米司法省は10月21日、麻薬性鎮痛薬オピオイドのメーカーのPurdue Pharma及び同社のオーナーのSackler 一族との刑事・民事訴訟で和解したと発表した。
同社は現在、裁判所でChapter 11 の審査中であり、今回の和解は裁判所の認可が必要である。
概要は下記の通り。
1) Purdue Pharmaは、FDC法違反、反キックバック法違反等で有罪を認める。
2) 罰金
Purdue Pharma 刑事上の罰金 3,544百万ドル 同 不当利益没収 2,000百万ドル 民事上の和解金 2,800百万ドル 合計 8,344百万ドル Sackler family 罰金 225百万ドル 不当利益没収のうち、225 百万ドルは破産確定時に支払う。
3) Sackler一族はPurdue Pharma を手放し、同社を公益法人に変える。
公益法人として、安全な処方薬を供給するだけでなく、オピオイド中毒治療薬を無償又は非常に割り引いた価格で供給し、公益法人の収入はOpioid対策計画のために使われる。
これによる社会貢献を不当利益没収 2,000百万ドルのうち、破産確定時に払う225百万ドルの残り 1,775百万ドルと評価する。
4) 今回の和解で、Sackler一族や、Purdue Pharmaの役員、従業員の個人責任は免除されない。
5) Sackler familyの罰金には、将来の罰金支払いを回避するために一族がPurdue Pharma から多額の資金を一族のファンド等に不法に移したことへの罰金を含む。
(下記の通り、2008~2018年には107億ドルを移しており、これからみると罰金は非常に少ない。)
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但し、上記のPurdue Pharmaへの罰金のうち、支払が明示されているのは225百万ドルだけであり、他にPurdue Pharma を公益法人とし、社会貢献させる分を評価すると2,000百万ドルとなる。
刑事上の罰金 3,544百万ドルと民事上の和解金2,800百万ドルについては一切触れられていない。
同社はChapter 11を申請し、審査中であるが、おそらく資金が残っていないと思われる。
報道では、「米製薬パーデュー、オピオイド問題で和解金 8400億円超」 というものと、「米パーデュー、オピオイド問題巡り有罪認める 巨額の罰金回避」というのに分かれる。
後者(ロイター)は次の通り述べている。
米製薬会社パーデュー・ファーマが有罪を認めることで米検察当局と合意した。事実上、巨額の罰金支払いの回避につながるほか、同社の幹部や創業者一族が刑事責任を問われなかったことで、この取引に批判も出ている。
同社はオピオイド系鎮痛剤「オキシコンチン」の販売に関連した罪状を正式に認め、米司法省との和解金225百万ドルを支払うことで合意した。
検察当局は80億ドルを超える多額の罰金支払いを科していたが、大部分が未払いとなる。
司法省が行っている個人に対する捜査は継続している。
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米国では、オピオイド中毒をめぐり製薬会社や流通業者が何千件と訴追されている。オピオイド (Opioid) は、ケシから採取されるアルカロイドや、そこから合成された化合物、また体内に存在する内因性の化合物を指し、鎮痛、陶酔作用がある。
骨折や慢性疼痛、歯科治療で最もよく処方される「ヒドロコドン/アセトアミノフェン配合剤」「オキシコドン/アセトアミノフェン配合剤」「サボキソン」などのオピオイド鎮痛薬は、疼痛管理には非常に効果的だが、常習性があり、また薬剤の高用量の摂取では昏睡、呼吸抑制を引き起こす。
米疾病管理予防センター(CDC)によると、過量服薬による死亡の多くにオピオイドが関与しており、処方箋薬のオピオイドによる死亡は1999年から4倍に増加している。過去20年で20万人の米国人が死んだオピオイド危機について、トランプ大統領は2017年に public health emergency と呼んだ。
米司法省は2019年初めに「opioid」のメーカーや流通関連企業6社に対して刑事捜査に入った。意図的にまん延させた可能性について、薬物の製造・乱用を取り締まる「規制物質法」への違反がなかったかを調査する。イスラエルのTeva Pharmaceutical、米のJohnson & Johnson (J&J)、Mallinckrodt Pharmaceuticals、Amneal Pharmaceuticals、医薬品卸の米AmerisourceBergen、米の調剤薬局チェーンのMcKessonの6社である。
司法省はその前に鎮痛剤OxyContinのメーカーのPurdue Pharmaの刑事捜査に入っている。医師が不法にopioidを処方するのを報告しなかったかどうかや同社の受注モニターシステムを調べている。
2019/11/30 米司法省、麻薬入り鎮痛剤メーカーを刑事捜査
オクラホマ州地方裁判所は2019年8月26日、処方鎮痛剤などに含まれる麻薬性鎮痛薬オピオイドの中毒蔓延をめぐり、米製薬大手 Johnson & Johnson(J&J)に572百万ドルの制裁金を支払うよう命じた。J&Jは判決直後に、上告の意向を示した。
原告のオクラホマ州は、J&Jと鎮痛剤OxyContinのメーカーのPurdue Pharma及びイスラエルのTeva Pharmaceuticalの3社を訴えたが、Purdue Pharmaは3月に270百万ドル、Tevaも開廷に先立ち85百万ドルの和解金支払いで合意しており、J&Jだけが残っていた。
Purdue Pharmaは2019年9月15日、Chapter 11の適用をニューヨーク州の連邦裁判所に申請した。同社は一連の訴訟を巡る和解案の条件に基づいて再編を進めることを目指している。
Purdue PharmaがChapter 11 を申請したのは、将来、各地での訴訟で多額の罰金を課せられるのを回避するためである。しかもその前に多額の資金がPurdue Pharmaからオーナー一族に移されている。
本年9月にChapter 11審査の裁判で、同社の監査報告が提出されたが、下記が明らかになった。
1995~2007年に会社から一族に渡った配当等は13億ドルであったが、2008~2018年には107億ドルに増えている。これは2007年に鎮痛剤OxyContinに関して司法省から6億ドルのペナルティを課せられた後のことである。
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Opioid に関して、面白い報道がある。
米小売り大手Walmartは10月22日、医療用麻薬「オピオイド」を含む鎮痛剤の中毒問題を巡り、米司法省と麻薬取締局をテキサス州東部地区の連邦地裁に提訴した。
司法省と麻薬取締局が、Walmartの薬剤師は医師の書いたオピオイドの処方箋を拒否すべきだったとして訴えようとしているが、医師免許を持つ医師の処方箋を断ることはできないとし、裁判所にWalmartと薬剤師が責任のないことを認めるよう求めたもの。
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