北アイルランドに入る製品のうち、アイルランド共和国向けのもの及びそこから輸出されるものだけに関税が課せられる。
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移行期間の終了後、国内各地域間で円滑な通商を維持する狙い( to protect jobs and trade within the UK)だが、離脱協定で定められた北アイルランドに関する議定書の一部を無効とする条項を含んでいる。
移行期間が終了した場合の取り扱いが不透明な箇所があり、合意なし時の法的な混乱を回避するため、国内法を通じて一部内容を修正する必要があると主張している。
英紙が伝える修正の内容
①EUの国家補助金規制の解釈を英国の担当大臣に任せる。欧州裁判所の判断に従わない。
②北アイルランド企業が本土向けに出荷する際に求められる輸出申告書を免除する。チェック無し。
③本土から北アイルランドに出荷する際の関税還付の対象物品を英国が決定する。(EUに持ち込まれるリスクが高い物品を協議して決定することになっている)
北アイルランドから英本土に流入する製品については新たな検査を行わないと定めている。
また、英・EU間の貿易協定がまとまらなかった場合に発効するはずのモノの移動に関するルールや、企業に対する国家補助の取り決めを、英政府が無効化する権限も含まれている。
しかもその文面には、こうした権限は国際法に反しても適用されるべきと明記されている。国際法となった協定では、協定は英国の国内法に優先すると明記されているが、これを否定するもので、国際法違反になる。
離脱協定第4条 The provisions of the treaty take legal precedence over anything in the UK's domestic law.
閣僚の1人が下院で、「限定的な形("very specific and limited way")」で「国際法に違反」する可能性があると認めた。
「条約法に関するウィーン条約」の第62条では、条約締結時の事情が根本的に激変した場合は、国は条約上の義務を停止することができるとしている。この第62条の適用が認められるには、「事情の根本的な変化」はユーゴスラヴィア解体のように、かなり劇的なものでなくてはならない。
ジョンソン首相は下院での答弁で、「英国の統一を維持すると同時に、北アイルランド和平合意を守ることが私の仕事」とした上で、「そのためには、北アイルランドに関する議定書が極端あるいは不合理に解釈され、北アイルランドと英本土の間に国境線が引かれるような事態から英国を守る安全措置が必要」と訴えた。
同法案を巡っては、与党・保守党内からも英国の評価に傷がつくとの懸念の声が上がっている。政府法務局のJonathan Jones事務次官は前日に突如辞任した。
ジョンソン首相の前任の Theresa May は、政府を鋭く批判した。
「英政府は北アイルランド議定書を含む離脱協定に署名した。この議会は、その離脱協定を英国国内法にすると可決した。しかし政府は今、その協定の施行を変更しようとしている。いったいどうやって政府は今後の各国との連携において、英国は協定に署名したらその法的義務を順守すると、信用してもらって大丈夫だと、諸外国を安心させられるというのか」
欧州委員会はこれに懸念を示し、英政府に臨時会合を求めた。 欧州委員長は「国際法に違反し、信頼を損なうものだ」と批判した。
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