建設現場でアスベストを吸い込み健康被害を受けたとして、京都府内の元建設作業員や遺族ら27人が国と建材メーカーに総額約10億円の賠償を求めた集団訴訟の上告審で、 最高裁第1小法廷は1月28日付で、原告24人に対する国とメーカーの上告を退ける決定を出した。
京都府内の元建設労働者と遺族計27人が国と建材メーカー14社に計約9億6千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、大阪高裁は2018年8月31日、1審京都地裁判決(2016年1月)に続いて国とメーカーの責任を認め、国に1億8800万円、メーカー10社におよそ1億1300万円の支払いを命じた。
被告のメーカー14社のうち、建材ごとのシェアが20~25%以上の10社に支払を命じた。
1審では認められなかった「一人親方」と呼ばれる個人事業主に対する国の責任も認めた。
2018/9/5 建設石綿訴訟の控訴審、原告全面勝訴
元作業員側と国、メーカーが上告したが、最高裁判所第1小法廷は原告27人のうち24人に対する国とメーカーの上告を退ける決定をし、2審の判断が確定した。 裁判官5人全員一致の意見。
一定以上のシェアがあった建材メーカーに賠償責任があるとする判断が最高裁で初めて確定した。国の賠償責任を認める判断が確定するのは2020年12月(東京地裁分)に次ぎ2件目 。
原告のうち、屋外で作業していた1人の遺族の原告3人については国・メーカー2社の上告を受理し、3月22日に弁論を指定した。これについては結論が覆る可能性がある。
2020年12月の最高裁判決では、(屋内での)建築作業現場で働いていた大工等に国の責任を認めた。
建材メーカーの責任については、大工、電気工など20の職種につき、12社の責任に関して弁論を開くとしており、メーカーの責任がないとした高裁判決が見直される可能性がある。
第一小法廷は今後、東京や大阪、神奈川など計4件の訴訟について一括して判決を出す見通しで、国の責任とあわせ、どういった場合にメーカーに賠償を命じることができるか、統一判断を示すとみられる。
全国で起こされている「建設アスベスト訴訟」で高裁判決は下記の通り。
(〇は有罪、Xは無罪、一人親方の〇は補償対象、Xは補償対象外)
国 | メーカーの責任 | 一人親方への責任 | ||||||
最高裁第一小法廷 | 横浜地裁 | 東京高裁 | 2017/10 | 〇 | 〇 | X | 労働関係法令が保護対象とする「労働者」には当たらず、国は賠償責任を負わない。 | |
東京地裁 | 東京高裁 | 2018/3 | 〇 | X | 「健康被害との因果関係が立証されていない」 | 〇 | 建設現場で労働者とともに作業に従事 | |
最高裁 | 2020/12 | ◎ | 2021/2/25に弁論 | ◎ | ||||
京都地裁 | 大阪高裁 | 2018/8 | 〇 | 〇 | 〇 | 労働安全衛生法には「労働現場で生じる健康障害について労働者以外の保護を念頭に置いた規定がある」 | ||
最高裁 | 2021/1 | ◎ | ◎ | ◎ | ||||
屋外作業1名:3/22に弁論 | ||||||||
大阪地裁 | 大阪高裁 | 2018/9 | 〇 | 〇 | 〇 | 労働安全衛生法上の保護対象ではないが、国の違法行為があれば保護されるべき | ||
福岡地裁 | 福岡高裁 | 2019/11 | 〇 | 〇 | 〇 | 契約形式に違いがあるだけ | ||
横浜地裁 | 東京高裁 | 2020/8 | 〇 | 〇 | 〇 | 他の労働者と同等であり、国は一人親方にも安全を守る法的義務がある。 |
詳細は 2018/9/5 建設石綿訴訟の控訴審、原告全面勝訴
付記
大阪府や兵庫県などの元労働者と遺族が国と建材メーカー22社に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(深山卓也裁判長)は2月22日付で国とメーカー、原告の上告を退ける決定をした。
二審大阪高裁判決のうち、31人について国と7社に約3億2800万円の支払いを命じた部分が確定した。
屋外作業に従事して亡くなった男性の遺族5人に対する積水化学工業の賠償責任を認めた部分について、同社の上告を受理し、4月19日に上告審弁論を開くと決めた。結論を見直す可能性がある。
コメントする