韓国地裁、朝鮮女子挺身隊訴訟で 三菱重工資産の売却へ手続き 

| コメント(0)

韓国最高裁が三菱重工業に元朝鮮女子勤労挺身隊員らへの賠償を命じた訴訟で、韓国の大田(テジョン)地裁は資産差し押さえの関連書類が同社に届いたとみなす「公示送達」の手続きを取った。

公示送達は、裁判所での掲示をもって訴状などの書類が相手に届いたとみなす手続き。同地裁は10月29日付で三菱重工業が韓国内で保有する特許権6件と商標権2件の差し押さえ命令文をホームページに掲載した。

韓国大法院(最高裁判所)は2018年11月29日、三菱重工業に対し、第2次世界大戦中に同社の軍需工場で労働を強制された韓国人の元徴用工らに対する賠償支払いを命じる判決を下した。大法院は、損害賠償訴訟2件について、三菱重工業の上告を棄却し、2件の訴訟の原告に対し、1人あたり最大で1億5000万ウォン(約1500万円)の支払いを命じた。

韓国の大田地裁は2019年3月25日、同社が保有する韓国内資産の差し押さえを決定した。原告側が裁判所に強制執行を申請していたのは三菱重工業の商標権2件と 三菱重工業が韓国国内に保有中の770件余りの特許権のうち 発電技術特許などの特許権6件で、現金換算で8億400万ウォン(約7200万円) に相当する。三菱重工業は同資産の使用、売買や譲渡ができなくなる。

差押えられた商標

三菱グループのスリーダイヤは差押えの対象外

三菱重工業が資産売却に関する関連書類の受け取りを拒否しているため、大田地裁は9月7日に三菱重工側から意見を聞くための「審問」に関してウェブサイトに「公示送達」を掲載した。11月10日に同社側に内容が伝えられたとみなす効力が発生する。

今回の「公示送達」は12月30日に効力が発生するとしており、地裁は、双方の公示送達の効力が生まれる12月30日以降、現金化に向けた次の判断を下すとみられる。

付記 三菱重工業は、「公示送達」成立を受け、差し止めを求める即時抗告を行なった。

付記 

三菱重工業は、「即時抗告」を退けられ、再び手続きの差し止めを求める「再抗告」をしていたが、韓国最高裁判所は2021年9月10日付けで「再抗告」の一部を退ける決定をして、13日、決定を伝える書類が会社側に発送された。

日本政府はこの問題は日韓請求権協定で解決済みで大法院判決は国際法違反との立場を維持しており、「現金化となれば深刻な状況を招く」と警告している。

ーーー

韓国で資産が差し押さえられているのは三菱重工のほかに、日本製鉄と不二越がある。

(日本製鉄)

韓国大法院は2018年10月、日本製鉄強制徴用の被害者が出した損害賠償訴訟で被害者の勝訴を確定した。日本製鉄(旧新日鉄住金)に対し、戦時中に日本の工場に動員された4人の韓国の元労働者に1人あたり約1000万円の賠償を命じた。

原告側は2019年1月と3月の2回にわたり、日本製鉄とPOSCOのJVのPOSCO-NIPPON STEEL RHF JV の株式9億7300万ウォン(約8700万円)相当を差し押さえた。

POSCOの製鉄所にて発生する乾式ダストの有効活用を目的として、2008年1月に乾式ダストをリサイクルし還元鉄を供給するJV(新日鉄30%、ポスコ70%)を設立。

大邱地方法院浦項支院は2020年6月1日、日本製鉄に資産差し押さえ書類などを公示送達した。

日本製鉄は8月4日、資産差し押さえ命令に対して即時抗告を行ったが、大邱地裁浦項支部は8月13日付で、「理由がない」と判断し、即時抗告を認めない決定を出した。即時抗告の是非の判断は三審制で行われるため最終決定ではなく、今後は二審に相当する大邱地裁で審理される。

2020/6/6 韓国との関係:WTOへの提訴手続き再開と日本製鉄資産差し押さえ問題 



(不二越)

不二越については、当初、日本で訴訟が行われた。

一次訴訟は、1992年に元朝鮮女子勤労挺身隊員らが不二越を相手取り、未払い賃金などを求めて富山地裁に提訴した。一審、二審とも、裁判所は不二越の強制動員、強制労働の事実や賃金未払いについては判決の中で詳細に認定したが、時効を理由に原告側が敗訴した。

上告後の2000年7月11日、最高裁で和解が成立し、不二越は原告3人を含め、米国で訴訟準備中の計8人および「太平洋戦争韓国人犠牲者遺族会」に総額3500万円を支払った。
裁判所が原告らの被害事実を具体的に認定したこと、原告らが米国で別訴を提起する動きを見せていたことなどが、被告会社の和解解決選択の背景にあったと言われている。

しかし、2003年に元挺身隊員ら22人が未払いの賃金などを求めて富山地裁に提訴した二次訴訟では、一審、二審ともタダ働きとなってしまった事実を認定しながら原告敗訴の判決を下し 、最高裁も上告を退けた。裁判所は、日韓請求権協定により裁判で権利は行使できないとした。

これを受け、原告は韓国で不二越を訴えた。

ソウル中央地裁は2014年10月30日、元隊員の韓国人女性13人と死亡した元隊員の遺族18人が不二越に損害賠償の支払いを求めた訴訟で、1人につ8000万ウォン(約830万円)から1億ウォンを賠償するよう同社に命じる原告一部勝訴の判決を下した。賠償総額は15億ウォン。判決は、「賠償は仮執行できる」とし、国内に不二越の財産があれば、原告は判決を根拠に強制執行によって賠償を受けることができるとの判断も下した。

ソウル高裁は2019年1月18日、同社の控訴を棄却し、原告27人に1人当たり、最高で1億ウォン(約1千万円)の支払いを命じた。
ソウル高裁は2019年1月30日、韓国人女性5人が損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、同社の控訴を棄却し、同社に対してそれぞれ1億ウォン(約1千万円)を原告に支払うよう命じた。

韓国の蔚山地裁は2019年3月、原告のうち23人が申請した韓国内資産の差押えを認めた。韓国内の合弁企業「大成・NACHI油圧工業」の株式7万6500株で、約7億6500万ウォン(約6840万円)相当である。
判決は確定していないが、仮執行手続きが可能な状態だった。

大成・NACHI油圧工業は、1988年設立の不二越(NACHI) と韓国・大成産業とのJVで、産業機械用油圧バルブを生産している。



日本政府は、「本件は1965年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している」としており、韓国政府も2009年に裁判所に提出した書面で、「日本に動員された被害者(未払い賃金)供託金は請求権協定を通じ、日本から無償で受け取った3億ドルに含まれているとみるべきで、日本政府に請求権を行使するのは難しい」としていた。

しかし、韓国大法院は2012年5月23日、日韓併合時の日本企業による徴用者の賠償請求を初めて認めた。

この問題の解決のため、韓国国会の文喜相議長が2019年末に解決法案を提出した。

法案は日韓の企業と個人から寄付金を募って基金を設け、裁判所や韓国政府が認めた元徴用工らに慰謝料を支給する内容で、企業や個人に寄付を強要しない方針を明記し、受給者は企業への請求権を放棄したとみなす規定を盛り込んだ。

しかし、法案は原告や市民団体の反対で審議にも至らぬまま、韓国憲法の規定により国会会期末の2020年5月29日で廃案となった。

なお、朝日新聞は10月31日に次のように報道している。

日韓両政府の関係者によると、韓国大統領府は今年に入り、日本との関係改善に向けて、大統領秘書室長を中心に徴用工問題の解決案を検討した。

大法院判決を尊重するとの文大統領の意向を踏まえ、今春に、「企業が賠償に応じれば、後に韓国政府が全額を穴埋めする」との案を非公式に日本政府に打診した。

日本政府側は「企業の支出が補填されても、判決の履行には変わりなく、応じられない」と回答した。

付記

韓国外交部の報道官は11月3日の定例会見でこの報道について聞かれ、「その事案は大法院(最高裁)判決の尊重、被害者の救済、韓日関係の3つの事項を常に軸に置き合理的な解決策を見いだそうと努力をしてきている事案」と明らかにした。「この3つの軸がすべて反映できる合理的な解決策のために努力し続けている」と強調した。

コメントする

月別 アーカイブ