昭和電工の2020年12月決算

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昭和電工は日立化成株式に対する公開買付けを行ない、2020年4月28日に87.61%を取得、同社を連結子会社とし、6月23日に完全子会社化した。2020年10月1日付で「昭和電工マテリアルズ」に商号変更した。決算では、2020年6月末を「みなし取得日」として計算している。

2019/12/25 昭和電工、日立化成にTOB 

2020年12月決算では、日立化成の買収で売上高は増加したが、黒鉛電極の無機部門の営業損益が前年比で1,216億円の減益となり、株主帰属損益は前年比1,494億円悪化の763億円の赤字となった。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 特別損益 株主帰属
損益

配当

中間 期末
17/12 7,804 777 639 -133 374 0 5.0
18/12 9,921 1,800 1,788 -333 1,115 2.0 10.0
19/12 9,065 1,208 1,193 -214 731 5.0 8.0
20/12 9,737 -194 -440 -243 -763 0 6.5
増減 672 -1,402 -1,633 -29 -1,494

-6.5

21/12予 12,800 450 350 -140 0 6.5
                             株式併合のため、実際の配当は10倍


昭和電工マテリアルズの売上高は2020年(半年)が3,027億円、2021年予想は6,100億円。

営業損益

17/12 18/12 19/12 20/12 増減 増減理由 20/12予
石油化学 334 203 172 49 -123

受払差、タイムラグ -45

115
化学品 165 174 137 135 -2 155
エレクトロニクス 219 124 49 91 43 125
無機 71 1,324 893 -323 -1,216 黒鉛電極低価法 -172 30
SDKマテリアルズ -63 -63

ノレン等償却 -280

100
アルミニウム 67 49 17 4 -13 35
その他 6 29 18 12 -6

新型コロナウイルス関連合計として全社で -186

10
全社 -84 -104 -78 -100 -22 -120
合計 778 1,800 1,208 -194 -1,402   450


なお、昭和電工マテリアルズの営業損益は-63億円だが、のれん償却と棚卸資産調整を除くと、実質ベースでは218億円程度の益である。

無機部門の中心は黒鉛電極である。

この部門は従来赤字を続けていたが、2017年度に若干の黒字となり、2018~2019年度は一転大幅黒字となった。

昭和電工は2016年10月に、ドイツのSGL Carnbon GmbH より黒鉛電極製造の子会社 SGL GE Holding GmbHを買収すると発表した。 ドイツ、オーストリア、スペイン、アメリカ(2ヵ所)、マレーシアの6カ所に製造拠点を持つ。米司法省の指示で米国工場を東海カーボンに129億円で売却した。
昭和電工は再編後に生産体制見直しや管理部門の機能集約などで60億円以上のコスト削減が可能と試算し、2019年での事業黒字化を目指した。

直後に状況が一転した。中国で地条鋼という違法鉄鋼が禁止となり、安価で出回っていた鉄鋼が不足し、代替として鉄スクラップから鉄鋼を生産する電炉での生産が急増、黒鉛電極の需要が急増、価格が急騰した。

これが2018年12月期に売上高、営業利益が急増した理由である。

しかし、中国では環境規制に対応した大手企業が黒鉛電極を増産、原料のニードルコークスの需給も2019年から緩和し、価格は下落した。

昭和電工でも2019年下半期より顧客である電炉鋼メーカーにおける黒鉛電極の在庫調整が継続し、特に景気減速が目立つ欧州市場においては稼働率の低下が生じた。

同社は2020年2月5日、電気炉製鋼用の黒鉛電極の世界生産能力を削減すると発表した。

2020/2/15 昭和電工、黒鉛電極の生産能力を削減

今回、黒鉛電極の低価法による簿価切り下げで172億円の営業損失を計上、他に特別損失として、黒鉛電極のドイツの生産拠点の閉鎖で51億円の損失を計上した。

電炉鋼メーカーにおける黒鉛電極の在庫調整が長引き、特に景気減速が目立つ欧州市場においては稼働率の低下が生じており、ドイツ・マイティンゲンにある生産拠点の閉鎖について労使協議で合意に達した。全体の生産能力は、年産4万t 減の21万tになる。

昭和電工がSGL GE を買収した2016年10月時点では合理化による黒字化を目指しており、その後の好況は「想定外のバブル」である。現状が本来の姿である。
同社もそれを自覚しており、バブル利益を利用して日立化成を買収し、今後の体制を整えた。

ーーー

昭和電工マテリアルズ(旧称 日立化成)の統合関連費用として389億円を計上した。

営業費用として弁護士費用や統合プロセス関連費用で82億円、営業外費用として資金調達、登録免許税等で212億円、非支配株主への優先株配当で88億円等である。

昭和電工は買収資金9700億円を次により手当てした。

昭電 みずほ銀行からの融資 2,950億円
HCホールディング みずほ銀行、日本政策投資銀行にA種優先株を発行 2,750億円
みずほ銀行からノンリコースローン 4,000億円
合計 9,700億円

この優先株に対し、88億円の配当をおこなったもの。
但し、これは少数株主持分の利益のなかから控除されるため、株主帰属損益には影響しない。

日立化成買収によるのれん代(買収額と買収先の純資産の差額)の償却が長期的な負担となる。

(億円) 総額 償却期間

償却額

2020年 2021年
無形
固定資産 
顧客関連 1,549 20年 39 77
技術関連 571 7年 41 82
その他 39 20年 1 2
合計 2,159 81 161
のれん 3,651 20年 91 183
小計(営業費用) 5,810 172 344
投資有価証券(営業外) 449 20年 11 22
合計 6,259 183 366


本年度には半年分として営業内で172億円、営業外で11億円、計183億円を計上した。2021年予想には366億円が含まれる。

このほか、棚卸資産については時価評価で受け入れ、通常は数年間で償却する。 

昭電は2020年度に棚卸資産ステップアップ調整として109億円を計上した。2021年予想では、「ステップアップ調整は一過性のため解消」としており、2020年度で一括償却したとみられる。

のれん等の償却の年間366億円のうち、82億円でも7年、残り284億円は20年負担が続く。

日立化成の当初の簿価に対し、6千億円も上乗せして買収したためであり、シナジー効果でよほど増益を図らないと苦しいことになる。

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