機関投資家大手18機関は10月21日、三菱商事と韓国電力公社(KEPCO)主導のベトナムのVung Ang 2 石炭火力発電事業に投融資等で関与している日本と韓国の企業・金融機関に対し、気候変動を悪化させるとして同事業から撤退するよう求める共同書簡を送付した。
「石炭火力発電Vung Ang 2 の建設計画に関わるのは、気候変動に伴う企業の財務、評判への影響にとって、リスクだ。計画撤退を要請する」としている。
共同書簡の宛先は公開されていないが、事業主体の三菱商事、中国電力、KEPCO、付保を検討中の日本貿易保険、融資を検討中の国際協力銀行、三菱UFJフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友信託銀行、韓国輸出入銀行、EPCで関与する斗山重工業、Samsung C&Tとされる。
共同書簡を送付したのは、北欧最大の機関投資家 フィンランドのNordea Asset Managementを中心に、スウェーデンの公的年金AP7、英地方政府年金基金 Brunel Pension Partnership、英財団資産運用 CCLA、スウェーデンのFolksam等18機関。そのうち5社は、企業名の公表を控えた。
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問題となっているのはベトナムのVung Ang 2 石炭火力発電事業で、概要は以下の通り。
計画:1,200MW(600MW×2基)の石炭火力発電(超々臨界圧)
立地:ハティン省ブンアン経済区内(既設のブンアン1石炭火力発電所の隣接地)
事業者:Vung Ang 2 Thermal Power Company
出資者:OneEnergy Ltd.(三菱商事 40% / 中国電力 20% / KEPCO 40%)が100%
総事業費:約22億米ドル
融資者:国際協力銀行と民間金融機関
設計・調達・建設(EPC)契約者:(当初)Energy China GPEC(中国)、GE(米)
予定:2020年建設開始、2024年稼働開始両社が撤退し、韓国勢が引き受けるとする報道がある。
石炭火力が問題となるにつれ、事業参加者が次々撤退した。現状では出資、融資とも日本と韓国企業のみ。
なお、建設に日本企業は参加していない。
韓国電力公社(KEPCO)は2020年10月5日、香港のCLPが抜けた後の出資を最終決定した。政府系シンクタンク韓国開発研究院による予備妥当性評価で赤字プロジェクトになることが報告され、韓国環境相からも出資すべきではないとの意見が出ていたが、韓国政府とKEPCOは最終的に出資を決めた。
出資:
当初 2011/9 2012 2018/4 OneEnergy 出資者
当初 2019/12 2020/10 OneEnergy 30% 30% 48.45% 100% 三菱商事 40%
中国電力 20%
香港CLP 40%
CLP撤退三菱商事 40%
中国電力 20%
KEPCO 40%現地 LILAMA 25% 撤退 ー ー Ree 冷蔵電気工業 23% 48% 51.55% ー その他 22% 22% ー ー
融資:
2019/11 OCBC銀行が脱石炭方針により撤退
2019/12 スタンダードチャータード銀行は、パリ協定の目標達成に整合させるためとして、融資を撤回
2020/1 DBS銀行が撤退。
三菱商事は2018年10月に「ESGデータブック」の改訂版を発表し、新規の石炭火力発電の開発を行わない方針を発表しているが、すでに開発に着手した案件(本件を含む)は例外としている。
付記
国際協力銀行(JBIC)は、12月28日、三菱商事株式会社等が出資するVung Ang II Thermal Power Limited Liability Companyとの間で、ブンアン2石炭火力発電事業を対象として、融資金額約636百万米ドル(JBIC分)を限度とするプロジェクトファイナンスによる貸付契約を締結した。
本融資は、「成長投資ファシリティ」を活用し、民間金融機関及び韓国輸出入銀行との協調融資により実施するもので、協調融資総額は約1,767百万米ドル。
小泉進次郎環境相は2020年1月21日、三菱商事が主導するベトナムでの石炭火力発電所の建設計画について再検討を訴えた。
計画について「理解が得られるものではなく、つくるのはおかしい」と異例の反対意見を表明した。日本以外の国の企業が建設を担当し、政府の輸出要件に反することを理由に挙げた。
「日本がお金を出しているのに、結果的にプラントを作るのは中国やアメリカの企業だ。こういう実態はおかしい」と述べた。
2020/2/6 小泉環境相、ベトナムへの石炭火力建設計画に反対
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