米食品医薬品局(FDA)は8月23日、COVID-19から回復した人の 血漿(convalescent plasma)を投与する血漿療法の緊急使用許可を与えたが、米国立衛生研究所(NIH)の専門家委員会は9月1日、 血漿療法は有効性などのデータが不十分で標準的な手段と考えるべきでないとする声明を公表した。
これまでの研究から血漿中の抗体の濃度が高くても低くても重症者の7日後の生存率に違いはないと指摘、投与しないより有益な可能性はあるが、有効性と安全性は臨床試験を経ておらず不確かだとした。「COVID-19治療での血漿療法の有効性と安全性を立証する良く管理され統計上のサンプル数が十分なランダム化比較試験によるデータは現時点で存在しない。血漿療法活用を勧告すべきだ、勧告すべきでないという双方の立場とも裏付けるデータが不十分だ」と説明した。
世界保健機関(WHO)の首席科学者も8月24日の記者会見で「効果があるとの決定的な研究結果はない」と述べ、現段階で各国が治療法として用いることに慎重な姿勢を示していた。またWHO上級アドバイザー は、血漿療法によって、発熱から重篤な心肺機能の障害まで、さまざまな副作用が報告されていることを明らかにした。
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FDAは8月23日、COVID-19の治療を目的として、回復期血漿療法について緊急使用許可(EUA)を出した。「既知の潜在的なベネフィットが製品の既知の潜在的なリスクを上回ると結論付けた」とした。
米国で新型コロナ治療薬としてEUAを受けたのはレムデシビルについで2剤目となる。正式承認を受けたものはない。
回復期の患者の血漿や免疫グロブリンには、ウイルスを中和する抗体が含まれており、重症患者に投与することで重症化の抑制効果などが期待されている。インフルエンザやSARS、MERSなどで効果があったとの報告がある。
FDAは3月末の時点で、研究者が回復期の患者の血漿を使った試験的な治療をできるようにしており、既に新型コロナウイルス患者7万人以上に対してこの治療法が使われている。
しかし、一部では有望な兆候が見られるものの、無作為の臨床試験に関するデータは存在せず、まだ進行中の臨床試験もある。
ニューヨーク・タイムズによると、FDAの緊急使用許可に対しては、米国立衛生研究所(NIH)の当局者が介入して待ったをかけていた。
FDAの許可に当たりトランプ大統領は記者会見で「強力な治療法だ」と称賛した。「中国ウイルスとの戦いにおいて、数え切れないほどの命を救うことになる本当に歴史的な発表ができて嬉しく思う」。
前日には、政治的な理由でワクチンや治療法の導入を遅らせているとしてFDAを非難していた。
トランプ大統領やハーンFDA長官らは8月23日の会見で、血漿の投与によりCOVID-19による死者が35%減っていた可能性があると述べた。
ハーン長官はその後、血漿療法の有効性に関する説明が不正確だったと認め、陳謝した。
このデータの基となった研究を行った専門家は、「私だったらこのような言葉遣いはしていなかった。彼らが明確に説明することを望む」と語った。
このデータが示しているのは、血漿の投与が多い患者と少ない患者との比較で投与が多い方が有効だということだけで、「ランダム化比較試験を行うまで、はっきりと分からない」としている。
この研究の対象者は全員が血漿を投与されており、投与されない患者と比較した場合どうなるかは不明で、さらに、患者の病状の深刻度が異なる場合や、いつ治療を行ったかなどで結果が変わる可能性もある。
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