WTO、韓国のステンレス鋼関税で日本勝訴認める、韓国は上訴へ 

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世界貿易機関(WTO)は11月30日、日本製のステンレス鋼に対する韓国のアンチダンピング関税が不公正だとして日本が提訴している問題について、日本の勝訴を認める報告書を公表した。
韓国に対し、速やかに措置を撤回するよう勧告した。

第一審にあたる紛争処理小委員会(パネル)が報告書をまとめた。
韓国が不服とする場合、60日以内に最終審にあたる上級委員会に上訴できる。

経産省は「韓国がパネル報告書の判断や勧告に従って、課税措置を速やかに撤廃することを期待する」としている。

韓国政府が日本とのWTOでの貿易紛争で一部敗訴したのは今回が初めて。韓国政府はWTOが韓国側に下した「一部敗訴」(韓国側の理解)の判断を受け、一部の争点で下した判断に「法理的誤りがある」とし、上訴する意向を明らかにした。

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韓国は、2003年7月に日本、インド、スペイン製のステンレス棒鋼に対するアンチ・ダンピング課税調査を開始し、2004年7月30日にダンピングによって韓国の国内産業が実質的な損害を受けている旨の最終決定を行い、同日から 日本製について 15.39%のアンチ・ダンピング課税を開始した。

その後、2回の課税延長を経て、3回目のサンセット・レビュー(2016年6月から2017年6月)に基づいて2017年6月、さらに3年間の課税延長を決定した。
日本製とインド製、スペイン製のステンレス棒鋼7に対して2004年以来約16年間反ダンピング関税を課している。

更に、4回目のサンセット・レビューを2020年1月 に開始、11月13日に3か国製のステンレス鋼に対する反ダンピング関税適用を3年間延長することを決定した。

2017年6月までの課税総額は約56.6億円に上り、3回目のサンセット・レビューに基づく3年間の延長により2019年末までで12.5億円が課税されたと推計される。
日本から韓国へのステンレス棒鋼の輸出量は、本件課税措置発動前(2002年)と比較して約6割減少(2002年:9269トン→2019年:3791トン)した。

日本政府は、これら調査の過程で累次にわたり適正な調査を要請し、懸念を表明してきたが、措置の撤廃には至らず、2017年6月に 3回目の延長(3年間)の決定がなされた。

この延長決定は、韓国の調査当局の認定や調査手続に瑕疵があり、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)及びアンチ・ダンピング協定(1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定)に違反する可能性があるとし、2018年6月18日にWTO協定に基づく日韓二国間協議を要請し、同年9月13日にWTOに対し、紛争処理小委員会(パネル)設置要請を行い、同年10月29日にパネルが設置された。

日本政府の主張:

特殊鋼中心の日本製は日本は高品質・高仕様で、韓国製と根本的な差があり、競合しない。

反ダンピング措置による被害を証明での韓国による「累積評価」(複数の輸出国を合計して被害規模を算定 )は問題である。

韓国は国産、日本製、インド製のステンレス鋼は同じ商品だとし、被害規模を累積評価で合計して算出した。しかし、日本製とインド製 ・スペイン製のステンレス鋼は別の製品なので、累積評価ではなく、被害規模を輸出国別に算定する「非累積評価」を行う必要がある。

今回の決定で、WTOは日本製ステンレス鋼の「非累積評価」による価格が韓国製よりも高い点などを問題視した。

2019年9月及び12月にパネル会合(口頭弁論)が開催され、この度、WTOはパネル報告書を公表した。

報告書は、韓国による本アンチ・ダンピング課税延長措置は、損害再発の可能性があるとする認定や手続の透明性に問題があり、 韓国が反ダンピング関税を正当化する十分な根拠を提示できなかったとして、アンチ・ダンピング協定に整合しないと判断、韓国に対し措置の是正を勧告した。

(1)本アンチ・ダンピング課税延長措置は、
 ①日本産輸入品が韓国産品より相当程度高価であることや
 ②中国等からの低価格輸入が大量に存在していることが適切に考慮されていないため、
 日本産輸入品に対するアンチ・ダンピング課税の撤廃により、韓国国内産業への損害が再発する可能性があるとする認定に瑕疵があり、アンチ・ダンピング協定第11.3条に整合しない。

(2)本アンチ・ダンピング課税延長措置は、日本生産者の生産能力を認定する際、日本生産者の提出情報を合理的理由なく拒否した点で、アンチ・ダンピング協定第6.8条に整合しない。

(3)本アンチ・ダンピング課税延長措置は、秘密情報の取扱いに不備があり、アンチ・ダンピング協定第6.5条に整合しない。

韓国政府は11月13日、日本、インド、スペイン 製のステンレス鋼に対する反ダンピング関税適用を3年間延長することを決定している。

韓国政府は今回の決定について最終審にあたる上級委員会に上訴 する意向を示したが、WTO紛争調停委員会は米政府による上訴委員任命ボイコットで機能が中断されており(上訴されて上級委員会に係属した事案は上級委員会の機能が回復するまでの間、手続が進行しない)、当面、既存の反ダンピング措置は維持される。

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今回の報告書についての韓国側の認識は以下の通りで、「一部敗訴」としている。

日本側の提訴事項 WTO判断
日本製ステンレス鋼と韓国製ステンレス鋼には根本的な製品差が存在する 韓国側主張認める
日本製ステンレス鋼以外の要因による被害を日本製品に転嫁した
日本製のダンピング製品と韓国国内の同種製品の価格差を考慮しなかった 日本側主張認める
日本の生産者の生産能力に関する算出方法が適切だったか
日本の生産能力を無視し、世界ステンレス鋼フォーラムの統計資料を使用したことが適切だったか

反ダンピング関税の維持に最も重要なのは競争関係の有無だが、両国の製品の細部の製品群は異なり、競争関係は成立しないとする日本側の主張が認められなかったため今後も日本製ステンレス鋼に対する反ダンピング措置を維持する上で問題はないとする。

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