日産自動車は新型コロナ感染拡大以前から世界の主要地域で販売を落とし、業績の低下に悩んできた。さらに新型コロナの影響で2月に中国からの部品供給が途絶え、日系大手で最も早くから国内生産を一時停止した。3月中旬以降、欧米やアジアでも軒並み工場や販売店がストップした。
日産自動車は主力銀行のみずほ銀行と三菱UFJ、三井住友銀行のメガ3行のほか、日本政策投資銀行に融資を要請した。
5月末に円建て融資7000億円の内訳が明らかになった。
日本政策投資銀行からの融資はこれまで1800億円がすべて一般の融資と見られていた。
みずほからの3500億円のうち、2000億円は海外子会社の資金ニーズに対応するもので、日本貿易保険の「海外事業資金貸付保険」が付保されている。
日本貿易保険の「海外事業資金貸付保険」は引受総枠1兆5千億円で、政府が2020年5月27日に閣議決定した第2次補正予算案に盛り込まれている2021年3月31日までの措置である。
貸付、社債(私募)の取得、保証を対象とする。政府は新型コロナウイルスの感染が続くなかでグローバル事業を展開する企業を支援する。主に製造業の海外子会社の利用を想定し、民間金融機関からの借り入れに保証をつける。
朝日新聞は9月7日、日本政策投資銀行が5月に決めた日産自動車への融資1800億円のうち、1300億円に政府保証をつけていたことがわかった と報じた。
日本政策投資銀行の融資の原資は同じ政府系の日本政策金融公庫を通じた政府からの出資金で、危機対応融資と呼ばれ、通常は 政策投資銀行が貸し倒れリスクを負う。
政府はコロナ禍で資金繰りが悪化した企業へ、政策投資銀行などによる「危機対応融資」を3月から実施している。貸す側は融資焦げつきに備え、政府保証にあたる「損害担保契約」を結んで損失を補うこともできる。政策投資銀行には、大手企業から申し込みが殺到していた。
今回の日産自動車向けについては1800億円の融資のうち1300億円については、 日本政策金融公庫との間で損害担保契約を結んだ。政策投資銀行は保証料を支払い、融資が焦げ付いた場合に公庫が最大8割を肩代わりするという事実上の政府保証である。
同様の融資はリーマンショック後の2009年に経営再建中の日本航空でも使われた。政策投資銀行は約670億円を政府保証つきで 融資したが、翌年に日航が経営破綻して約470億円の国民負担が生じた。
今回の日産の保証額は日航を大きく上回り、過去最大規模となるという。
危機対応融資は「国民生活の向上や国民経済の成長に及ぼす影響が大きいと判断される大企業」に限って公庫の保証を認めている。雇用の受け皿となっていることや下請け企業の裾野の広がりといった要件がある。
3月から7月末までに政策投資銀行が実行した1兆8827億円の危機対応融資のうち公庫の保証付きは大企業では日産 自動車1件のみで、企業の信用問題にもかかわるため、個別の支援先の開示は想定しておらず、財務省もホームページでは「1件」「1300億円」とだけ記している。
日本政策投資銀行は政府100%出資のため、仮に日産自動車が破綻し、貸倒損が発生すれば、「損害担保契約」の有無にかかわらず、政府の損失とな り、同じことである。
それよりも、政府機関の一部である政策投資銀行が破綻の恐れがあると見做し、政府の保証を求めたことは日産自動車にとって大問題である。
日産自動車は「(政府保証は)全く承知していない」(広報)としている。
付記
日産自動車は、発行総額80億ドルのドル建て債と20億ユーロのユーロ建て債を発行する。
9月10日に条件決定したドル建て債は、3年と5年が各15億ドル、7年と10年が各25億ドルの合計80億ドル。
9月11日に条件決定したユーロ建て債は、3年が5億ユーロ、5.5年が7.5億ユーロ、8年が7.5億ユーロの合計20億ユーロ。
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