三菱ケミカルHDは2020年9月中間決算で、田辺三菱製薬子会社のニューロダームが開発を進めているパーキンソン病の治療薬の仕掛研究開発費について845億円の減損損失を計上した。
同社は既報の通り、三菱ケミカルの米国子会社 Lucite Internationalのテキサス州BeaumontにおけるMMAモノマー及びMAA生産を終了し、工場を閉鎖することを決議し 、2021年3月期予想に、本工場設備の減損損失や停止関連費用として約230百万米ドルを織り込んでいる。
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田辺三菱製薬は2017年7月23日、イスラエルのNeuroDerm Ltd. の買収で合意し、2017年の10月18日に総額11億ドルでの買収を完了、100%子会社とした。
NeuroDermは、パーキンソン病の治療薬に関して、新たな 製剤研究や、医薬品と医療器具(デバイス)とを組み合わせる優れた技術開発力を有する医薬品企業で、パーキンソン病治療薬のレボドパ/カルビドパ持続皮下注製剤「ND0612」を中心に開発を推進している。
当時は、米国および欧州でフェーズ3に移行し、2019年度に上市が見込まれた。
パーキンソン病の患者数は世界におよそ500万人と言われている。
パーキンソン病は、中脳にある黒質のドパミン神経細胞が変性し、神経伝達物質のひとつであるドパミンが減少することで引き起こされる。
レボドパ(levodopa)は脳内に移行しドパミンへ変化して脳内のドパミン量を増やすが、脳内へ入る前に分解(代謝)されると脳内へ移行できない特徴がある。
このため、 脳内へ入る前のレボドパの代謝を抑える薬カルビドパ(carbidopa)を配合したのが「ND0612」である。
パーキンソン病の治療では、疾患の進行に伴い、代表的な治療薬であるレボドパ の血中濃度を適切にコントロールすることが重要だが、「ND0612」は、NeuroDerm が有する製剤技術により、経口治療薬であるレボドパ および カルビドパの液剤化に世界で初めて成功し、それらを携帯ポンプにより24時間持続的に皮下注射する。
これによりレボドパの血中濃度を一定にコントロールし、進行したパーキンソン病患者において問題となる運動症状の改善が期待される。
田辺三菱製薬は、2019年9月のコーポレートレポート2019で「ND0612」について下記のとおり述べている。
2022年度上市をめざす。デバイスと医薬品を組み合わせた製品であり、他社の参入障壁も高く、市場価値の持続が期待される。ピーク時売上500~800億円を目標とする。
注) 買収当時、この買収を疑問視する記事があった。 NeuroDermの企業価値は0ドルと見ている。
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NeuroDerm では「ND0612」の治験が当初計画から遅れていたが、第3相臨床試験の治験施設の開設および患者組み入れにおいて重要な立ち上げ期間に今般の新型コロナウイルス感染症の拡大が重なるなどしたため、更に約1年半の開発計画の延長を決定した。
このため、欧米での申請は2023年度になる。
本開発計画の遅れと、複数の競合品の開発状況等から収益性が低下する見込みとなり、今回の決定となった。
同剤について広報部は「開発中止などの予定はない」としている。
田辺三菱製薬は三菱ケミカルHDの100%子会社となり、2020年2月27日に上場廃止となった。
2019/11/22 三菱ケミカルホールディングス、田辺三菱製薬に公開買付け
同社は、技術供与先からのクレームで収益の柱であったロイヤリティ収入の激減が続いている。
2019/5/16 注目会社の決算 田辺三菱製薬
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