日立製作所、英国原子力発電所建設プロジェクト事業運営から撤退

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日立製作所は9月16日、2019年1月に凍結した英国での新規原子力発電所建設プロジェクト(Horizon Project)の事業運営から撤退することを決定したと発表した。

プロジェクト凍結から20カ月が経過し、新型コロナウイルス感染拡大の影響などにより投資環境が厳しさを増していることも考慮し、撤退する判断に至った。

本プロジェクトについては、同社は2019年3月期連結決算において減損損失等2,946億円を計上しているため、今回のプロジェクト事業運営撤退に伴う業績への影響は軽微としている。


経緯は下記の通り:

日立製作所は2012年10月30日、ドイツのエネルギー会社のE.ON 及び RWE から、英国で原子力発電所の建設を計画している原発事業会社Horizon Nuclear Power の全株式を買収する契約を締結した。

2012/11/1 日立製作所、英の原発会社買収

Horizon は、北ウエールズのAnglesey島のWylfa Newydd とSouth Gloucestershire のOldbury-on-Severn の2カ所で、5,400MW級以上の原発(1,300MW級をそれぞれ 2~3基)を建設する。

2016/7/9 日本原子力発電、日立の英国の原電事業に協力 

日立は、まずAnglesey島 Wylfa Newydd 原発2基の建設に向け、約2000億円を投じて工事の準備を進めた。

Horizon Nuclear Powerは2016年5月、日立ニュークリア・エナジー・ヨーロッパとBechtelと日揮の3社が設立したコンソーシアム「Menter Newydd」(ウェールズ語で「新しいベンチャー」を意味)をEPC契約締結までのエンジニアリング業務を遂行するサプライヤーに指名した。

日立製作所は2017年6月8日、投資家向けイベントで、英国で進めている原発の新設計画について、「リスクを最小化するベストな体制を敷いている」と説明した。

出資比率 パートナーを募り、連結子会社から外せない場合は計画を中止する。
出資パートナー候補との本格交渉はこれから。 
採用技術 稼働実績が豊富な日立GEニュークリア・エナジー のABWR技術

GE Hitachi Nuclear Energyが高経済性・単純化沸騰水型原子炉(ESBWR)の設計認証を申請中だが、実績を優先した。 

建設リスク 最強のパートナーが一体感を持って取り組む

Bechtelと日揮と組み、工事遅延などで損失が発生する場合は個社の過失を問わず、事前に決めた割合で全社が責任を負う 。

2017/6/12 日立の英国の原発事業の戦略 

英政府は2018年6月4日、北ウエールズのAnglesey島 Wylfa Newydd における原子力発電所の建設(Horizon Project)で日立製作所と基本合意に至ったと発表した。

これまでの交渉では、日立、日本政府・企業、英国政府・企業が3千億円ずつ出資、残り約2兆円を融資で賄まかなう案が検討されてきた。 融資には、日本から三菱UFJ銀行など3メガバンクと政府系の国際協力銀行が参加する予定で、従来は政府全額出資の日本貿易保険が融資を債務保証する計画だった。

2018年4月下旬に英国側は支援策の一環で、英政府が日英双方の銀行融資を全額債務保証する意向を日立側に示したという。日本政府が債務保証する場合に比べて日立の負担が直ちに減る。

2018/6/8  日立、英の原発計画で英政府と基本合意 

但し、日本側も英国側も出資の目途はたっていない。 また、完成した場合の電力の買い取り価格も決まっていない。これについては、英国政府は、「RAB(Regulated Asset Base:規制資産基盤)」という新しいモデルを導入することにした。

2018/8/4 東芝の英国原発計画の現状 の文末

日立は2019年1月17日、Horizon プロジェクトを凍結することを決定し、特別損失計上を決めた。日立の民間企業としての経済合理性の観点から、判断した。

今回、撤退を決めた。

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これで日本の海外原発計画は全て無くなる。

1) リトアニア

日立製作所は2012年6月、リトアニアから原発の受注に成功した。

日立は同国北東部に建設予定のVisaginas原発計画について、130万キロワット級の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を提案し、入札を経て2011年12月に仮合意を結んだ。
2012年6月21日にリトアニアの議会が建設事業権について、日立製作所と契約することを賛成多数で承認した。

リトアニアはソ連時代にIgnalina原発が稼働し、独立後も国内電力の7割以上をまかなっていたが、Chernobyl 原発と同型のため、EU加盟の条件として2009年末に完全閉鎖した。代替措置として、ラトビア、エストニアと共同で隣接地に新たにVisaginas原発を建設するもの。

日立として初の海外受注案件で、同原発に出資するラトビア、エストニアからの合意を得た後、正式に契約する予定であった。

しかし、2012年10月14日に原発建設の是非を問う国民投票が行われ、反対票が約63%に達した。投票率は52%で、選管は投票を有効と判断した。投票結果に拘束力はない。

投票結果を受け、グリバウスカイテ大統領は「新政権は国民の考えを注意深く踏まえなければならない」との声明を出した。

更にリトアニアでは10月28日に
議会選の決選投票が行われ、原発建設に慎重な野党3党が過半数を確保した。

リトアニア・エネルギー省は2016年11月24日付のリトアニア国家エネルギー戦略のガイドライン1において、計画されていたヴィサギナス原発計画を凍結することを勧告した。
ガイドラインでは「市場環境が変化して費用対効果が高くなるか、エネルギー安全保障上、必要な状況となるまで、計画を凍結する」とされた。

2) ベトナム

ベトナム政府は2016年11月22日、日本企業が受注し、同国南部に建設することになっていたベトナムで初めての原子力発電所の建設計画を中止すると決めた。

2016/11/14  ベトナムの原発建設計画 中止へ

3) トルコ

三菱重工業とフランスのArebaは、1991年に燃料サイクル分野において合弁会社を設立、2006年には原子力事業でのより広範な協調で合意した。

2007年7月11日にArevaとの折半出資による合弁会社ATMEA社を設立、両社技術を融合した電気出力110万kW級の最新鋭の加圧水型軽水炉(PWR)ATMEA 1 を開発した。

ATMEA 1 はトルコのSinop原発で110万kW 4基の採用が決まった。 トルコの原発計画は、日本政府が成長戦略として推進する原発輸出政策の一環と位置づけられた。

しかし、建設費が当初想定の2倍近くに膨らみ、トルコ側と条件面で折り合えなかった。

2018/12/13 三菱重工、トルコ原発計画断念へ

4) もう一つの英国計画

東芝は2018年11月8日、英国における原子力発電所新規建設事業からの撤退を決定し、連結子会社のNewGeneration (NuGen)を解散すると発表した。

これまで売却交渉を続けてきたが、2018年度中のNuGen社の株式売却完了の見通しが立たないこと、及びNuGen社維持費用の継続負担等を勘案し、経済合理性の観点から、今般、解散を決めた。

2018/11/9 東芝、英原発事業を清算

5) 東芝、Westinghouseを売却

2018/1/9 カナダの投資ファンド、米Westinghouseを買収

2018/1/15 東芝、Westinghouseの米国原発建設プロジェクトに係る親会社保証を早期弁済

2018/1/19 東芝、Westinghouse関連の株式と債権を売却

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他方、韓国電力コンソーシアムが受注したアラブ首長国連邦(UAE)西部のブラカ(Barakah )原子力発電所の1号機が本年8月1日に稼働した。2号機も建設を終えており、3~4号機は現在建設中。

2020/8/7 アラブ首長国連邦の原子力発電所1号機稼働

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