この技術は大阪大学大学院医学系研究科の西田幸二教授(眼科学)が開発したもので、同社は自家培養口腔粘膜上皮細胞シート移植の技術を導入するとともに、同教授のグループが実施した医師主導治験を引き継ぎ、2016年9月より「COMET01」の企業治験を行ってきた。
「COMET01」の販売は、眼科医療機器メーカーである ㈱ニデックが行う予定。
「COMET01」は、患者自身の口腔粘膜組織を採取し、分離した細胞を培養して作製する自家口腔粘膜上皮由来細胞シートで、本品の移植によって、患者自身の口腔粘膜上皮細胞を生着・増殖させ、欠損した角膜上皮を再建させることを目的としてい る。角膜上皮幹細胞疲弊症によって両眼の角膜が広範囲に混濁し視機能が著しく低下した患者に対する新たな治療法として期待されている。
なお、2020年3月に、COMET01が角膜上皮幹細胞疲弊症の治療を目的とした希少疾病用再生医療等製品に指定された。
角膜疾患のため失明した患者に対して、現在角膜移植が実施されているが、わが国では献眼数が絶対的に少なく、ドナーが不足している。また、重篤な角膜上皮疾患の場合は、特に拒絶反応のため、角膜移植が奏功しない。
西田教授らは これらの問題を解決しうる、独自の自家培養口腔粘膜上皮細胞シート移植法を開発した。口腔粘膜の上皮細胞を代替細胞として移植する再生治療法(自家培養口腔粘膜上皮細胞シート移植:COMET)を開発し、臨床応用を行い、従来の角膜移植術に比較して良い成績が得られるようになった。
ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング はこれを引き継いだもので、今回、製造販売申請を行った。
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西田教授らは現在、これと異なり、iPS細胞由来の角膜上皮細胞シートによる治療を進めている。
COMETは成功しているものの、長期間観察により、角膜と口腔粘膜の性質差に起因すると考えられる事象が生じるために、COMETの効果は限定的であることが明らかとなってきた。
例えば、角膜内への血管侵入が生じて角膜が再混濁する例があることなど。
このためその後、iPS細胞由来角膜上皮細胞シー トによる治療を進めている。
西田教授(眼科)らのチームの「角膜上皮幹細胞疲弊症に対する他家 iPS 細胞由来角膜上皮細胞シー トの first-in-human 臨床研究」の計画が2019年3月5日、厚生労働省の 厚生科学審議会 再生医療等評価部会で、患者への同意の説明文書の内容などに修正を求める条件付きで了承された。
京都大から第三者のiPS細胞の提供を受け、角膜の細胞に変化させ、厚さ約0.05ミリのシート状にし、患者の目に移植する。300万~400万個(健康な人の目に存在する量と同程度)の細胞が移植される 。
2019年7月にヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作製した角膜上皮細胞シートを角膜上皮幹細胞疲弊症の患者1名に移植した。引き続き、移植後の経過観察を実施するが、2019年8月23日に患者は退院した。経過に問題はなく、視力もかなり改善してきているという。
2019/3/8 厚労省、iPS細胞の角膜移植臨床研究計画を了承
2020年4月、大阪大学大学院医学系研究科の林竜平寄附講座教授(幹細胞応用医学寄附講座)、西田幸二教授(眼科学、先導的学際研究機構生命医科学融合フロンティア研究部門)、柴田峻共同研究員(ロート製薬、幹細胞応用医学寄附講座)らの研究グループは大阪大学蛋白質研究所の関口清俊寄附研究部門教授らと共同で、iPS細胞から作製した様々な眼の細胞を含む細胞群から、角膜上皮細胞のみを純化する新たな方法を確立した。
研究グループは、それぞれの眼の細胞の種類ごとに、基底膜タンパク質ラミニンに対して、接着性や増殖性が異なることを見出し、角膜上皮細胞の純化に応用した。本成果により、外傷や病気により、角膜上皮の幹細胞が失われた難治性角膜疾患に対する新たな再生医療として期待されるiPS角膜上皮細胞シート移植治療の普及や産業応用に向けたiPS角膜上皮細胞の単離法・細胞シート製造の簡便化・効率化・コスト削減等が期待される。本研究成果は、米国科学雑誌『Stem Cell Reports』に4月14日に掲載された。
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