神戸大学とクラウドファンディングサービス会社READYFORは1月20日、「涙で乳がんを検出する!研究を加速させる一歩にご支援を。」を発表した。臨床研究に必要な装置やチップの制作にかかる費用の一部をまかなうため、4月中旬までにクラウドファンディングで1000万円の寄付を募っている。 2月20日現在で70%を超えた。
乳癌は女性の癌で最も罹患者数が多いが、早期発見できれば90%が治るといわれている。しかし年々死亡者数は増加しており、40代~50代女性のがん死亡原因の第1位になっている。
乳癌の検診は、主に「マンモグラフィ」という乳房専用のレントゲン検査を行うが、圧迫板で乳房をはさみ薄く伸ばして撮影するため、痛みを伴うことも少なくない。
また、日本人に多い高濃度乳房がマンモグラフィの読影を困難にしており、正確な診断が下せないという問題もある。
このようなことから「がん検診・健診・人間ドック」からの乳癌の発見率は、24.7%に留まってい る。
神戸大学大学院工学研究科 竹内俊文教授、医学部附属病院 谷野裕⼀特命教授、佐々木良平教授、システム・インスツルメンツ(株) 濱田和幸氏らの研究グループは2020年5月、涙液中の細胞外小胞エクソソームをバイオマーカーとした新しい乳がん検出技術: TearExo®の開発を行な ったと発表した。今後、がんの早期発見など国民の健康に大きく貢献することが期待される。
エクソソーム(Exosome)は細胞から分泌される直径50-150 nmの顆粒状の物質で、表面は細胞膜由来の脂質、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含んでいる。体液に乗って移動し、細胞と細胞の間の情報を伝達する機能がある。
細胞外小胞(Extracellular vesicle)の一種で、他にマイクロベシクル、アポトーシス小体があり、それぞれ産生機構や大きさが異なる。
竹内教授はあらゆる細胞から放出される「エクソソーム」に着目し、乳がんの細胞から放出される特異なエクソソームを測定する高感度のチップを開発した。
世界初の化学ナノ加工技術を用いることで、検出試薬なしの高い操作性と極めて高い測定感度を実現し、微量な体液から細胞外小胞エクソソームを超高感度で検出可能とした。
ガラスチップ上に形成した100 nm程度の空孔内に、細胞外小胞エクソソーム表面のタンパク質を認識する抗体と、その結合を蛍光変化で読み出すことのできる蛍光レポーター分子を配置した蛍光エクソソームセンシングチップと、すべての分析作業を自動化したエクソソーム自動分析計により成り立つ。
前処理なしに、10分以内で、100 μL中に約50 個程度のエクソソームが検出できる超高感度(従来の免疫測定法の1000倍)での高速測定を達成した。
TearExo®を用いて、乳がん患者と健常人の涙液中のエクソソームを測定したところ、その組成は明らかに異なり、涙液で乳がんの検出が可能であることが示された。
また、乳がん全摘出手術の前後でエクソソームの組成は変化し、術後は健常人と同様の組成となった。がんの検出のみならず、患者の治癒の様子もモニタリングできる 。これらの成果はJournal of the American Chemical Societyに掲載され た。 (2020年3月10日online-Web公開)
血液などと違ってごく少量の「涙」でも測定可能にしたことで試験紙で採取した涙を自動分析装置にかければ短時間で"がん細胞由来"のエクソソームを識別でき、乳がんの有無を判断できるという。
今後は医学部の付属機関の協力を得て、乳がん患者の手術前後の涙を測定することで検査技術の精度などを評価し、2022年度にも体外診断薬として厚生労働省の製造販売承認の申請を目指す。
竹内教授は「病院に行かなくても自分で乳がんのリスクを管理できるので、多忙な日常だけでなく、現在の新型コロナウイルス禍のような非常時にも役立つ」と話す。
今後は事業化に向けて新会社を立ち上げ、製薬会社や検査機関などと連携して検査の普及を目指す。検査費用は1回5000円程度を想定している。
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