EU、コロナ復興基金と中期予算でようやく合意

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欧州連合(EU)首脳会議は12月10日、新型コロナウイルスで傷んだ経済の再生を目指す復興基金と中期予算の計約1兆8000億ユーロで合意した。

承認を拒否してきたハンガリーとポーランドが妥協に応じた。2050年の脱炭素社会実現に向け気候変動対策も加速する。

付記

ドイツ連邦憲法裁判所は2021年3月26日、EUの7500億ユーロ規模の復興基金を承認する手続きを停止する判断を下した。法案は両院を通過したが、シュタインマイヤー大統領に必要な署名をしないように命じた。

EU懐疑派から反対の申し立てがなされたためで、憲法裁判所が申し立てに対する判断を下すまで承認手続きは凍結される見込み。EUの復興基金が動き出すには、加盟各国の承認が必要になる。

付記

ドイツ憲法裁判所は4月21日、反対派による差し止め請求を退け、復興基金を当面容認する判断を示した。訴えそのものに対する審理は継続される一方、復興基金を承認した国内法案の大統領署名に向け、道が開かれた。

8人の裁判官のうち7人が今回の判断を支持した。最終的な判決を出すまで復興基金を差し止めることは、基金を一時的に容認するよりも潜在的な損害が大きいと指摘した。

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EU首脳会議は2020年7月17~21日、90時間以上にも及ぶ連続協議の末、「歴史的」とも評される復興パッケージに合意した。
欧州理事会では中期予算計画(多年度財政枠組み)の議論で、予算の主要拠出国だった英国のEU離脱を受けて大幅な歳入減となる中、復興パッケージの予算規模などをめぐって加盟国間の対立が先鋭化していた。

基金の総額のうち返済が不要な補助金が3900億ユーロ、残り3600億ユーロが低利融資となる。 

さらに「倹約4カ国」に、EU予算に拠出した分担金を払い戻す「リベート」の金額の積み増しを行なう。この結果、気候変動対策や技術革新などに割り当てられるはずだった分は削られた。

2020/7/23 EU、新型コロナ復興基金案で合意 

返済不要の補助金の額を巡る攻防は下記の通り。 (億ユーロ)

原案 7/18
EU大統領
7/19
4か国
独仏主張 最終
補助金 5,000 4,500 3,500 最低4,000 3,900
融資 2,500 3,000 3,500 3,600
合計 7,500 7,500 7,000 7,500


2021~2027年多年度財政枠組み(MFF) 政策領域と予算上限(億ユーロ) は下記の通り。

別財源の充当や予算配分の見直しを通じて、総額の予算規模を維持しつつ、研究開発、医療、教育関連予算を150億ユーロ増額することや、復興基金の一部財源に充当する新税の導入に向けたロードマップを作成することなどを盛り込んだ。

政策領域 予算上限額
1. 単一市場、イノベーション、デジタル化 1,328
2. 結束、レジリエンス、価値 3,778
3. 自然資源と環境 3,564
4. 移民と国境管理 227
5. 安全保障と防衛 132
6. 周辺国と世界 984
7. EU運営費 731
合計 10,743


しかし、EUの首脳が7月に合意した復興基金案の成立が遅れた。

ハンガリーとポーランドは11月16日、大使級会合でこの基金を組み込んだ次期中期予算(2021~2027年)案の承認手続きへの同意を拒んだ。権力の乱用を防ぐため「法の支配」が順守されているかどうかを資金配分の条件とする仕組みに反発した。予算案には加盟27カ国による全会一致の承認が必要で、2021年1月に予定されている復興基金の運用開始が遅れる恐れが強まった。

ハンガリーやポーランドの政権は近年、国民の反移民・反難民感情やEU内経済格差への不満を背景に、権威主義的な体制を強めている。両国の司法介入がEUの基本価値に違反するとして問題になっている。

EU予算の健全性やEU財政に影響を及ぼしたり、影響を及ぼす重大な恐れがある場合、EU基本条約第7条に基づく制裁手続きについて、加盟国の権利停止につながる重大且つ持続的な基本価値違反があるかの決定には、問題国を除く加盟国による全会一致の同意が必要となる。ハンガリーとポーランドの場合、双方が相手の制裁に反対すれば、決められないままである。

これを
特定多数決(国数で55%以上、人口規模65%以上)の投票に基づき決定することが可能になるように変更しようとしているため、両国は拒否権を発揮した。

この結果、全てが決められないままとなっていた。

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欧州連合(EU)首脳会議は12月10日、新型コロナウイルスで傷んだ経済の再生を目指す復興基金と中期予算を7月の案のままで合意した。 承認を拒否してきたハンガリーとポーランドが妥協に応じた。

主な合意事項

・7600億ユーロの復興基金の創設
・中期予算1兆 743億ユーロの承認
・環境、デジタル分野への重点的予算配分
・東地中海のガス田権益をめぐるトルコ制裁の拡大
・ウクライナ問題を巡るロシア経済制裁の6カ月延長

7500億ユーロを占める復興基金は、欧州でいち早く新型コロナが流行したイタリアや、スペインなど被害が大きかった加盟国を中心に分配する。2021年から運用が始まる。
EUは基金の分配条件として権力の乱用を法で縛る「法の支配」を条件とした。この方針にメディアや司法への介入を進めるハンガリーとポーランドは反発し、予算案の承認を拒否し続けてきた。

今回の合意では、11月に政治合意した上記メカニズムの導入規則案への修正はされないものの、ポーランドとハンガリーに配慮し、同メカニズムの対象や条件を明確にしたガイドラインを作成するほか、両国が同規則案の適法性に関してEU司法裁判所へ付託した場合に、その判断を待った上で運用を開始するとした。ただし、同メカニズムの運用開始後は、2021年1月にさかのぼって適用される。

2050年の脱炭素社会実現に向け気候変動対策も加速する。EUは50年に域内の温暖化ガスの排出を実質ゼロにする目標を持つ。
再生エネルギーの拡大や、自動車のCO2排出規制を急ぐ。復興基金の3割もグリーンボンド(環境債)の発行でまかなう。

トルコがキプロス沖で不当な資源探査を行っている。

2019/7/18 EU、キプロス沖でのガス採掘めぐりトルコに対抗措置

今回、制裁についてEU加盟国の間で見解が割れており、探査に関与した個人への制裁を準備することで一致した。より厳しい制裁については来年3月まで決定を先送りする。

2014年のウクライナ危機に絡む金融、エネルギー、防衛分野の本格的な対ロシア経済制裁については、来年1月末に期限が切れるが、7月末まで半年延長することを決めた。
ウクライナ東部の一部を実効支配する親ロシア派勢力とウクライナ政権が2015年に結んだ和平合意をロシアが完全履行するまで制裁を解かない方針。

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