富士フィルム子会社で iPS細胞の開発・製造の世界的なリーディングカンパニーであるFUJIFILM Cellular Dynamics, Inc.は11月12日、GMPグレードのiPS細胞製造において世界的なリーディングカンパニーであるLonza Walkersville, Inc. (Lonza) との間で全世界を対象とする契約を締結した。
FUJIFILM Cellular Dynamicsは、Lonzaに対し、細胞治療用iPS細胞株の開発および治験薬製造を対象に、エピソーマルベクター・初期化因子といったiPS細胞作製技術に関する特許を非独占的に使用できる権利を付与する。
Lonzaは、FUJIFILM Cellular Dynamicsに対し、革新的なNucleofector®テクノロジーを拡大利用するための非独占的な権利を付与する。
Nucleofectorテクノロジーは、初代細胞や遺伝子導入の難しい細胞株を導入対象とした初の高効率非ウイルス性遺伝子導入法。
Nucleofectorは電気パルスにより細胞膜に瞬時に細孔を形成する。細胞質へはもちろん、さらに核膜を通して核内への遺伝子の導入を実現した。これにより、細胞種によっては99%という高導入効率と細胞増殖に依存しない遺伝子導入の実現が可能になった。
本契約により、医薬品開発企業が両社のヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)の製造における専門知識と技術を活用することが可能になる。
FUJIFILM Cellular Dynamics は医薬品候補物質の安全性や有効性を試験するためのiPS細胞を販売している。薬の毒性を調べるときに使うiPS細胞の外販では世界首位で、作製技術の特許を持つ。
しかし、治療用iPS細胞の販売や特許供与は資本関係のある企業に限ってきた。
今回、治療用iPS細胞の外販や特許ライセンスの供与を本格的に始める こととし、まずLonzaに治療用iPS細胞の作製に関する特許を供与する。
Lonzaの他にも「十数社から引き合いが来ている」という。治療用iPS細胞の外販も始める。
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山中教授とSir John Bertrand Gurdon がノーベル医学生理学賞を受けたが、ウィスコンシン大学のJames Thomson 教授も山中教授と同じ2007年11月に人間の受精卵を使わずに皮膚細胞からiPS細胞ができると発表している。Cellular Dynamicsは、そのJames Thomson 教授が創始者の一人である。
Cellular Dynamicsが持つ特許の範囲は、体の様々な細胞からiPS細胞を作製する技術、iPS細胞から心筋や糖尿病治療への応用が期待される膵臓のベータ細胞を作る技術など幅広いが、中でも2013年に成立したプラスミドと呼ばれる環状DNAを使ってiPS細胞を作る技術は、がんになりにくい安全なiPS細胞を得るのに不可欠とされる。
富士フイルムHDは、2015年3月30日、株式公開買付けによりCellular Dynamics を買収することで同社と合意した。
発行済普通株式の総数を約307 百万米ドルで取得し、100%子会社FUJIFILM Cellular Dynamics とした。
FUJIFILM Cellular Dynamics は、iPS細胞技術・ノウハウを生かし、加齢黄斑変性、網膜色素変性、がん免疫などの分野におけるアンメット・メディカル・ニーズにこたえるための強固な細胞治療パイプラインの開発に取り組んでいる。
自社のiPS細胞プラットフォームを利用し、パートナー企業が臨床開発を進めるための開発・製造受託(CDMO)サービスも提供している。
また、細胞治療に加えて、iCell® 製品を含む創薬支援ツールも提供している。
FUJIFILM Cellular Dynamics は2020年3月4日、ウィスコンシン州マディソン市で治療用iPS細胞の新生産施設「Innovation Facility for Advanced Cell Therapy」を稼働させた。
今後、生産したiPS細胞を用いて自社再生医療製品の開発を加速させるとともに、本施設を活用した、iPS細胞およびiPS細胞由来分化細胞の開発・製造受託も展開していく。
同社は、加齢黄斑変性や網膜色素変性、パーキンソン病、心疾患の領域で自社再生医療製品の研究開発を進めている。またがん領域では、米国有力ベンチャーキャピタルのVersant Venturesと設立した新会社Century Therapeuticsにて、他家iPS細胞由来のCAR-T細胞を用いた次世代がん免疫治療薬の開発を行っている。
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