年初から大手合成ゴムメーカーのJSRが創業事業であるエラストマー事業の売却を含めた構造改革を検討していると報じられている。
韓国紙は韓国のLotte Chemicalが買収に向け動いていると報じ、ゼオンの名も挙がったがとされるなか、2月16日付の化学工業日報は、石油元売り最大手のENEOSホールディングスが買収を検討していることがわかったと報じた。
付記
JSRは4月26日、エラストマー事業全体の公正価値評価を実施して減損損失を認識、2021年3月期に772億円を 減損損失として計上したと発表した。
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JSRは旧称日本合成ゴムで、日本における合成ゴム事業育成のために1957年12月に「合成ゴム製造事業特別措置法」により設立された。合成ゴム事業は完全に創業の事業である。
わが国の石油化学工業育成政策は,設備投資調整,企業に対する各種助成,事業環境の整備の3つであった。
これらの政策は,石油化学工業を育成するため民間企業の行動に介入するという間接的なものであったが,唯一の例外が日本合成ゴムの設立であった。合成ゴムが基礎的な素材で,わが国は天然ゴムを含めて全量輸入に依存していたことに加えて,先行するアメリカ企業などとの競争を考慮すると国際競争力を有する大型設備を建設することが必要とみられたが,最小最適規模の年産5万トン設備を建設すると相当期間赤字が予想されるなど,民間企業単独での企業化は困難と考えられたからである。
このため,1957年6月1日に合成ゴム製造事業特別措置法が制定され,12月10日に日本合成ゴムが誕生した。
また1958年4月1日には同法の改正法である「日本合成ゴム株式会社に関する臨時措置に関する法律」が公布され6月1日から施行された。これに伴い日本合成ゴムに対する日本開発銀行の出資分40%は,政府出資に切り替えられ,日本合成ゴムは国策会社として汎用合成ゴムを三菱油化の四日市コンビナート内で企業化することになった。1960年に四日市工場が稼働、ブタジエン、SBR、SBラテックスの生産販売を開始した。
実際には民間の日本ゼオンがGoodrich技術により1959年に川崎工場で日本初のSBRの生産を開始している。
設立12年後の1969年4月に「日本合成ゴム株式会社に関する臨時措置に関する法律を廃止する法律」が第61国会で可決成立、即日公布施行、純民間会社となった。
1979年に フォトレジスト、1988年に液晶ディスプレイ材料を発売するなど、多角化を進めたが、創立40周年を期に1997年、現在の社名であるJSR㈱ に変更した。
社名から「合成ゴム」を外し、化学技術をベースにしたエクセレントカンパニーでありたいという意志を表現したとした。
現在の事業は下記の通りで、合成ゴム(エラストマー事業)の比率は小さい。(予想は2020/10時点)
2020年3月期に赤字に転落、2021年3月期には大赤字となる。(第3四半期までのコア営業損益は127億円の赤字)
同社の合成ゴムの能力シェア
SBRは四日市、BRは千葉、IR、EPDMは鹿島で製造
海外事業
社名 製品 JV相手 韓国 Kumho Polychem EPDM Kumho 50% タイ JSR BST Elastomer S-SBR Bangkok Synthetics 49% ハンガリー JSR MOL Synthetic Rubber S-SBR Hungarian Oil and Gas 49%
同社としては、合成ゴム事業は創業事業ではあるが、将来性を勘案し、デジタルソリュージョン事業等に経営資源を投入しようとしているものとみられる。
日本ゼオンもは古河グループが塩ビ事業のために設立した会社であるが、現在、塩ビ事業から完全に撤退している。
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韓国中央日報によると、Lotte Chemical は1月下旬にJSRのエラストマー事業部買収のための実態調査作業を終了し、野村証券を主管社に選定して買収を推進しているという。
但し、完成車メーカーなど既存客の品質認証手続きなどが難しく、赤字が続いている。新規企業の進入が容易ではないという。
JSRの事業買収でタイヤ会社が求める製品基準をクリアできることを期待している。同社は原料のブタジエンやスチレンモノマーも持っており、シナジー効果は大きい。
但し、1000億円規模ともされる金額などの条件面で折り合いが付くか、未知数である。
なお、日本ゼオンも一時検討した末に買収を見送ったとされる。同社の場合、独禁法でも問題になると思われる。
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