欧米でGAFAなど大手IT企業への攻撃が相次いでいる。
1)米下院司法委員会:「GAFAは市場支配力を濫用」
米下院司法委員会の反トラスト小委員会は2020年10月6日、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)に対して続けていた各社の商慣習などに関する調査の結果をまとめた報告書を公開した。
GAFAの市場支配の現状を概説し、デジタル経済における競争回復、独禁法の強化、独禁法執行の再活性化について説明している。
https://judiciary.house.gov/uploadedfiles/competition_in_digital_markets.pdf
16カ月にわたったこの調査では、7月に数時間に及ぶ公聴会も開かれ、FacebookのMark Zuckerberg氏、AmazonのJeff Bezos氏、AppleのTim Cook氏、AlphabetのSundar Pichai氏が証人として出席した。
報告書の中で、GAFAと称されるハイテク大手4社の商慣行について、かつての「石油王や鉄道王の時代」に見られた市場の独占行為になぞらえて説明 、4社が各々の「支配力を濫用」しているとして批判している。
「これらの企業は明らかなメリットを社会にもたらしたが、Amazon、Apple、Facebook、Googleの優位性には代償が伴ってきた」
例えばFacebookは、競争上の脅威を探し出してそれらを買収するか、模倣するか、「潰す」などの「反競争的なビジネス慣行」によって、支配力を維持した 。
対策として、プラットフォームと相互運用する事業分野にプラットフォーム自身が参加することを禁じるため、企業の構造的分離を提案する。Amazonのマーケットプレイスや、Googleの広告事業がその対象になる。
また、競合を減らす目的の戦略的買収を禁止するための基準を確立する。
これに対し、各社はコメントした。
Amazon:マーケットプレイスでのAmazonと小売業者の共存が小売業者にとってメリットになっており、この報告書の提案を受け入れれば「中小企業を破壊し、消費者を傷つけることになる」。
Apple:市場で支配的な地位を持っていない。より詳細な反論を提供する予定。
Facebook:どこの業界でも企業買収は一般的に行われており、Facebookにとっては成功のための1つの手段に過ぎない。Facebookの成功はアメリカンサクセスストーリーだ。
Google:提案は「同意できない」。「独禁法の目的は競合を救済することではなく、消費者を守ること」であり、消費者は提案のほとんどを望んでいない。
2)米司法省、Googleを提訴
米司法省は2020年10月20日、Googleが検索や検索広告での独占的な地位を使って競争を阻害したとして、ワシントンの連邦地裁に反トラスト法違反で提訴した。
提訴の原告には司法省のほか、11の州(Arkansas, Florida, Georgia, Indiana, Kentucky, Louisiana, Mississippi, Missouri, Montana, South Carolina, Texas)加わった。
司法副長官は「競争を促さなければ次世代の技術革新の波に乗り遅れ、Googleに続く次の企業を米国が生むことはできなくなる」と強調した。
司法省は、米国のインターネット検索市場で90%のシェアを占めるGoogleが、インターネット検索・広告市場での独占を維持・拡大するために、反競争的な手段を用いてきた、と指摘した。
具体的には、主に次の4つの行為を問題視している。
- モバイル機器などに自社以外の検索サービスをプリインストールすることを禁止する排他的な契約
- 消費者の選好にかかわらず、自社の検索アプリのプリインストールを強制し、アプリを削除できなくする契約
- 検索ブラウザの標準検索エンジンとして「Google」を設定するように定めたアップルとの長期契約
- 検索エンジンや検索ブラウザでの優遇措置を買い上げ、継続的な独占を実現する行為
Googleの基本ソフト「アンドロイド」を搭載するスマートフォンに、自社の検索アプリを標準設定させる取り決めをし、競争企業を排除した 。
こうした設定を可能にするため、オンライン広告で集めた巨額の資金を使い、スマホメーカーへの支払いに充てたことも問題視した。
これらの反競争的な行為は、新しい革新的な企業が成長しグーグルと競争することを妨げているとした。また、弊害として、検索市場での競争抑制の結果、消費者のプライバシーやデータ保護などの面で検索サービスの質が低下した点や、広告市場での競争抑制がグーグルの広告主に対する過度な価格決定力につながっている点などを挙げた。
その上で、これらの弊害を是正するために必要な構造的な救済措置をとることや、Googleに反競争的行為を禁じることなどを求めた。
企業分割など具体的な措置には言及していないが、司法省高官の1人は、全ての選択肢を排除しない姿勢を示している。
Googleは提訴を受け、「人々がGoogleを使うのは自らそう選んだ結果であって、強いられたからでもなく、ほかに選択肢がないからでもない。今日の提訴は大きな欠陥がある」と反論した。
3)FTC、Facebookを独禁法違反で提訴
米連邦取引委員会(FTC)と全米のほぼ全ての州が12月9日、反トラスト法違反の疑いでFacebookを提訴した。FTCと、全米46州およびワシントンDC、米領グアムの連合が別々に訴訟を起こした。
2012年のInstagram買収と2014年のWhatsApp買収は、自社によるSNS独占への脅威を排除するための戦略の一環だったとし、両事業の売却を求めた。
Facebookは2012年4月、写真共有アプリ「インスタグラム」の開発会社を約10億ドルで買収することを決めた。
インスタグラムは2010年10月にアプリの提供を始めたばかりで社員はわずか13人、売上高もまだ、ほぼゼロの状態であった。Facebookは2014年2月、携帯端末を利用したメッセンジャーサービスで急成長しているWhatsAppを総額190億ドルで買収すると発表した。
買収によりテキストメッセージとSNSの組み合わせが可能となり、スマートフォン利用者は携帯通信事業者のサービスを利用することなくさまざまなメッセージや写真・動画をやりとりすることができる
ただ、買収額は大きすぎるとの見方があった。
ニューヨーク州の司法長官は「過去約10年間、Facebookはその支配力と独占力を利用して小さなライバル企業を潰し、競争をもみ消し、全てのユーザーを犠牲にしてきた」と述べた。
これに対しFacebook は、反トラスト法は「成功している企業」を罰するためにあるわけではないと反論し、InstagramとWhatsAppはFacebookが成長のために多額の投資を行った後、事業として成功したと述べた。
どちらの案件も何年も前にFTCの承認を得ているため、法廷闘争が長期化する可能性が高い。専門家は、「6年あるいは8年前の買収を問題にし、買収した事業の売却を裁判所が命じるのは難しいだろう」とし ている。
但し、押収された資料のうち、FacebookのZuckerberg CEO の「競うよりも買収する方が得策」と述べているメールが不利に働く可能性も指摘されている。
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FTCは2019年7月24日、Facebookが50億ドルの制裁金を支払うことに同意したと発表した。
同社ユーザーの個人情報流出問題と数年前に起きたデータ漏えいに関して同社が膨大な数のユーザーに通知を怠ったことについてのもの。
4) EU、大手IT企業に新たな規制案
EUの執行機関、ヨーロッパ委員会は12月15日、大手IT企業を対象に公正な競争を促すデジタル分野での2つの新たな規制案を発表した。
「デジタル市場法案」の対象は、マーケットプレイス、サーチエンジン、SNS、ビデオ共有、インスタントメッセンジャー、OS、クラウド、広告などの「コア・プラットフォーム・サービス」をEU域内で提供する事業者のうち、以下の基準を全て満たし、欧州委により指定を受けた事業者。
a. 欧州経済領域(EEA)での過去3年間の年間売上高が65億ユーロ以上、あるいは前年の株式時価総額が650億ユーロ以上、かつ3つ以上の加盟国でサービスを提供する。
b. コア・プラットフォーム・サービスのEU域内の月間平均利用者が4,500万人以上かつ年間のビジネスユーザーが1万社以上。
c. b.の基準を過去3年間満たすこと。
EU競争法を補完するかたちで、EU企業のデジタル分野での競争力強化を目指す。
指定された事業者には、自社が提供するサービスやそのデータの取り扱いなどに関して、以下を含む幅広い禁止義務が課される。
- コア・プラットフォーム・サービスのビジネスユーザーから得たデータを、ビジネスユーザーとの競争において利用すること
- ランキングサービスにおける自社が提供する商品やサービスの優遇措置を設けること
- 利用者に選択肢を提供し、かつ同意を得た場合を除き、ゲートキーパーが提供するサービスを通じて収集した個人データを別のサービスの個人データと統合すること
また、以下を含む行為を利用者に対し、許可することが求められる。
- コア・プラットフォーム・サービス上にプレインストールされているアプリなどの削除や他社製のアプリなどのインストールとその利用
- ビジネスユーザーや利用者がプラットフォーム上で生み出したデータを当該ビジネスユーザーへ提供すること
- プラットフォーム外でのビジネスユーザーと利用者間での契約締結
このほか、他のデジタル企業を買収する場合、既存の競争法の規定にかかわらず、欧州委に事前通知をする必要がある。
欧州委はその調査において、組織的な違反があり、さらにその優位な地位を強化したと認められる場合には、一定の行為の実施を求める問題解消措置だけでなく、場合によっては事業や資産の売却を含む措置を課すことができる。
さらに、義務の不履行の場合には、前年度総売上高の10%を上限に制裁金を科すことができる。
「デジタルサービス法案」は、EU域内で仲介サービスを提供する全事業者が規制対象だが、規制が特に強化されるのはEUの全人口の10%に相当する月間平均4,500万人以上の利用者を有する「非常に大規模なオンライン・プラットフォーム」事業者である。
こうした事業者には、違法なコンテンツの流通、選挙や公衆衛生などに関する意図的な操作などに対するリスク評価を実施し、それに応じたコンテンツの修正や広告表示の制限など、合理的な範囲での効果的なリスク緩和措置を講じることが求められる。
また、ターゲティング広告など、利用者の検索結果などに応じて特定の情報を提案する手法を用いる場合には、利用するデータ要素を利用者に開示し、利用されないようにする選択肢を含め、利用されるデータ要素を利用者がいつでも修正できる機能の設置が必要となる。
さらに、広告全般においても、広告である旨や、広告主、表示期間、利用するデータ要素を開示することが求められる。
義務不履行の場合には前年度総売上高の6%を上限に制裁金を科すことができる。
規制の成立には加盟国とヨーロッパ議会の承認が必要となるほか、今後、アメリカ側が反発することも予想される。
5)フランス、GoogleとAmazonに罰金
フランスのデータ保護機関、情報処理・自由全国委員会(CNIL)は12月10日、サイト利用者の同意を得ないまま閲覧履歴を取得していたなどとして、Googleに1億ユーロ (Googleが6000万ユーロ、Google Irelandが4000万ユーロ)、Amazonに3500万ユーロの罰金を科すと発表した。2社は不服を表明している。
両社は利用者の興味に応じた広告を表示するなどの目的のため、同意を得ずに、閲覧履歴などの情報をためる「Cookie」を集めていた。2社は9月に自動的な収集をやめたが、今も説明が足りない状態が続いていると指摘し、3カ月以内の改善を求めた。
Googleは仏検索エンジンのシェア9割超、Amazonは仏オンライン販売のシェア2割を握る。
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